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国際情勢混沌で製造業の調達「質」から「量」重視に

2022年9月5日 (月)

産業・一般本年に入りウクライナ情勢や上海ロックダウン(都市封鎖)といった地政学リスクが高まったことで、日本の製造業の「調達」に関する姿勢が大きく変わってきたようだ。調達分野のデジタルサービスを手掛けるキャディ(東京都台東区)の調査でその一端が明らかになった。重要視するポイントが、調達品の「価格」「質」から「量」へと移り、「在庫を持たない」戦略も「在庫の安全確保」へと変化する傾向がみえた。

キャディは、さまざまなメーカーの部品や原材料の調達の悩みに、受発注システムなど独自開発のデジタル技術で応えている。混沌とする国際情勢を踏まえ、ことし8月19-23日に、10人以上の従業員を持つ製造業の購買・調達担当者ら1万8542人にアンケートを行い、自社のサプライチェーンがどんな影響を受けたかを尋ねた。

(イメージ)

それによると、「自社のサプライチェーンに影響を与えた地政学リスク・社会情勢変化」(複数回答)では、回答者の挙げた項目は「ロシア・ウクライナ問題」(66.4%)を抑えて、「中国のロックダウン・操業停止」(73.9%)が最も多かった。輸送機械器具業界や生産用機械器具業界で多かった。中国の自社または調達先の工場の操業停止でサプライチェーンに大きな影響を受けたことが、アンケート結果からも鮮明になった。

ロシア・ウクライナ問題を挙げた人は、輸送機械器具や電子部品・デバイス・電子回路の業界で多かった。両国の産出品には自動車や半導体などの製造で使われるものが多い。

「製品の仕様変更」「調達先の新規開拓」が選択肢に

各企業は部品・原材料の調達で生じた課題にどう対応したのか。対応策の「検討」「実行」「完了」の3段階に分けて聞いたところ、「代替部品への切り替え・仕様変更」「調達価格の値上げに応じる」が3段階とも上位1、2位となり、「仕入れ・加工依頼先の新規開拓」が「検討」「実行」段階で3位と続いた。キャディによると、ここにも異変が読み取れる。「切り替え・仕様変更」や「新規開拓」は従来あまり見られなかった行動といい、異例の調達難に直面した製造業各社が、製品の仕様変更など思い切った措置に踏み切っていることをうかがわせる。

ただ、思い切った「切り替え・仕様変更」「値上げ容認」でも、検討した企業が5割近くあったのに対し、完了した企業は3割を下回っており、困難な道のりがまだ半ばであることも示している。

(イメージ)

製造業者が調達面で重視すること。新型コロナウイルス禍前の2019年の調査では「調達原価の低減」(50.7%)が過半数に達し、最も多かったが、コロナ禍と地政学リスクを経験した今回は「納期順守」(41.8%)がトップとなった。19年に7位だった「調達先・生産キャパシティの確保」(38.6%)も2位に上昇した。「最適な安全在庫の設置」は順位は横ばいの4位だが、回答者の割合は23.2%から34.6%へと増えた。逆に、19年に3位だった「調達先の品質改善」(27.5%)は5位に後退した。これまでの「価格」「品質」から「量」「在庫」へと、重点が移っている。

キャディは、こうした調査結果から、製造業の調達政策が大きな曲がり角に来ているとみる。「調達・購買方針・戦略を見直す必要性」についての問いに対しても、「必要がある」と答えた回答者が部長・工場長クラス以上で91.7%に上った。見直したい観点として挙げられた上位項目は、「仕入れ・加工依頼先の新規開拓」(63.8%)、「調達先の地域の見直し/分散・移転」(40.5%)だった。製造業界で今後、部品や原材料の流れが大きく変わっていくことが予想される。