ロジスティクス東京・赤坂で昨年11月、日経ビジネス主催「Safety Driving Award 2024 Supported by DRIVE CHART」の授賞式イベントが開催された。物流企業、営業車を保有するメーカーやサービス業など、多様な業種の関係者が参加し、それぞれの事故削減ノウハウを持ち寄って意見交換する姿がみられた。

▲「Safety Driving Award 2024」授賞式の様子
運営に協力したのは、次世代AI(人工知能)ドラレコサービス「DRIVE CHART」(ドライブ・チャート)を提供するGO(ゴー、東京都港区)だ。同社は普段からトラック・タクシー・営業車・送迎車などの安全管理を支援するなかで、各社が培ってきた知見に触れることが多く、そこで蓄積された事故削減策を“見える化”して発信することで、より多くの企業が優れたノウハウを学べる環境をつくりたいと考えてきた。
初開催となる本アワードで受賞した6社の実践事例から見えてきたのは、単なるテクノロジー導入や研修プログラムにとどまらない、企業それぞれの創意工夫だった。アワード誕生の背景や受賞企業の具体的な手立て、さらに現場で交わされた議論の様子をレポートする。
「Safety Driving Award 2024」誕生の背景
アワード運営関係者によれば、今回の企画は「素晴らしい取り組みは適切に賞賛され、広く共有されるべきではないか」という思いから始まったという。物流や運送の現場では、ドライバー不足やコスト高騰などの構造的課題を抱える一方、交通事故が起きれば企業活動に重大な影響が及ぶ。社員や社会を守るために安全対策は欠かせないが、だからといって常に画期的な取り組みを生み出すのは容易ではない。そこで、実際に成果を出している企業の知恵を“目に見える形”で共有し、多くの事業者が取り組みを強化できる環境づくりが必要だと考えた。
とりわけ最近はAIドラレコやテレマティクスを活用した運行管理が注目を集め、運送・営業車の安全管理にはテクノロジーが大きく寄与している。しかし、機器を導入するだけでは十分とは言えず、それをどう運用し、どのようにドライバーや管理者の意識変革を促すかが事故削減の決め手となる。GOが提供する「DRIVE CHART」でも、脇見運転や一時不停止などの危険運転の見える化だけでなく、管理者とドライバーが同じデータを見ながら対話を重ねるという文化づくりが重視されている。そうした背景から、「こうした成功事例をもっと世の中へ発信してはどうか」という声が高まり、今回のSafety Driving Award 2024の開催に至った。

▲交通事故削減の取り組みを発表する受賞者。成功事例を広く世の中に共有することで、運輸業界全体の事故削減につなげる。
初開催ということもあり、応募企業がどれほど集まるかは未知数だったというが、ふたを開けてみれば業種・規模ともに多彩な企業がエントリーし、いずれも積極的な安全対策を行っていた。事故削減は企業のコンプライアンスやブランドイメージを高めるだけでなく、荷主企業や消費者との信頼関係づくりにも大きく関わる時代だ。実際、運営サイドも「事故防止策に本気で取り組む企業をたたえ、その事例を広めることで業界全体の水準を底上げしたい」と意欲を語っていた。
ロジスティードやDHLジャパンなど、運送事業部門の取り組みは
今回のアワードは「営業車部門」と「運送事業部門」の2部門に分けて実施され、それぞれゴールド・シルバー・ブロンズの3社、計6社が受賞した。まずは運送事業部門で選ばれた3社の主な取り組みを見てみよう。いずれも、テクノロジー導入だけにとどまらず、現場の声を吸い上げながら継続的に安全対策を強化している点が特徴だ。
【運送事業部門】
<ゴールド賞>ロジスティード
– 生体デバイスとAIドラレコを活用した事故リスクを予測する産官学連携での研究を推進。
– 自社開発したDXソリューションにより事故の未然防止活動を強化し、98%のヒヤリハット減少と、75%の事故削減を実現。
– 官公庁の実証実験への協力などを通じて、業界全体の健康起因事故削減へ貢献。
<シルバー賞>
ディー・エイチ・エル・ジャパン
– デジタコのスコアリング機能を使った安全対策から、AIドラレコを活用した運転指導へ切り替え。
– リスク運転の検出傾向から事故を起こしやすい特性のドライバーを見極め、トレーニング内容に反映。
– 運転指導の質と効率が向上し、有過失事故を毎年継続的に昨年対比2-3割削減している。
<ブロンズ賞>
京王自動車
以前からドライブレコーダーの映像確認や同乗教育を行っていたが、AIドラレコ導入によりさらに効率化。
– ドライバーの運転振り返りを習慣化するために、講習会での説明や「閲覧札」など独自の工夫を実施。
– 注力項目の一時不停止を中心にリスク運転を大幅に削減し、2年で約3割の事故削減・一時停止不履行による事故ゼロ件に成功。
ジョンソンコントロールズやビーナスの先進策
続いて、営業車部門で受賞した3社の事例を紹介する。ゴールド・シルバー・ブロンズそれぞれの企業が、営業車における事故防止のためにAIドラレコなどの技術を導入しつつ、自社の業態や運用状況に合わせた工夫を重ねてきた点が共通している。
【営業車部門】
<ゴールド賞>ジョンソンコントロールズ
– ながら運転等を防止する社内規定を設け、AIドラレコを活用し円滑な動画確認と運転指導を実施。
– 罰則規定の強化に加え、組織体制や会議体の見直しなど徹底した運用で、重大事故をゼロ件にまで削減。
– 全国産業安全衛生大会でAIドラレコ活用の活動報告を行うなど、自社の学びを精力的に発信。
<シルバー賞>
ビーナス
– 重大事故の未然防止を目的に、全車両へAIドラレコを導入。
– リスク運転の発生率を定量的なKPIとして設定。ドライバーに対する運転指導のルールを定めるとともに、新規入社者への教育や表彰制度へも活用。
– 従業員からも事故削減へ向けたアイデアが出るなど意識の変化が表れ、リスク運転数も約9割の大幅削減。
<ブロンズ賞>
トヨタテクニカルディベロップメント
– 年2回約2か月間の安全運転啓蒙活動を実施。マンネリ化を防ぐため毎回テーマを変えている。
– 昨年は運転診断アプリを利用。部対抗などゲーム感覚で楽しめる内容で従業員約1000人を巻き込んだ。
– 参加者99%以上の運転見直しの機会となり、年間で加害事故ゼロ件を達成。
審査基準と評価のポイント
Safety Driving Award 2024では、単なる事故件数の削減のみならず、事故を未然に防ぐための継続的な仕組みづくりができているかどうかが重視された。具体的には、定量的な成果と持続性、先端技術の積極活用、人材育成・組織全体での取り組み、そして業界全体への波及効果といった観点から総合的に評価が行われた。

