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多様な業種、事業規模で、経営戦略の現実的な選択肢となる自動倉庫導入

社会的要請へ物流業界からの回答・自動倉庫

2024年8月26日 (月)

話題自動倉庫といえば、据付型の産業機器のように大規模事業者だけが導入可能なもの。もはや、その考え方は思い込みに過ぎないのではないだろうか。

EC(電子商取引)の拡大など、物流オペレーションのあり方大きく様変わりするのに伴い、自動倉庫と呼ばれるソリューションのバリエーションも増大。ユニットで導入可能なバゲット型自動倉庫なども多数紹介され、決して大企業だけではなく、中小企業や成長企業にとっての選択肢となり得るシステムも登場している。まずは小さな規模感での導入から、事業の成長や変化に合わせて適宜拡張するなどの戦略も現実的な選択肢となってきた。

高密度保管、スピードアップ、小空間活用など選択肢も多様化

例えば、小型化・省スペース性能、超高密度保管に優れ、限られたスペースや既存の空きスペースを有効活用して圧倒的な生産性の向上が実現できる自動倉庫は、大きな作業現場スペースを使うことができない中小企業にこそ必要と言えるのではないだろうか。

また、倉庫の拡張や生産性の向上など、社会的情勢や市況の変動に応じた柔軟な運用変更に対応できることを強みとするシステムも増えている。ストレージ部分を簡単に増設できたり、ロボット数の変更などで繁閑のギャップを調整できる機能など、最適なオペレーションへの見直しを、簡単に、現場の稼働を止めることなく実施できることは、急速な事業拡張など、成長企業にとっての商機を逃さない施設運用では重要な機能となる。

ユニット式の自動倉庫以外でも、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)の種類も増えており、ロボットの棚搬送によるGTP(Goods to Person)現場構築の選択肢も広がる。こうした自動化現場市場の概況などは、同時公開のカオスマップなども参考にしてもらいたい。

もちろん、スループット能力の向上など、機能面の改修が続けられていることもユーザーにとっては導入に踏み切るきっかけの1つとなるだろう。搬送ロボットなどハード面の性能向上のみならず、制御ソフトによる最適ルート設定能力などがブラッシュアップしていることなど、かつて検討の俎上(そじょう)に上がったソリューションを「再検証」することも必要になっている。また、すでに自動倉庫を運用している事業者のなかにも、バブル期投資で耐用年数が超過した設備のリプレースなどが必要となっている現場も多いはず、以前の導入当時とは違うソリューション、システムの進化など、しっかりと情報を更新しておく契機とするべきだろう。

補助金などの後押しも有効利用し、物流効率化での成果を

物流関連2法の改正に伴い、すべての物流関連事業者に効率化の義務が課される規制的措置の導入とともに、令和5年度補正予算などによる補助金事業なども推進している。

補助金や助成金のサポート事業を手掛ける事業者に話を聞くと、「ことしから中小企業省力化投資補助事業も新設され、自動倉庫を含めた倉庫内の自動化機器の導入も対象となっていることから、物流関連の事業者からの問い合わせも増えている」と語る。

自動倉庫を対象とした補助金では「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」なども活用の選択肢になるとするが、申請やレポートの難易度、採択率、補助金額、申請受付期間などそれぞれに特色があるといい、「業務全般の省力化、効率化が求められるなかで、自力で適切な補助金を見つけ出し、申請作業するのも大きな負荷がかかるはず。投資したいものと、その金額を専門家に具体的に提示して、適切なアドバイスを受けるというのも、事業成長における戦略の1つと言えるのではないか」と指摘する。

また、システムベンダーが補助金申請のサポートなどをサービスに取り入れているケースも増えているので、導入を想定している具体的なソリューションが明確ならば、その窓口企業や販売代理店に相談してみることも自動倉庫導入では大切なアプローチと言えるだろう。

もはや自動化は必然、どんな自動化、どこまでの効率化を目指すか

日本ロジスティクスシステム協会の調査では、2022年の自動倉庫市場は、前年度比17.9%増、なかでもECに対応する小物や不定型の商材の取り扱いに優れるバケット式(ケース式)自動倉庫の分野では46.7%増の820億円以上の市場の成長を見せ、普及期と位置付けられている。

