話題ことし一年を通じて「2024年問題」対応のなかでも特に大きなテーマとされたのが、「荷主の意識、行動の変容」であった。荷主を頂点とする物流構造が「多重下請け」「不適切な料金体系」「運転手の作業範囲の曖昧化」などの物流危機の要因となり、構造改革を荷主主導で行うことの重要性が再認識された一年であったとも言えよう。
トラック運転手の働き方を見直すには、運送事業者のみならず、荷主サイドの改善基準告示の理解、順守こそが必要との観点から、22年に厚生労働省が組織したのが「荷主特別対策チーム」である。物流課題の解決においては、運輸行政の立場から、あるいは働き方改革の立場からと、省庁横断的な連携が必要となるが、荷主特別対策チームはまさに、トラック運転手の労働環境改善のために取り組むべきことを、荷主に丁寧に説明し実行を促す役割を担い、必要に応じて国土交通省トラックGメンとも連携しながら、啓蒙活動を続けている。
12月15日に開催されたLOGISTICS TODAY主催イベント「物流2024年問題対策会議」にも、厚生労働省東京労働局労働基準部監督課の地方労働基準監察監督官の國府田純一氏と、同特別監督官の佐々木悠輔氏が登壇、荷主特別対策チームとしての現在の取り組みについて説明した。
来年に向けて荷主の意識さらに行動変容へのさらなる取り組みを促すべく、イベントの模様を再録して紹介する。
──改正改善基準告示の施行となる24年4月1日まで、残りわずかとなりました。改めて、東京労働局の荷主特別対策チームの活動について、教えてください。
國府田氏 22年12月23日付けで自動車運転者の労働時間などの改善のための基準、いわゆる改善基準告示が改正されました。トラック運送業は、他の業種に比べて長時間労働の実態にあり、過労死などの労災支給決定件数が最も多い業種となっていることから、トラック運転者の長時間労働の是正を含めた働き方改革を一層積極的に進める必要があります。
一方で、トラックドライバーの方の長時間労働の要因のなかには、取引慣行など個々の運送事業者の努力だけでは長時間労働の改善の見直しが困難なものがあるため、22年12月23日付けで東京労働局に編成した「荷主特別対策チーム」が、発着荷主などに対して長時間の荷待ちを発生させないことなどについての要請と働きかけを行うこととしました。
荷主特別対策チームは、労働局に配置されている荷主特別対策担当官を中心に、トラック運転者の労働条件の確保・改善に知見を有する労働局及び労働基準監督署のメンバーにより編成しています。
──特に荷待ち時間改善が重要となりそうですね。改善基準告示の周知に向けた取り組みを続けているということですが、改善基準告示に対しての荷主の声、改善基準告示の理解度の現状をどのように感じているか教えてください。
佐々木氏 中小企業を中心に、まだ改善基準告示や上限規制の内容を知らないという荷主企業もありますので、引き続き、しっかり周知していく必要があると考えています。
また、大手の荷主企業であっても、発注担当者など担当者レベルまで周知が行き届いていないと感じることもありますので、改善基準告示などが順守できないような発注がなされないよう、発注担当者にもこれらの内容が周知されるようお願いしているところです。
──今後の法令順守に向けて、現場の実情から今後懸念されるポイントなど教えてください。
國府田氏 荷主企業の一部には、荷待ちが発生していることは承知しているものの、その荷待ちがトラックドライバーの長時間労働につながっているという認識が少し薄いように感じます。
このため、トラックドライバーの方が他と比べてどのくらい長時間労働となっているのかということや、トラックドライバー不足が深刻化すると「物流」が維持できない状況になることなどを丁寧に説明し、荷主企業においても、長時間の荷待ち改善に向けて、ぜひ前向きにご対応いただきたいということをお願いしています。
労働局や労働基準監督署の要請に対し、多くの荷主企業の担当者の方からは、「荷待ち時間の改善に向けて何ができるか社内でも検討したい」との前向きな回答をいただいている一方で、「長時間の荷待ちの改善のために具体的にどうすればいいか分からない」という方も少なからずいらっしゃいますので、労働局や労働基準監督署の担当者から長時間の荷待ちを改善した好事例などを説明して取り組みへの後押しをしています。
──24年4月を迎えるにあたって、荷待ち時間削減など、現状どの程度まで改善されているという認識でしょうか。
國府田氏 各業界における荷主企業においても、物流危機に対する問題意識を強く持っているところですが、取り組みについては、まだ道半ばではないかと考えています。
長時間の恒常的な荷待ちは、トラックドライバーの長時間労働の要因となりますが、長年の取引慣行などの面から、トラック運送事業者などの個々の事業主の努力だけでは改善することが難しい部分であると考えています。そのため、行政としても、荷主企業の方に対して、長時間の荷待ちの改善に向けた対応をお願いしていく要請を行う、そして、改善を後押しするために好事例の紹介などのアドバイスをさせていただく必要があると考えています。
厚生労働省では22年度から委託事業として、「トラック運転者の長時間労働改善特別相談センター」を設け、運送事業者だけでなく、荷主企業の方からのご相談に対応するほか、労務管理・物流改善の専門家によるコンサルタントも行っていますので、是非とも活用いただきたいと思います。
そのほか、厚生労働省ホームページ内に「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」を設けており、このサイトの中にトラック運転者の改善事例を掲載しておりますので、参考としていただければと思います。