▲多様な観点から高い評価を受けた6社に共通することとは
たとえば、ロジスティードやトヨタテクニカルディベロップメントのように、自社開発や内製化で事故防止の技術ソリューションを洗練させている企業は「独自性」や「研究開発力」が高く評価される。一方で、ビーナスやDHLジャパンのように、既存のAIドラレコなどを最適に活用し、管理者とドライバーが同じデータを共有しながら教育や表彰制度を組み合わせるアプローチは、他社でも導入しやすい「汎用性」という観点で注目を集める。
また、ジョンソンコントロールズや京王自動車の事例は、「社内規定の強化」や「運転振り返りを習慣化する仕掛け」によって社員の意識を変えていくことがいかに大切かを示している。AIドラレコの映像分析だけでなく、罰則規定・運行管理体制の抜本的見直しといった制度面にも踏み込み、重大事故のゼロ化や特定のリスク運転項目の徹底改善を実現している点が評価された。
このように、受賞企業6社の実践を並べて見ると、一見バラバラに見える手法も「交通事故削減に向けたPDCAサイクルを途切れさせない」「トップから現場まで安全意識を共有できるマネジメント体制を整備する」という共通項がある。その取り組みが他社、ひいては業界全体にも好影響をもたらすかどうか──。本アワードの受賞企業はそういった点も含めて高く評価されたという。
受賞企業に学ぶ“人を動かす”仕掛け
当日は受賞企業の担当者が登壇し、それぞれの独自事例を具体的に発表したあと、受賞企業によるパネルディスカッションや参加者との意見交換が積極的に行われた。共通していたのは、テクノロジーの有効活用だけで事故が減るわけではなく、「人を動かす仕掛け」をきめ細やかに設計する必要性があるという認識だった。ドライバーを一方的に監視するのではなく、リスク運転・ヒヤリハットを見つけた際にはドライバー自身が納得しながら修正できるよう対話を重ねる企業が多く、そこに管理者のコミュニケーション能力が大きく影響すると語られていた。
実際、参加者からは「色々な企業の話を聞いて、事故削減に対する想いは同じで、困っていることも似たようなものがあり、私たちが自社で今後どうすればいいかを考えるヒントが得られた」という声が上がった。別の参加者は「どんな仕組みがあっても、どんなテクノロジーを使っても、ハンドルを握るのは私たち人間。安全がどんなに大切なものなのかということを、一人一人が理解する環境をつくることが何よりも大切で、そのためにコミュニケーションが重要だと感じた」と述べ、テクノロジーの恩恵と人の意識改革の両輪が欠かせない点を強調した。さらに「各企業の発表を聞かせていただいて、本当に本気度が凄いなと感じた。自分の会社の事故が減っただけでなくて、世の中から交通事故がゼロになるまで、ぜひここにいる皆さんと一緒に取り組んでいけたら」という前向きな意見も寄せられた。
こうした生の声が示すように、参加者は単に“優秀企業を知る”だけでなく、そこから生まれる具体的なノウハウを自社へどう持ち帰り、運用するかに強い関心を抱いている。運営に協力したGOによれば、今回のアワードを起点に交通事故削減策をよりオープンに共有し合う動きが広がれば、単発のイベントで終わらずに企業相互のつながりも強まっていくという。
次回の開催では、さらに多くの企業が参加して互いの成功事例を学び合い、業界全体を挙げた交通事故ゼロへの挑戦が一層加速することが期待される。もし自社で安全運転の取り組みを進めている、あるいは新たに着手したいという企業があれば、25年こそは積極的にエントリーし、ノウハウや知見を広く共有してほしい。大切なのは、表彰された企業だけでなく、惜しくも受賞に至らなかった企業も含め「どれだけ多くの事例や知見が次の取り組みに活かされるか」だろう。社会全体から交通事故を根絶するという大きな目標に向けて、一社でも多くの参画が求められている。
■「Safety Driving Forum 2024」ダイジェスト