ECの市場規模が右肩上がりで伸び続け、22年の物販系分野のBtoCのEC市場規模は13兆9997億円と、前年比5.37%の上昇を記録。すべての商取引金額におけるEC市場規模で見ると、物販系分野のBtoCでのEC化率は9.13%で伸長を続けている。貨物の小口化や個別化が進み、配送件数も1990年度の3日間の調査期間中は1万3656件だったのに対し、21年の調査では2万5080件と2倍近くに増加しているなど、庫内業務はますます煩雑化している。

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多品種、多頻度小口化のオペレーション、在庫保管、BtoCの個別配送、適正在庫の保管、返品対応など、その対応も複雑化し、さらに今後、現状ではまだEC化率の低い食品系などの伸長や、スマホの利便性向上もEC利用を後押しする要素となり、物流拠点においてはそれに対応する機能強化が求められている。

また、労働人口の減少で促されることになるのは、女性や高齢者、外国人労働者の活用であり、スポットワーカーなどの運用も重要な戦略となるだろう。これまでの属人的な現場を脱却し、多様な人々が、多様な働き方で作業できる現場作りこそが重要となる。24年問題を契機として、倉庫現場の効率化を進めるソリューションも、各工程ごとに多数提案されている状況である。

あるシステムベンダーは、「自動化投資への抵抗感がない製造業では、パーツの多品種少量化や長期保管の必要性など、物流以上に保管スペースの確保が課題となっているため、自動倉庫の設備投資においても先行している状況」だと言い、製造業での導入事例から、物流業界での活用が促されることも予想される。

自動倉庫導入は、こうした課題対応におけるもっとも有効な解決策であることは間違いない。将来の成長を見据えて、もはや各工程の部分最適だけでは問題を解決できず、倉庫内工程のできるだけ広い領域をトータルに効率化し、最適化を実現する自動倉庫は、事業戦略での合理的な判断となりつつある。「生産性の向上」「省人化」「人的ミスの排除」「保管スペースの有効活用」「サービス品質の向上」など、複雑化とスピードアップが求められる物流環境における自動倉庫運用のメリットは極めて大きく、限られた人材を安定して雇用することにも貢献するはずだ。

物流現場の労働単価上昇は社会的要請、人件費リスク顕在化への備えを

日本の物販系EC化率9.13%に対して、世界のEC化率は22年度19.3%と推計されており、日本とは大きな開きがある。なかでも世界のEC化率を押し上げているのは中国で、22年度の国別EC市場シェアでは50%以上と、もうひとつのEC先進国アメリカの18.4%と比べても圧倒的であり、今後もEC市場の拡大や、ECを事業基盤にした企業の成長が予想される。EC先進国の中国企業による、自動化システムでの日本市場参入も活発化しており、ユーザーにとっては機能や価格面など選択肢の1つとして定着している状況だ。

▲中国スタートアップChinoh.AIの自動搬送ロボット

また、欧米では人件費の増加により、設備投資の回収期間が1-3年と短くなっていることも、自動倉庫需要を後押しする形となり、機能のブラッシュアップや低価格化への反映も期待される。日本で今後、欧米並みの回収期間となるまでにはまだ時間がかかるとはいえ、人材確保難や作業量の拡大と合わせて人件費リスクへの準備を進める戦略も、持続的な成長を見据えた現実的な対策として真剣に向き合うタイミングと言えるだろう。

社会インフラとしての物流維持に向けては、もはやトラック運転手や倉庫作業者など物流業界の現場労働者の賃金水準、労働環境の改善に、事業課題として取り組むことが社会的要請である。宅配事業の倉庫作業者が、庫内作業環境の改善を求めて訴えを起こすなどのニュースも報道されている。夏場の40度を超える現場の改善や、空調服の支給を求めて事業者本社前でアピールしたと報道されること自体、企業にとっては大きなマイナスであり、当然、そうした環境整備などのコストや、現場作業者の発言力が大きくなっていくことも経営リスクとする準備が必要だ。補助金などを活用して他社に先駆けた攻めの投資に取り組む事業者が、会社の規模感を問わず増加しているというのも、人材確保の難しさと合わせて先手を打つ企業が増えていることの証明だろう。

大きな投資であるが故に、その導入にあたっては事業課題や、改善点をしっかりと把握することが求められるのが自動倉庫である。それだけ、経営者が企業の未来像をしっかりと見据えての足場固めという過程を経ることが必須となる。自動倉庫があるからできることは、その環境を整えられない事業者とは圧倒的な差がつくことだけは間違いない。