話題経済産業省商務・サービスグループ流通政策課長兼物流企画室長の平林孝之氏は、2026年を物流政策の明確な転換点、“新しいステップ”と位置付ける。
「総合物流施策大綱」においては26年から30年を対象期間とする新たな指針が示される。物流効率化法でも本格施行による特定荷主の指定、CLO(物流統括管理者)体制が始動し、さらにフィジカルインターネット実現に向けたロードマップでは、これまでの「準備期」から「離陸期」へとフェーズが移行する年度にあたる。制度・目標・法体系が同時に動き出す年だといえるだろう。
「真に実効性のある制度となるように、2026年は非常に重要な年」と平林氏は強調する。制度が整っただけでは物流は変わらない。物流をどう捉え、どう行動に移すかが問われる局面に入った。

▲経済産業省の平林孝之氏
連携を「自ら動かす」──荷主の意識は変わり始めた
昨年1年間を通じ、経産省は荷主事業者に対して物流効率化法の周知・説明を重ね、物流の効率化に対する理解を訴えてきた。その結果、現場には確かな変化が現れ始めているという。
とりわけ象徴的なのが、荷主自らが他社と連携し、効率化を進める事例数が増えたことだ。「特に荷主事業者からの声として、自ら率先して他社と連携して進めているという事例が目に見える形で出てきた」(平林氏)ことは、大きな変化といえるだろう。物流の24年問題や法改正を経て、物流を“他人事”ではなく、自社の経営課題として捉え直す動きが広がりつつあることは確かなようだ。
CLOは「制度対応」ではない、経営を動かす役割
CLO体制について、平林氏は「これは単なる制度対応にとどまらず、その企業の物流の戦略、さらに言えば、その先のサプライチェーン戦略を抜本的に変革する契機になる」と位置付ける。25年は“CLOとは何か”が議論されてきたが、現場改善の延長線上にある役職ではなく、経営層レベルで物流を再定義する存在であることも明確になってきた。
平林氏は、CLOに期待される役割は大きく2つ、「全社的な連携」と「社外との外交的な役割」の担い手となることに期待を寄せる。
物流効率化法において、発荷主としてだけではなく着荷主の領域でも効率化の責任を果たすべきことが示されたことで、調達領域の課題などが、社内ではじめて検証されたという事例も聞く。調達・生産・販売・在庫・物流を横断する社内連携、そして同業・異業種の荷主や物流事業者との連携を、経営層レベルの権限を持って力強く進める“外交”がCLOの本質だという。
その象徴例として、平林氏はパレタイズの事例を挙げる。標準型パレットの規格などは定まりながらも、積み合せが非効率になるなどの現場事情でサプライチェーン全体、業界全体をつなぐパレット利用の普及にはまだ遠い状況だけに、より俯瞰的に物流起点で再構築する発想が必要だ。例えば、「パレットに適合した商品のパッケージを設計して、その商品に合わせた製造ラインの設計、これらが一気通貫となることで、理想的なパレタイゼーションが完成する」(平林氏)ためには、個社事情を乗り越え、将来に向けて大局で決断できる実効力が欠かせない。
長年にわたり議論されてきたパレット運用の標準化だが、パッケージ変更や設備改修といった個社事情がボトルネックとなり、踏み出せない企業も多かった。部門をまたぎ企業をつなぐ調整を誰が担うのか。「それを誰がやるのかという話。まさしくこれがCLO」(平林氏)にほかならない。
まずは「可視化」から、投資判断と変革の第一歩
CLO像が明確になった一方で、いまだに取り組みの動きは鈍いようにも感じる。平林氏も、「何から取り組めばいいのか、CLOをどのように選任すればいいのか、方針が定まらないという戸惑いの声もあるのは確か」と話す。物流効率化、デジタル化に必要な投資をどのように位置付けるのか、物流が経営テーマとして浮上した企業ほど、どこから手を付けるべきか迷っているのが実情ではないか。
まもなく全国にCLOが誕生することになる。もちろん、直面する壁もあるだろう。平林氏は、CLOが最初に直面する壁の1つとして「投資判断」を挙げる。
「電子化、DX(デジタルトランスフォーメーション)が恐らく最初に出てくる話だと思うが、実現に向けては当然設備投資が必要になってくる」(平林氏)。こうした投資判断は、従来の物流部門責任者だけでは判断できない、決断ができないというケースも多くなるだろうと指摘する。経営層レベルから判断を下すには、確固たる信念と目標設定、経営戦略と責任が伴うのはいうまでもない。
昨年1年をかけてCLOの議論を重ねたことで、よりCLO像が明確になった反面、あるべき理想的なCLO像と現実とのギャップに戸惑うケースもあるだろう。企業方針を左右する重要な投資判断を問われることに尻込みしてしまうといったことも想像できる。
しかし、だからこそ、重要なのは「一つ一つ積み上げていくこと」だと平林氏はいう。その出発点として可視化に努め、社内全域を見渡すこと、「そもそも社内がどういう状態なのか」を見極めること、足元の課題をどう解決していくのかを経営者の視点で見ていくことが重要だと語る。いきなり大きなサプライチェーン全体の話ではなく、一つ一つの積み上げが最終的に全体の効率化につながっていくことを理解し、その人なりのCLO像を目指すべきということだろう。自分に足りない要素には、得意な人材にフォローしてもらうなどのチーム体制を有効活用することなども社内課題の解決策となる。外交ではCLO同士の横連携による気づきや学びを得る機会を設けることも、成長のための栄養となるはずだ。
