ロジスティクスENEOSは、全国のガソリンスタンド敷地を活用したトラック駐車予約サービスの実証実験を進めている。2023年度の社内ベンチャープログラム「Challenge X」で最優秀賞に選ばれたアイデアを基に、24年から2年間の事業化検討を進めている段階だ。

▲(左から)ENEOS中央技術研究所技術戦略室・事業開発推進グループ上席担当マネージャーの天野風人氏、供給計画部次世代サプライチェーン改革グループ担当マネージャーの奥井康浩氏
このサービスの企画者である天野風人氏は「日本を支える、物流を支えるトラックドライバーさんの労働環境をよくしたいと思って、このサービスを考案した」と語る。物流業界では「2024年問題」とされるトラックドライバーの時間外労働規制強化に伴い、休憩場所の確保が大きな課題となっている。
実証実験は25年3月に岡山県のENEOSガソリンスタンドで1か月間実施され、現在は関東地方の2か所のガソリンスタンドでも準備が進められている。岡山での実験は有償で行われ、30分500円の基本料金に加え、長時間利用の場合は3000円から5000円の上限パッケージ料金を設定した。

▲利用の際はオンラインで予約をし、所定の日時にドライバーが直接現地に向かう
天野氏によれば「価格自体が受け入れられないと、どんなにサービスを良くしても難しい。今の価格であれば、数が増えれば数年後には黒字になると想定している」という。
ENEOSが持つ全国およそ1万2000店舗のうち、24時間営業でトラックが停車可能なスペースを持つガソリンスタンドはおよそ600店舗(全体の5%)ある。「メインでは24時間営業しているガソリンスタンドで展開。トイレ、自販機、建物内の休憩スペースなどを利用できる施設が中心」と語るのは、プロジェクトに後から参画した奥井康浩氏。トラック向けのガソリンスタンドではシャワー設備も利用可能な店舗もあり、トラックドライバーにとっては利便性が高い。
利用する際は、物流企業の運行管理者がウェブ予約システムを通じて駐車スペースを事前予約。ドライバーが指定された時間に利用する仕組みとなっている。天野氏は岡山での実証実験中に現場で利用者からの聞き取りを実施。「ドライバーの方々からは、確実に駐車できることがありがたいと声がもらえた」と手応えを感じている。

▲実証実験で実際に休憩している車両。24時間営業のガソリンスタンドの、通常業務に支障の無い場所に駐車する
同社では、当初は長距離運行中の休憩場所としての利用を想定していたが、実証実験を進めるなかで新たなニーズも見えてきた。「地場配送中の配送効率化のために待ち合わせして荷物を引き渡すクロスドッキングでの活用も検討している。また、倉庫のバースで予約して行ったけれど時間通りに荷捌きが終わっておらず、場外で待機するニーズもあるのではないか」と天野氏は語る。バース予約システムを使っていても、実際に発荷主・着荷主の拠点に着いたらすぐに積み下ろしが始まらないのはよくある話。拠点周辺では荷待ちができず、燃料を使って待機場所を探したり、時には待機、休憩のために高速道路に入ってサービスエリア・パーキングエリアを利用することも珍しくない。確実に休憩・駐車できることはドライバーの心理的余裕につながるだけでなく、無駄な燃料費をかけずに済んだり、ドライバーの労働時間を削減したりといった実際的なメリットもある。
同社では9月頃に事業化判断を行う予定で、現在はさまざまな物流企業にアプローチしながら実証実験を重ねている段階だ。事業化が決まれば、社内事業として展開するか、新会社を設立して運営することになる。「やはり物流企業さんが実際に運行している路線はそれぞれなので、休憩に課題を感じている地域もバラバラで、ここに力を入れればというエリアを決め込めていない。まずは、お金を払ってでもドライバーの休憩場所問題を解決したいという運送会社を一定数見つけることが最初かと思っている」と天野氏は今後の展望を語った。
物流業界では長距離運行トラックの駐車スペース不足が深刻で、荷待ちも集積地では問題化していることが多い。国は全ての荷主に対して荷待ち時間の短縮を求めており、ハンドルを握っているドライバーや運送会社だけが考えればよい問題ではない。また、2024年問題により長距離運行ができなくなったことにより、運行が維持できなくなった路線も多い。トラックの休憩問題だけではなく、クロスドッキングによる、遠隔地間の輸送力の維持の可能性など、同社の取り組みはさまざまな物流課題の解決に貢献する可能性を秘めている。
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