ロジスティクス本誌LOGISTICS TODAYが主催する「物流広報連絡会議」第1回イベントが29日、会場参加とオンライン視聴によるハイブリッドで開催された。
物流業界、特に中小の運送業で「広報」部門に重きを置いている事業者は多くないだろう。企業広報の意義への理解も乏しく、総務担当者などが片手間で対応するといった実情ではないか。
本誌LOGISTICS TODAYは、物流業界こそ、広報・PRの視点からの「発信力」が必要と考える。物流広報連絡会議は、特に人材採用や危機管理が物流課題となるなか、広報による変革を目指す活動支援として立ち上げたもの。初回となる今回は、「人材採用」「危機対応」「現場発信力」をテーマに、福岡正洋氏(IR・広報研修講師、元SBSホールディングスIR・広報部長)、金子雅俊氏(ロジネス取締役)、原田秀美氏(東京海上スマートモビリティ社長)がゲストとして登壇、それぞれの専門領域における広報の役割について講演、本誌LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長がモデレーターを務めた。

▲手前から、登壇者の福岡正洋氏、原田秀美氏、金子雅俊氏
デジタル時代の広報・コンプライアンス研修講師、福岡氏の講演では、広報専任部署がないという中小物流企業の広報環境の実態が共有された。特に、事故・不祥事における危機広報の重要性について解説。ネガティブ情報の拡散と抑制は、物流広報の巧拙次第で企業の信頼性を大きく左右すると訴える。福岡氏は、自らも広報に携わった多重事故のリアルな対応実例を示し、危機広報の3原則として「誠実な情報公開」「明確な方針」「知識やスキルより意識」をあげ、広報発表ではスピーディーで、正直で、わかりやすさを重視した広報スキルの醸成が必要と語った。また、社内と社外双方のバランスの取れた視点で的確な対応が必要であり、「半分社外」の観点からは、物流広報連絡会議のような社外の広報担当者のネットワーク作りも重要になると説明した。
物流業界の総合人材サービスを展開するロジネス(東京都港区)の金子氏は、人材採用のライバルは同業種だけではなく他業界だと指摘。令和を迎え、新卒採用に頼る時代から、中途採用の比率が高まっているが、物流業界における人事担当者の絶対数の少なさが、スピード感のある時代に即した戦略転換が進まない要因と指摘する。採用専任の担当者がいない状況は広報部門と同様で、他業界との決定的な違いとなっており、有効な中途採用を実現できるだけの採用戦略が機能しない状況、「採用広報」ができない状況にある。
加えて、物流企業の採用は人事の範疇であるのに対して、他業界では人事の枠を超えた営業、マーケティングの領域から、企業戦略としての採用に関わる対応ととらえられている。物流業界において「採用広報」「採用マーケティング」という考え方で他業種と競い合う体制作りに向けては、人事部門だけに頼らず広報の立場から主導して社内体制を変革する必要性も出てくるのではないかと語る。何のために、どんなメッセージで、必要な人材を確保すべきなのか、欠員補充など対症療法ではない人材戦略が必要であり、転職希望者が見ている諸条件は何かを把握した採用広報を立案できるスキル育成が求められるという。
金子氏は、他業界よりも優れた物流業界の魅力は「社会的使命」だという。日本経済の血脈を守ためにも、広報連絡会議が積極的に業界変革に携わることに期待を寄せた。
最後に登壇したのは、東京海上スマートモビリティ(東京都千代田区)の原田社長である。東京海上ホールディングスが、物流危機を深刻な社会課題と捉え、レジリエントな物流構築のための新規事業として設立したのが同社であり、原田氏は「モビリティ」領域の新会社として東京海上スマートモビリティ社長、「防災・減災」領域の新会社として東京海上レジリエンス副社長を務める。
物流課題解決に向けた共同物流のための仕掛けとして、原田氏が立ち上げた物流コンソーシアムbatonでは、参画企業による業界の枠組みを超えた共創をテーマに、まずは中継ネットワーク構築を切り口として、中小運送業の活性化と収益向上、さらにドライバーにとって魅力ある業界作りを後押し。物流危機を日本社会全体のリスク要因として、損保事業の知見でその課題解決を目指す。「防災・減災」領域の活動では、「防災コンソーシアムCORE」を組織するなど、物流、防災の両分野ともに、東京海上が中心となって立ち上げた企業協働、連携で、個社単位では対応できない課題解決に取り組む。原田氏は、今後、運送事業に限らず荷主事業やソリューションベンダーなど参画者を拡大し、議論を活性化する触媒となることを目指すと語った。
物流コンソーシアムbatonで目指す合理的な中継輸送マッチングには、多数の企業の参加やアセット運用、責任負担などのルール作りが必要であり、同社はリスクマネジメントの知見を生かして連携の中核を担う姿勢だ。中継輸送を入り口として、日帰り輸送、物流の効率化を実現し、労働環境の改善によって若年層労働力を獲得できる魅力的な運送業界作りを目指す。
また原田氏は、物流における人材戦略においては新規採用だけではなく、現有戦力の有効活用策が重要と指摘。健康管理ソリューションMINAMO WELLNESSによる現有戦力の健康勤労寿命延伸、離職防止による取り組みについても解説した。ドライバーの健康状況を簡単にリアルタイムで計測、可視化、データ管理でき、事故の未然防止をサポートするソリューション提供で、物流事業に貢献する。原田氏は、こうした取り組みの一つ一つにおいて「発信することの意義」「協働・連携することの意義」を訴え、広報連絡会議がその中核として機能できるような活動となるよう呼びかけた。
3人による講演終了後には登壇者、参加者による交流会も開催。広報担当者や、広報領域に課題を感じる関係者たちが情報交換、連携する場が設けられた。なお、第2回物流広報連絡会議は、9月下旬から10月ごろ、「ひとり広報」をテーマに開催する。
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