物流革新においては、経営層クラスからCLOが選任されること自体がエポックである。CLOが外交の役割を果たすことで、どんな施策に効果があったかなどの事例も積み上げられ、共有されていくことになるだろう。CLO間の情報共有やコミュニティーの中から、次の改革へとつながる共創のアイデアが生まれてくる、そんな始まりとなるのがこの1年になる。
経産省では、先進的な取り組みを行う企業の事例を集約した事例集の作成にも取り組み、積極的な周知広報にも力を注ぐという。設備投資や連携の具体像とその効果を可視化することで、「何をすればよいのか分からない」という企業や「次の一歩に迷う」企業の背中を押す狙いがある。
さらに、こうした効率化への取り組みは、ただ特定事業者、規模の大きな事業者だけに課せられたものではないこと、すべての事業者にとっての努力義務もあることを再認識しなければいけない。国土交通省が実施している「荷主・物流事業者の取組状況」に関するフォローアップ調査は、ただ進ちょく状況の確認だけではなく、物流に携わるすべての人々にとって、改めて意識付けするものであり、荷主や物流事業者が自らの立ち位置を確認する機会となるだろう。
フィジカルインターネットは離陸期へ、そして、2040年は遠くない
26年はフィジカルインターネットにとっても新たな局面となる。デジタル情報のネットワークのように、物流を効率化して全体最適を目指すフィジカルインターネットは、将来の社会構造の変化に備えて実装が期待される構想である。ガバナンス、物流・商流データのプラットフォーム構築、水平連携、垂直統合、物流拠点の自動化・機械化、輸送機器の自動化・機械化などの項目で取り組みを検証し、共同化・自動化を前提とした物流ネットワークを構築するために、「徹底的に標準化していく、デジタル技術を活用していく、そして情報を可視化していく」(平林氏)ことが求められる。
フィジカルインターネットの実現には40年を完成期とするゴールイメージが掲げられている。まだ効率化やDXに取り組み始めたばかり、40年なんてまだまだ先のことと考える人も多いだろう。
しかし、平林氏は「遠い話ではまったくない」と言い切る。その背景にあるのが、AI(人工知能)やロボティクスの進化である。生成AIや、実空間で動作するフィジカルAIの研究開発が急速に進み、倉庫内作業や荷役、輸送機器の自動化はすでに現実のものとなりつつある40年までを想定したロードマップも、各種技術の進歩具合によっては時代にそぐわないものになることもあり得る。のんびりと様子見をしている場合ではなく、今やるべきことを明らかにするなど前倒しの検討を進めるべき年となるのかもしれない。
こうしたフィジカルインターネットへの向きあい方を可視化する指標として、フィジカルインターネット成熟度モデルも整理されつつある。これは、各企業のフィジカルインターネット実現に向けた取り組みがどの段階に位置しているのかを自己診断し、次に何に取り組むべきかを示す枠組みだ。自社の現在地を把握し、実現へ近づくための道しるべとしての役割が期待されており、これまで漠然と捉えていたフィジカルインターネットをより身近な目標とする準備も整えられている状況である。
もちろん、一足飛びで到達できるものではないだけに、まずはCLOがけん引する新たな物流の姿、連携や共同化など新しい物流の当たり前が広がることで、フィジカルインターネット離陸期の動きを後押ししなくてはなるまい。
同時に、“運べない時代の到来”が現実のものになりつつあることについて警鐘が鳴らされている。荷主の要請に対して貨物輸送が断られたなどの事例も顕在化するようになった。無理な運送、多重下請け、過度な低価格での業務受委託に対する社会の目は厳しさを増している。荷主が物流側から“選別される”時代の入り口に立っていること、それに対して何らかの対策が必要なこと、その対策はもはや個社だけではできないものであることなど、私たちは依然として24年問題の延長線上で綱渡りしていることを忘れてはいけない。
とはいえ、平林氏は“可能性”を強調する。これまで物流にこれほどまでに注目が集まることはなかったとして、「この物流の分野こそ、効率性、生産性を高めることがまだまだできる分野」(平林氏)として、多様なチャレンジや絶え間ない努力が実を結ぶフィールドになるのではないかと語る。

最後に呼びかけたのは、「物流をコストではなく、成長の原資として考えること」(平林氏)。物流構造ではなく物流の見方の転換である。コスト削減ではなく、生産性向上によって企業価値を引き上げる。その起点となるのがCLOであり、ことしはその動きが本格化する年となる。
「ビジネス環境はだいぶ整ってきた。あとはこれをどう成長につなげていくか」
そう、あとは、どう動くかである。
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