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双日テックイノベーション 調査を武器に「対話」を始める時

貿易DX阻む「見えざる壁」データが示す時限爆弾

2025年7月29日 (火)

話題トランプ関税の再来、中東情勢の緊迫化など、地政学リスクがグローバルサプライチェーンを絶え間なく揺さぶる現代。多くの日本企業がサプライチェーンの強靭化を経営課題として認識する一方で、その足元では、より深刻で構造的な問題が静かに進行している。それは、国際物流の現場に深く根付いた「アナログな貿易業務」の限界だ。

この課題の深刻さを浮き彫りにしたのが、双日テックイノベーションが実施し、2060人もの実務者から回答が寄せられた「貿易業務に関する調査」である。この調査結果は、多くの企業が依然として電話、ファクス、そしてExcel(エクセル)といった旧来のツールに依存している実態を赤裸々に示している。

しかし、問題の本質は単なる非効率性ではない。調査データが突きつけたのは、貿易実務を担う人材の年齢構成の歪みと、それに伴う「知の継承」の断絶という、事業継続性を揺るがす時限爆弾だ。これは「2030年の崖」とも言うべき危機であり、本稿では、この調査結果を基に、日本企業の貿易業務に迫るリアルな危機を深掘りし、その解決策を探る。

データが示す時限爆弾「2030年の崖」

▲調査回答者の年齢構成

今回の調査で最も衝撃的だったのは、回答者の年齢構成だ。全体の7割超が40歳以上で、最多は60代以上(22%)という結果だった。白書の企画担当者は、「貿易業務が法規制や商慣習の深い理解を要する専門性の高い業務であることの裏返しでもある」と分析する。長年の経験と勘に支えられてきたベテラン層が、今もなお現場の中核を担っているのだ。

しかし、この事実は、裏を返せば極めて大きなリスクを内包している。今後数年のうちに、彼らが定年退職を迎えることで、組織に蓄積されてきたはずの膨大なノウハウが一気に失われる「2030年の崖」が目前に迫っていることを意味する。

調査では、非効率だと感じる点として「作業の属人化が進んでおり、引き継ぎや教育に時間がかかる」(36.7%)という回答が、「手作業での入力作業が多い」(39.6%)に次いで2番目に多かった。この数字は、多くの現場で知識の継承が仕組み化されておらず、個人のスキルに依存しきっている危険な状態を示唆している。

▲貿易業務の「非効率ポイント」の調査結果

なぜ変革は進まないのか?現場と経営の根深い断絶

現場担当者の85%以上が、何らかの業務を「自動化したい」と渇望しているにもかかわらず、実際に自動化ツールを導入済みの企業はわずか7.8%。この巨大なギャップはどこから生まれるのか。取材に応じた同社のカスタマーサクセス担当者は、現場のリアルな声として「今までのやり方の方が断然速い、という考えが根強い」と指摘する。目の前の膨大なタスクをこなすためには、新しいツールを学ぶ時間的・精神的余裕がなく、慣れ親しんだアナログな手法に頼らざるを得ないのだ。

一方で、経営層や管理職は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を認識しつつも、短期的な投資対効果を求めるあまり、長期的な視点での投資判断に踏み切れないケースが多い。「システムを導入したら、何人分の工数が削減できるのか?」という問いが先行し、属人化の解消や業務品質の安定化といった、将来の事業継続性に直結する価値が見過ごされがちだ。

この現場と経営の意識の断絶こそが、変革を阻む最大の壁となっている。現場は日々の業務に忙殺され、経営層は現場のリアルな痛みや将来のリスクを十分に理解できていない。このままでは、ベテラン層の退職と共に現場が立ち行かなくなる未来は、避けられないだろう。

▲貿易業務の自動化ニーズ(複数回答可)に関する回答。全体の85%以上の回答者が、何らかの業務を自動化したいと答えた。

デジタル化は「事業継続」のための投資

この膠着状態を打破するために必要なのは、マインドチェンジだ。貿易業務のデジタル化は、単なるコスト削減や効率化の手段ではない。それは、「事業継続のための投資」である。

取材に応じた境野真由美氏は、「ツールを導入することで、退職や人員の入れ替わりがあっても、一定のレベルを担保して業務の引き継ぎができる。誰がやっても同じ結果になることが重要」と語る。

デジタルプラットフォーム上で業務プロセスを標準化し、過去の取引データを一元管理することで、これまで個人の頭の中にしかなかったノウハウは、組織の共有資産へと変わる。新しく入った担当者でも、標準化されたプロセスと過去のデータにアクセスすることで、早期に戦力化することが可能になる。これこそが、「2030年の崖」を乗り越えるための唯一の道筋だ。

変革の第一歩は「客観的なデータ」から

では、現場担当者や管理職は、この変革をどう進めればよいのか。その答えは、双日テックイノベーションが公開した「貿易業務白書 2025」の中にある。この白書は、現場の課題感を経営層に伝えるための「客観的な武器」となり得る。

「業界全体の7割以上が40歳以上で、知識継承が課題となっている」「85%が自動化を望んでいる」──。こうした客観的なデータを用いて、自社の課題が業界共通の構造的な問題であることを示せば、経営層への提案の説得力は格段に増す。

アナログ業務の限界が露呈し、グローバルサプライチェーンの再構築が急務となる今こそ、自社の足元を見つめ直し、未来への投資としてデジタル化への一歩を踏み出すべき時だ。未来への一歩は、まず正確な現状把握から。下記のリンクからレポートをダウンロードし、貴社の業務改革の羅針盤として、ぜひ活用してほしい。

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