ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

自動化前のDXの選択肢、屋内測位システム

2025年1月6日 (月)

話題倉庫の自動化にはイニシャルコストがかかる。国内での導入事例もそれほどなく、不安要素は多い。自動化に着手したものの、現場とシステムがうまく噛み合わず、むしろ効率が悪化したという失敗例も耳にする。とはいえ、アナログな手法での効率化には限界がある。

Guide Robotics(ガイド・ロボティクス、東京都千代田区)は「効率化を図りたいが、自動化のハードルは高い」という現状の打破に挑む。同社を共同で創業した最高技術責任者(CTO)アヴィーク・ダース氏と、最高経営責任者(CEO)の宇城学氏に、課題解決のヒントを聞いた。

▲(左から)Guide Robotics共同創業者の宇城学氏、アヴィーク・ダース氏

人のオペレーションを効率化する

▲Guide NS

Guide Roboticsが提供する「Guide NS(ガイドエヌエス)」は、屋内測位システムの一種だ。本体はフォークリフトや台車に取り付け可能なサイズのデバイスで、カメラやセンサーから得た情報(データ)を座標データに置き換える。これによりGuideNSは庫内の地図を自動作成するほか、設置したフォークリフトの位置や速度、滞留時間などを随時記録する。

同機をフォークリフトなどに取り付ければ、いつ、どこで、誰が、どのくらい作業をしているかが一目瞭然になる。現状の無駄を洗い出し、人のオペレーションを効率化するのに役立つ。自動化を図る場合と違って、既存の機器を入れ替える必要はまったくない。

庫内の情報はカメラから取得するため、GPS(衛星利用測位システム)が届かない屋内でも問題なく稼働できる。Wi-Fiやビーコンなどの電波を利用した機器と比べて、精度が高いことも強みの一つだ。

▲Guide NSの強み(クリックで拡大)

データの活用方法は無数にある。フォークリフトで速度を出し過ぎている運転者がいれば、注意を促すことで事故のリスクを減らせる。誰がどこに何を置いたのかがすぐに分かるため、庫内で荷物が行方不明になるといった事態も避けられるだろう。庫内の動きを管理できれば、それに合わせたトラックの入出庫など、前後の工程も効率化できるかもしれない。さらにデータの活用次第では、フェアな価格交渉も可能になる。

「これまで物流の現場では、荷物の数によって価格が決まっていた。しかし、数は少なくても手間がかかる荷物もあり、契約金額が必ずしも妥当とは限らない。Guide NSを使えば、かかった時間を根拠にフェアな交渉ができる」と宇城氏。情報の透明性が上がれば、双方が納得できる価格を探ることもできる。

建設現場などへの横展開も視野に

宇城氏とアヴィーク氏は、日本とアメリカを行き来する仕事を通じて出会った。営業職だった宇城氏と、アヴィーク氏の専門であるロボティクス分野の知識を融合することで、Guide Roboticsの構想が生まれた。

両氏にとってなじみ深い場所だったことに加え、他国と比べて物流が抱える課題が大きかったことから、両氏は日本での創業を決めた。日本と違い、アメリカは人手不足を移民で補える目算がある。また、アメリカでは施設へのカメラ導入を嫌う作業員が多かった。

2020年に創業したが、世界中にコロナが蔓延。アヴィーク氏が来日することも叶わず、営業をしたくても物流施設への訪問や立ち入りが認められない。最初の1年はほとんど何もできずに過ごす羽目になってしまった。

資金調達にも困難がつきまとう。当時の物流業界には「効率化といえばロボット」という風潮があり、人の効率化を図るGuide NSはなかなかVC(ベンチャーキャピタル)の支持を得ることができなかった。顧客の反応も似たようなもので、「なぜ今さら、人のオペレーションを効率化しなくてはいけないのか」と問われることも多かったという。しかし、1年も経つと風向きが変わってきた。思うように自動化が進まない現実を前に、物流現場の“人”に再び目を向ける顧客が増えてきたのだ。

このような現状を踏まえて、アヴィーク氏は「車は運転補助の技術を経てから、自動化を目指している。倉庫も同じで、いきなり自動化するのは難しい。Guide NSで人の効率化を進めておけば、将来の自動化もスムーズに行えるのではないか」と分析する。

一方、宇城氏は「フォークリフトを数十台使っている現場では、1台当たりの作業時間を30分短縮するだけでもコストメリットは非常に大きい。まだまだ人にしかできない仕事も多いなか、人の生産性を上げることが今後のトレンドになる」と力説する。

両氏とも倉庫作業を人が主導する時代がしばらく続くと確信している。

キャリアを生かして、後に続く人のお手本に

Guide Roboticsの目標について、宇城氏とアヴィーク氏は「グローバルカンパニーになること」と口をそろえる。今後は海外展開を視野に入れ、国際色豊かな人材の確保・育成を目指す。また、いずれは物流のみならず、建設現場やトンネル内作業などでも、同社の技術を役立てたい考えだ。

今後の展望について、宇城氏は「スタートアップは若い人の専売特許ではない」と言葉に力を込める。「アメリカだと、40代以上でもキャリアを生かして起業を目指す人が多い。日本ではスタートアップは若い人のものという風潮が強く、バイアスがかかっていると感じる。優秀な人が自ら活躍しないのはもったいない。後に続く人には『こんな私でもできる』ことを証明して、お手本になりたいと思っている」(宇城氏)。

「Guide Robotics」ホームページ