
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「SGHD、ハイテク輸送大手の台湾モリソンを買収」(2月7日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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M&ASGホールディングス(SGHD)は7日、台湾の物流大手モリソン(Morrison Express Worldwide Corporation=モリソン・エクスプレス・ワールドワイド)を買収すると発表した。同日付で株式譲渡契約を締結。グループ子会社または新たに設立する完全子会社を通じて、ことし7月1日付けで同社の全株式を取得し、グループ傘下に収める。買収額は9億ドル(1360億円、1ドル=151円換算)に達する見通しだ。
1972年設立のモリソンは、航空フォワーディングを中心に世界94拠点で事業を展開する。半導体産業や電子製品分野などハイテク系企業を主要顧客としており、2024年12月期の連結売上高は9億3737万ドル(1415億円)で、営業利益は3517万ドル(53億円)だった。
SGHDは2014年、スリランカの物流大手エクスポランカ・ホールディングスをグループ会社化した(24年9月に株式を追加取得し、持ち株比率を99%超まで高めて完全子会社化・非上場化)。今回のモリソン買収は、海上フォワーディングやアパレル、雑貨など消費財物流に強みを持つエクスポランカと、モリソンの機能を融合させることでシナジー効果を生み出し、事業領域の拡大やグローバル規模での物流ネットワーク強化を図るのが目的だ。両社を軸としたさらなる成長を通じて、30年度にはグループ全体としての国際物流事業の売上高を6000億円規模にまで押し上げることを目指すという。
SGHDといえば、24年7月に実施したC&Fロジホールディングスの買収劇が記憶に新しい。AZ-COM丸和ホールディングスにTOB(敵対的買収)を仕掛けられたC&Fロジを救うべく、ホワイトナイト(白馬の騎士)として出現し、1200億円を投じて、日本国内の低温物流ネットワークを手に入れた。
SGHDはおよそ1年という短期間のうちに総額計2600億円に上る資金をM&A(企業の合併・買収)に充てたわけだが、その経営判断に対する評価は二分している。日本国内での物流需要が縮小するなか、海外事業に活路を見出そうとする戦略は一定の支持を集めている一方で、立て続けに実行した巨額のM&A投資によって発生する「のれん代」の償却が今後の業績に与える負の影響を懸念する声も出ている。
今回買収するモリソンの連結純資産は2億2701万ドル(342億円、24年12月期末時点)。買収予定価格の1365億円から純資産額の342億円を単純に差し引くと、のれん代は1023億円となる。さらに、C&Fロジ買収でも732億円(買収価格1200億円─純資産額468億円、24年3月期ベース)に上るのれん代を負う。
2社分合計で1755億円に達するのれん代は、日本の会計ルールに基づき定額20年で償却していく場合、毎年度、営業利益を88億円押し下げる。これはSGHDが計画する25年3月期の連結営業利益900億円の10%分に相当する。
同社の売上高営業利益率は24年3月期が6.8%で、25年3月期は6.1%となる見通しだ。グループ全体収益の7割を占める宅配便事業や、テコ入れ中の海外事業といった“本業での稼ぐ力”を高めていかなければ、次年度以降、営業利益率はさらに低下する可能性も否定できない。
この先重くのしかかってくる、のれん代償却への懸念もあってか、SGHDの株価は下落傾向が続く。C&Fロジ買収後の24年8月時点で1600円台だった同社の株価は現在、1400円台の水準まで落ち込んでいる。モリソン買収の発表後、初の取引となった10日の株式市場でも、株価は前日(7日)の終値よりも下落した。
「C&Fロジ案件と同様、今回のモリソン買収も高値つかみなのではないか」(市場関係者)。そうした相次ぐ大型買収策への否定的な声の払拭や、株価回復のためにも、SGHDには今後、海外事業での早急なシナジー創出が求められることになりそうだ。(編集委員・刈屋大輔)