──法令順守に向けて、荷主サイドの取り組みに具体的な変化、または変化の兆しはありますか? どのような形で変化、改善が見えるのか、荷主の具体的な取り組み事例などあれば教えて下さい。
佐々木氏 新聞やニュース、業界誌など各マスコミにおいても2024年問題としてクローズアップされていることから、荷主企業においても対応すべき喫緊の課題であるとの認識が共有されてきたこともあり、荷主企業側における取り組みにも変化が見られます。
荷積み、荷下ろし時間の短縮例を挙げると、荷主企業ごとにバラバラであった伝票を統一したことにより、検品作業の効率化が図られたといったことや、段ボールなどの外装やパレットの標準化により、荷役作業の効率化やパレットなどへの積載効率向上によって、時間が短縮されたといったものがあります。
このほか、中継輸送の導入によって、トラックドライバーの負担軽減や人手不足緩和の取り組みを図っている事例などもあります。
──パレット化や中継輸送など、物流改革の重要な取り組みは、今後も注目ですね。さて、厚労省ではメール窓口を設けて、情報提供も呼びかけていらっしゃいます。情報メール窓口に関して、運用の状況などを教えてください。
佐々木氏 全国の状況になりますが、22年12月から23年10月末時点で、情報メール窓口にこれまで500件ほどの情報が寄せられています。発着荷主などで発生している恒常的な長時間の荷待ちの情報などが寄せられており、荷主要請を行う際の参考情報としています。
──24年問題解決に向けた、国交省トラックGメンの「働きかけ」への参加など、国交省との連携について現状の取り組みを教えてください。
國府田氏 国土交通省、地方運輸局・運輸支局に配置されたトラックGメンが荷主企業などに対して実施する働きかけなどに、労働局の荷主特別対策担当官が参加し、改正された改善基準告示の内容や時間外労働の上限規制などについて説明しています。
荷主企業の担当者の方からは、「荷待ち時間の改善に向けて何ができるか社内でも検討したい」との前向きな回答をいただいているところです。
国土交通省のトラックGメンと連携することで、荷主企業においても恒常的な長時間の荷待ちの改善を図る必要があるとの認識をより一層強く持っていただいたのではないかと思います。
──「荷主に対する関係行政機関との合同ヒアリング」について、現状お聞きできること、読者にお伝えできることはありますでしょうか?
國府田氏 一般論として、長時間の恒常的な荷待ちは、トラックドライバーの長時間労働の要因となること、長年の取引慣行などの面から、トラック運送事業者などの個々の事業主の努力だけでは改善することが難しいこと、荷主企業においても、持続可能な物流の実現のためには、長時間の荷待ちの改善に向けた対応が必要であること等の要請を行うとともに、長時間の恒常的な荷待ちの改善を後押しするため、具体的な好事例の紹介などのアドバイスもしています。
荷主企業の皆様におかれましても、恒常的な長時間の荷待ちの改善に努めていただくよう、ご協力をお願いします。
──あらためて、「今」物流事業者が心がけるべきこと、取り組むべきことは何だとお考えですか。
國府田氏 トラック運送事業者におかれましては、拘束時間や休息期間などについて、現行の改善基準告示よりも規制が強化されることになりますので、改正後の改善基準告示に対応できるよう、ご対応、ご準備いただくとともに、トラックドライバーの時間外労働についても年960時間と上限規制が適用されることになりますので、長時間労働削減に向けた取り組みを通じ、労働時間管理の適正化に努めていただくようお願いします。
また、繰り返しになりますが、長時間の恒常的な荷待ちは、トラックドライバーの長時間労働の要因となっています。
長年の取引慣行などの面から、トラック運送事業者などの個々の事業主の努力だけでは改善することが難しい部分であることから、荷主企業の方々におかれましても、トラックドライバーの長時間労働の実態や社会インフラである「物流」の現状をご理解いただいた上で、当事者でその慣行を見直すよう努めていただくことが大変重要であると考えています。
──トラック運転手の労働長時間化は古くからの課題であるだけに、今後も引き続き粘り強い活動が必要ですね。今後も改善基準告示の円滑な運用に向けて、ご活躍を期待しております。さて、今後の改善へ向けたロードマップ、スケジュールなど、あらためて来年4月1日時点であるべき「物流業界の働き方」をお聞かせください。
國府田氏 時間外労働の上限規制および改正された改善基準告示の適用まで残り3か月となっています。その円滑な適用には、運送事業者の皆様、荷主企業の皆様のご理解、ご協力が必要不可欠です。
東京労働局では、23年度から「自動車運転者働き方改革推進集中対策」を策定し、労働時間に関する法制度や支援策などの周知および人材確保支援を含めたきめ細やかな各種支援を行っています。
また、発着荷主などに対し、あらゆる機会を捉え、長時間の恒常的な荷待ちを発生させないよう努めることなどについてご理解、ご協力を求める要請を行っています。
東京労働局荷主特別対策チームでは、長時間の荷待ちを改善した多くの事例がありますので、長時間の荷待ちの改善のために具体的にどうすればいいか分からないといった方は、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
トラックドライバーの働き方改革という、荷主・運送事業者共通の目標のために、正しい情報の提供や取り組みの方法をサポートしていくことこそが、荷主特別対策チームの目指すべきところであることがわかる。今後も、改正改善基準告示の円滑な運用に向けた官民を超えた一丸での取り組み強化に期待したい。