ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

次期安全プラン策定へ、軽貨物・高齢化対策が二大柱

2025年8月14日 (木)

ロジスティクス国土交通省は、25年度で最終年度を迎える「事業用自動車総合安全プラン2025」の総括と、26年度以降の新たな安全目標となる次期プランの策定に向けた議論を本格化させている。

現行プランでは事故件数全体で減少という着実な成果を上げる一方、EC(電子商取引)市場の拡大を背景とした貨物軽自動車運送事業の事故増加が新たな課題として浮上。加えて、ドライバーの高齢化という構造的な問題も深刻さを増している。こうした状況を踏まえ、次期プランでは「軽貨物運送事業者への規制強化」と「運転者の高齢化・多様化への対応」が二大柱となる見通しだ。日本の物流を支える現場の安全は、新たなステージへと向かう。

プラン2025の軌跡、成果と次代へ残された課題

21年3月に策定された「事業用自動車総合安全プラン2025」は、交通事故死者数や人身事故件数の削減、飲酒運転ゼロなどを目標に掲げ、官民一体での取り組みを推進してきた。その実行部隊として23年に発足したのが「自動車運送事業安全対策検討会」だ。検討会は、飲酒運転防止、健康起因事故、バスの車内事故といったテーマ別にワーキンググループ(WG)を設置し、専門的な議論を通じてマニュアルの作成・改訂や、ICT(情報通信技術)を活用した運行管理の高度化などを進めてきた。

これらの取り組みにより、事業用自動車による交通事故重傷者数は目標達成が見込まれるなど、大きな成果を上げた。しかし、プランの最終評価では、死者数と人身事故件数の目標達成は困難な見通しとなっている。その最大の要因が、トラック部門における軽貨物運送事業の事故件数増加だ。ほかの業態が減少傾向にあるなかで、軽貨物だけが突出して増えており、現行プランで積み上げた成果を相殺するかたちとなっている。この「軽貨物問題」の解決が、次期プランへ託された最大の課題だ。

▲貨物軽自動車と一般貨物自動車の制度比較(クリックで拡大)

事故類型にくっきり業態差、現場が抱える個別の事情

最新の交通事故統計を見ると、事業用自動車全体の事故件数は長期的に減少傾向にあるものの、近年は下げ止まりの様相を呈している。その内訳からは、業態ごとに異なる事故の現実が浮かび上がる。トラック(軽貨物を除く)では、事故全体の5割が「追突」で、その主な原因は漫然運転や脇見運転だ。死亡事故では「横断中の歩行者との接触」が最多となっている。

一方、乗合バスでは、事故の3割を「車内事故」が占める。事業者へのアンケートでは、運転者への指導における課題として「乗客の不適切な行動に対する対応」が最も多く挙げられており、運転者だけの努力では限界があることを示唆している。タクシーでは、死亡事故の主因が「路上横臥者」との接触であり、特に夜間の対策が急務だ。また、タクシー運転者の年齢層別事故率では、29歳以下の若年層と75歳以上の高齢層で高い数値を示しており、世代に応じた教育の必要性が指摘されている。

次期プランの展望、3つの視点で安全を再構築する

国土交通省は、これらの現状分析とプラン2025の評価を踏まえ、次期プランの重点施策案を提示した。今後の安全対策は、「運行管理の高度化」「運転者を取り巻く環境変化への対応」「運転者の行動変容」という3つの方向性で、より深く、広く推進されることになる。

第1に、「運行管理の高度化」では、点呼のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に加え、運行中の安全管理が新たなテーマとなる。トラック分野では、27年までにデジタコの普及率を85%に引き上げる目標を設定。さらに、タブレット端末などを活用した安価な「次世代運行管理システム」の標準化も検討し、中小事業者を含めた業界全体のDXを後押しする。

第2に、「運転者を取り巻く環境変化への対応」だ。深刻化する人手不足と高齢化に対し、安全な運転寿命を延ばすための健康管理を強力に推進する。25年度予算案には各種スクリーニング検査への補助事業が盛り込まれた。また、増加しつつある外国人ドライバーへの対応として、言語の壁を越えた教育・管理体制の構築も急務となる。そして、最大の焦点である軽貨物運送事業に対しては、25年4月から、安全管理者の選任義務付けや国への事故報告義務化といった一般貨物運送事業並みの規制を導入し 、業界の安全水準の底上げを図る。

第3に、「運転者の行動変容」の促進だ。マニュアルを作成するだけでなく、その内容が現場で確実に実践されるよう、ショート動画の作成やプッシュ型の研修会などを通じて、運転者一人ひとりの意識改革を促す。次期プランでは、これらの施策の効果を客観的に測るため、「スクリーニング検査の実施率」や「デジタコの普及率」といった定量的なフォローアップ指標を設定する方針も示されており、より実効性の高いPDCAサイクルを目指す考えだ。

(クリックで拡大)

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。