ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

JR貨物の輸送量向上へ、CO2算定手法など国も支援

2022年11月1日 (火)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「必達目標は25年度に輸送量16%増、JR貨物」(10月21日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス日本貨物鉄道(JR貨物)の輸送量アップへの取り組みが本格化する。国土交通省の有識者会議からの提言を受けて、同社は10月に14の課題に対する取り組みと2025年度までの必達目標を発表し、経営、現場の各レベルで取り組みを進めている。ここでは14課題のうち、政府も予算措置を講じて支援姿勢を示す「CO2排出量削減効果の精緻な算定」と「国際海上コンテナの海陸一貫輸送」について展望する。

(イメージ)

国交省の有識者会議「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」は、学識経験者や物流団体、JR4社、政府4省などのメンバーで構成され、ことし3月から、地球温暖化対策やトラックドライバーの時間外労働規制といった経営環境や社会要請の変化に貨物鉄道輸送がどう応えていくべきかを議論している。7月に公表した「中間とりまとめ」は、JR貨物の事業強化への提言であり、経営に対する株主(国)や外部からの注文という側面もある。JR貨物だけでは対応が困難な課題も多いことから、国交省は同社と歩調を合わせながら政策面でもバックアップしていく構えでいる。

排出量削減効果の精緻な算定必要に

その具体策の一つが、「CO2排出量削減効果の精緻な算定」だ。鉄道輸送がトラック輸送に比べてCO2排出量が少ないことは自明だが、排出量(=トラック輸送から切り替えた場合の削減量)については、まだ精度の高い算定方式が確立されていない。概算では、貨物鉄道はトラックに比べて排出量が13分の1とされるが、例えば、電気機関車とディーゼル機関車の違いや、コンテナと石油タンクといった貨物の違い、積載率などで排出量は変化する。そうした要素を正確に反映する算定式はまだない。

JR貨物も先の必達目標設定に「より精緻な算定方式の構築」を含めているが、国交省もそれを支援するため2023年度に国費で算定方式に関する調査を行う方針を固めた。日本通運(東京都千代田区)が荷主などに提供している輸送モードごとのCO2排出量算定手法「ワンストップナビ」なども参考にしながら、外部機関に委託して調査を行い、結果をJR貨物にフィードバックする。

背景には、2050年のカーボンニュートラルが国際公約となり、トラック輸送から鉄道や船舶への転換(モーダルシフト)をいっそう推進しなければならない事情がある。荷主などの企業にとってもサプライチェーン排出量の「スコープ3」に物流過程の排出量が組み込まれ、投資家や株主からも削減を求められている。貨物鉄道輸送での排出量も概算では済まなくなっていた。

JR貨物は国の支援も得て精緻な算定方式を構築できれば、算定数値を省エネ法による報告や、排出削減量の認証制度「Jクレジット」、ESG金融に活用できるよう、仕組みづくりにも取り組む考えだ。

背高コンテナの鉄道輸送、ニーズを調査へ

一方、「国際海上コンテナの海陸一貫輸送」に関しては、国交省は国際貿易港のある首都圏と日本海側を結ぶ上越線や信越線で、40フィート背高コンテナの鉄道輸送実現を当面の課題と位置付け、JR貨物との連携を進める構えでいる。

(イメージ)

背丈の高い国際海上コンテナは、そのまま貨車に載せてもトンネルや陸橋の下を安全に通過できないため、現状では東北線の東京・盛岡間に輸送が限られている。安全に通過するために必要な低床貨車の開発の遅れもあり、これまで同区間以外で鉄道輸送をするには通常のJRコンテナに中の荷物を積み替える手間がかかっていた。

そうした中で、JR貨物が22年度中に低床貨車3両を導入して合計4両とすることになり、積み替えなしの「海陸一貫輸送」を広げられる可能性が高まってきた。国交省は歩調を合わせ、上越・信越線で国際海上コンテナが問題なく通過できるかどうかの技術的な調査と、新潟エリアなど日本海側の荷主に輸出入や海陸一貫輸送のニーズがあるかを確認する事業性調査を、23年度に国費で行う方針だ。

国際海上コンテナの鉄道輸送も、カーボンニュートラルという国家目標に沿った取り組みであり、それと同時にトラックドライバー不足や残業時間規制による「物流の2024年問題」の克服につなげる大きな目的がある。技術面や事業性のハードルがクリアされると、その次にも日本海側の貨物駅で国際海上コンテナに対応した荷役機械の配備やコンテナホームの延長といった課題が待ち受けている。JR貨物、国交省をはじめ関係機関・団体などには、さらに連携を深め、公共サービスである鉄道貨物輸送の維持・発展に努めることが求められている。(編集部・東直人)

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com