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Professional TALKS/根来諭氏(Spectee)

危機時のロジスティクス維持、勝負は「迅速な覚知」

2022年12月13日 (火)

話題Spectee(スペクティ、東京都千代田区)は、世の中で起こる自然災害・事件・事故などの危機事象について、Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)といったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をメインの情報源として、その発生を覚知して顧客に情報提供しています。

(イメージ)

SNSが登場する前は、危機事象が発生した現場に報道機関が駆け付け、ニュースコンテンツを作成したうえでマスメディアを通じて我々に提供していたため、どうしても知るまでに長いタイムラグがありました。しかし今は一人ひとりが高性能なカメラを搭載したスマホを持つ時代。ある意味「国民総記者」の時代と言えます。SNSに投稿された情報について、AI(人工知能)を活用して収集・解析・整理したうえで、リアルタイムに企業の危機管理担当者や自治体の防災関連部署といった顧客にお伝えしているのが、当社の「Spectee Pro」(スペクティプロ)というサービスです。テレビや新聞で取り上げられないような事象についてもカバーできる網羅性も特徴です。

昨今、物流の要である倉庫での火災が目立っています。下図は2021年1月1日から22年11月30日までにスペクティが配信した倉庫火災についてのグラフです。「件数」はそのまま発生した件数を表しています。また、同一事案であっても規模が大きかったり鎮火まで時間がかかったりした場合には、SNSに多くの情報が投稿されますので、影響が大きい事案については当社からの「配信数」が多くなります。


直近では、22年6月から8月にかけて配信数が伸びていますが、それぞれ6月には高知県のセントラルグループ「メカニカルセンター」、7月にはSBSフレック「阿見第二物流センター」、8月にはアズマロジスティクス「守谷センター」の倉庫で火災が発生しています。ひとつの例として、現場からはこういった臨場感のある動画が届けられます(元投稿が削除された場合には見えなくなります)。

下記は、上述の3件を含め、比較的規模が大きかった9件を日本地図の上にプロットした図です。

(クリックで拡大)

こうした倉庫火災をはじめとした危機事象に対処し、影響を最小限に食い止めることを目的として、BCP(事業継続計画)を策定している会社が多くあると思います。事業を継続するうえでどこに自社のリソースがあり、どのようなリスクが考えられるのか、そして危機事象が発生した場合にどのような体制をとり行動するのか。もちろん、そうしたことを検討し、計画としてまとめておくことが重要であることは言うまでもありません。一方で、実務的には「いかに迅速に危機事象の発生を覚知するか」が明暗を分けるということを指摘しておきたいと思います。

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危機事象が発生した場合、一般的に2つの対応策が考えられます。まずは「現地復旧」。もうひとつが「代替」です。例えば倉庫火災の場合、鎮火後に倉庫のオペレーション機能を復活させるアクションが「現地復旧」に当たりますが、消火がなかなか終わらない(可燃物が多い場合など、倉庫の建物の構造上長くかかることが多い)ケースや、保管物が燃えてしまう場合には、「代替」のアクションをすぐにとらざるを得ません。倉庫機能をすぐに復活させることのできるケースは、小さい火災以外では少ないでしょう。

代替のアクションをとる場合、特にサプライチェーンを阻害するようなケースでは、いかに迅速に代替策を確保するかどうかが非常に重要です。倉庫火災の場合には、代替倉庫をすぐに確保することになりますが、基本的にこれは「早い者勝ちの奪い合い」です。特に冷凍冷蔵保管しなければならない商品を取り扱っていたり、温度湿度を厳密に管理しなければいけない医薬品を扱っているような倉庫である場合は、代替倉庫の確保の難易度は格段に上がります。こうした代替倉庫を見つけたとしても、競合との争奪戦となった場合は、自社に必要なキャパシティを確保するのは運次第であり、料金も特別に高い金額を提示される可能性があります。

もうひとつ、サプライチェーンを阻害する案件で、迅速な覚知が重要であることが分かるケースをご紹介します。

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21年3月にスエズ運河でコンテナ船が座礁し、長期間船の航行が不可能になりました。当社の顧客は、現地に居合わせた人のSNS投稿を伝えることで早く知ることができましたが、欧州のマスメディアが英語でこれを報じたのは発生から数時間後、日本のマスメディアが日本語で報道したのはさらにその数時間後でした。この時点で初めて覚知した会社も多かったものと思います。

もし発生直後に覚知でき、他社と比べて半日の時間的なアドバンテージがあれば、スエズ運河経由の出荷を止めて代替ルートの船便を確保したり、既に出荷してしまっており遅延でペナルティが起きそうな場合には航空貨物輸送に一部を振り替えるなどの対応ができます。倉庫のキャパシティと同じく輸送キャパシティも有限であり、「早い者勝ち」であることに違いはありません。

策定したBCPを真に実効性のあるものにするために、他社に先んじて危機事象を覚知をすることが大切だ、ということを解説させていただきました。自社の物流部門・調達部門またはリスクマネジメントを担当する部署にて、事象の早期覚知を実現する体制の構築をおすすめします。

■根来諭氏 略歴
Spectee取締役COO。ソニーにて、法務・知的財産部門、経営管理部門を経て、グローバルでセールス&マーケティングを担当。中近東アフリカ75か国におけるレコーディングメディア&エナジービジネスの事業責任者を最後に2019年、AI防災ベンチャー企業Specteeに参画。郡山在住時の東日本大震災の被災経験、パリ在住時の同時多発テロ事件へのニアミス、政情不安定な国々でのビジネス経験を元に、企業の危機管理をテクノロジーでアップデートすることに全力を注いでいる。
新刊予定:『シン・危機管理 –企業が”想定外”の時代を生き残るには-』(2023年1月 みらいパブリッシング)
AI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」についてはこちら

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