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物流効率化へ最善の一手は、多様なDXの形示す

2023年5月25日 (木)

話題LOGISTICS TODAYとITmediaエンタープライズ共催のオンラインイベント「物流革新〜人手不足時代のロジスティクス最前線〜」が25日に開催された。物流企業のなかでも革命的な存在である関通、フジトランスポート(奈良市)が、独自の運営法を物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の観点からも紹介。物流DXに寄与するITシステムを扱う3企業が、それぞれDXにおける重要ポイントの解説やサービスの紹介を行った。また、特別講師としてLOGISTICS TODAY客員企画編集委員の永田利紀氏を招き、RFIDが物流現場にもたらす有効性とリスクについて語った。

最初の基調講演では、物流代行サービスや倉庫管理システム(WMS)「クラウドトーマス」を手がける関通から、専務取締役の松岡正剛氏が登壇。関東関西で20拠点、延べ8万坪の物流拠点を持つ同社は、限られたエリアに物流施設を集積させる「ドミナント戦略」を推進。toBやtoC向けにさまざまな商品を扱うなかで、出荷量が季節などで増減する「波動」の対応に重点を置き、人員の配置をフレキシブルに動かしやすい仕組みを整備した。

▲関通・専務取締役の松岡正剛氏

これからの物流現場で大事なこととして、「働く人がラクであること」「生産性が高いこと」「仕事が簡単であること」――と3つのポイントを挙げ、これらこそが物流現場のIT化、DX化の意義であると主張。「3つのポイントを念頭に庫内物流を改善しなければ、今後ますます増える荷物量に対応するのは難しくなる」との見解を示した。

現場のフローで最後に手を動かす人に「いかに簡単に仕事をしてもらうか」を念頭に物流現場をコーディネートしているといい、「現場作業を簡単にすることで、規律の徹底や、チームワークを固くする考えが現場に生まれ、結果的に現場改善につながる」と話し、DXによって人に余力をつくり出すことが本当の現場改善につながると締めくくった。

続くセッションでは、クラウドマニュアル作成システム「Teachme Biz」(ティーチミービズ)を開発するスタディスト(東京都千代田区)から、Teachme Biz事業本部営業部インサイドセールスグループユニットリーダーの本間遼氏がオンライン登壇。DXによる生産性向上を妨げる要因として、「業務の属人化」による影響が大きいと主張した。現場教育の面でも属人化は避けて通れず、作業者によって業務品質が異なる事象が起き、現場レベルの小さな歪みがやがて会社全体の生産性低下を招く大きな歪みとなることを指摘した。

▲オンラインで登壇したスタディストの本間遼氏(右上)

ティーチミービズは動画や画像を用いたマニュアル作成ツール。業務の標準化にはマニュアルが必須だが、作成には時間がかかり、更新されず放置されることもしばしば。作成してもビジュアルに乏しいものは開かれないなどの問題もあった。ティーチミービズは画像や動画を使い、統一されたフォーマットで誰でも同じレベルのビジュアルに優れたマニュアルが作成できることことから、マニュアル作成の属人化が防げる点をアピールした。

特別講演で登場したのはLOGI Terminal(大阪市北区)代表でLOGISTICS TODAY客員企画編集委員の永田利紀氏。物流現場にRFIDを導入する際に立ち止まって考えるべきことをベースに、RFIDの導入状況や、導入シーンごとの問題点について話した。

▲LOGI Terminal代表の永田利紀氏

RFIDの利便性として、「一瞬で感知できる」「大量に感知できる」ことなどを挙げたが、一方で逆説的に「感知しないことが苦手」「1個ずつ順番に感知することが苦手」であるマイナスの性質も訴えた。また、人間の目を使った作業と相性が悪いことなども挙げ、現場に導入する際は現場の規模や性質を念頭に、「自社の物流業務効率化にどのように貢献するのか」を予測することが大事だと主張した。

また、RFIDは「簡単に導入できるものではない」ことを強調。理由としては、マテハン機器の導入が必須条件となることや、商品の管理に必要なマスタが製造や物流、営業などさまざまなシーンで異なるケースが多いため、全面的な作り替えが発生することを挙げた。一度振りかざすだけで大量のコードが読み取れるRFIDは魅力的に映るが、物流効率化の本質から外れては意味をなさない。永田氏の講演は、「RFIDの導入=効率化」という安直な考えに警鐘を鳴らしたものだった。

続いてはClipLine(クリップライン、千代田区)取締役COOの金海憲男氏が登壇。DXによる課題解決に踏み切るも成果が得られない事業者に対し、さまざまな視点からDXをあらためて考察した。「人手不足を改善するDX」に併せ、疎かになりがちな「人の付加価値を高めるDX」を両輪で進めることが重要と説いた。DXの失敗例として目先の利益を追求しすぎることを挙げ、それらは学習や教育、業務プロセス、顧客体験価値の上に成り立つものであり、その土台部分を改善することの重要性にも触れた。

▲ClipLine取締役COOの金海憲男氏

同社サービスとして、組織実行力を高める動画型マネジメントシステムを紹介。現場OJTや各種研修に有効活用されているもので、経営者や本部からの通達事項を現場にダイレクトに伝え、現場の腹落ちを促進させる。金海氏は「人を置いてきぼりにしない」「改善の到達点を理解させる」させることがDXの実行において必要だとし、物流における専門家など外部リソースを積極的に活用することの重要性も説いた。

基調講演2本目は幹線輸送会社のフジトランスポートから松岡弘晃社長が登壇、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が進行役を務めた。2008年のリーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大などの危機に直面するなか、同時期に大規模な投資を敢行する「逆張り」スタイルで事業を拡大した松岡社長が、「儲からない」と言われていた長距離輸送で成功した秘訣を、社内DXや人材確保の面から語った。

▲(左から)LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長、フジトランスポートの松岡弘晃社長

社内DXでは、各事業所の経理計算やドライバーごとの給料計算を本社で一括でできるモールシステムを自社開発。グループで共通のシステムを使うことで、オフィス業務を効率化することに成功した。GPSシステムも採用し、自社ドライバーが現在どこにいるかを可視化。これを荷主にも共有することで、荷主は自らトラックの位置を把握できるようになり、問い合わせが減ったという。

同社が注力している採用面にも言及。ホームページには具体的に「何年後どうなっているか」ビジョンを示すことが重要だと説いた(同社は2035年に5000車両、200拠点を掲げている)。また、所属する10数名のユーチューバーによる活動が効果的な求人につながっていることを紹介。同社のTikTok(ティックトック)は8万6000人にフォローされ、そこから門を叩いてくる若いドライバーもいるようだ。

最後は日本ストラタステクノロジーから事業開発部の香月千成子部長が登壇し、「エッジコンピューティング」を解説した。エッジコンピューティングとは、デバイスのデータ処理サーバーを分散配置するコンピューティング手法で、倉庫作業の自動化、省人化を促すシステムの安定的な稼働を保守する。セッション内で行ったエッジコンピューティングに関する認知度調査では「聞いたことがない」との回答が50%以上となり、まだその実態が浸透していないという意味でも、今回のセッションは効果的であったと言える。

▲日本ストラタステクノロジー事業開発部の香月千成子部長

セッション内では、エッジコンピューティングが物流倉庫の棚卸しやオペレーションの自律化、病院内物流などで使用されている具体例を挙げた。同社のシステムとしては「Stratus ztC Edge」を紹介。稼働中に故障したりプラグを一時的に抜いたりしても、仮想化と冗長化により、24時間安定して業務を止めないデバイスとして稼働し続ける点を強調した。