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ラストマイルの負荷を分散せよ、鍵は「稼ぎ」だけに頼らない参加設計

ギグワーカー×貨客混載で地方配送の限界に挑む

2026年1月1日 (木)

話題物流の現場でいま、最も負荷が集中しているのがラストマイルだ。人手不足、配送需要の増加、都市と地方で異なる課題。その最前線で、ギグワーカーという新たな担い手を軸に配送のあり方を問い直しているのが、セルフィット(東京都新宿区)だ。

セルート(同)の「DIAq」(ダイヤク)事業を分社化し、2025年に誕生した同社は、都市部では徒歩配送、地方では貨客混載という異なるアプローチで、配送の持続可能性を探っている。同社を経営者として率いるのは、アベマTVやユーチューブの社会派チャンネル「リハック」で、政治経済、社会などの問題への発言で注目を浴びる元・経済産業省官僚の宇佐美典也氏。セルフィットの社長としての宇佐美氏が、ギグワーカー配送の現在地と、物流が直面する構造的課題について率直に語った。


セルフィットは、旅客・貨物の配送需要とギグワーカーをマッチングするプラットフォームを展開する物流スタートアップ。バイク便大手セルートが手がけてきた「DIAq」事業を分社化する形で2025年に設立された。都市部では配送ステーションを起点とした徒歩配送モデルを軸に、柔軟な働き方で担い手を広げる。一方、地方では貨客混載を視野に入れ、交通・物流の共倒れを防ぐ持続可能な仕組みづくりを目指している。

赤澤 テレビやネットで宇佐美さんをご存じの方には、宇佐美さんと物流というのは、少し結びつきにくい印象を持つ方もいると思います。視聴者の方の中には、なぜ物流メディアのインタビューに宇佐美さんがいるんですか、と思う方がいるかもしれないので、まず簡単に自己紹介を兼ねて教えていただけますか。

▲セルフィット宇佐美典也社長

宇佐美 もともと私は2005年に大学を卒業して、その後、経済産業省で働いていました。半導体やITの研究開発を担当していた時期があります。その中で、大学の先生から、すごく面白い人がいるよ、と紹介されたのがセルートの高木恵理社長でした。

赤澤 それがいつ頃ですか。

宇佐美 2009年頃ですね。官僚時代からかわいがっていただいて、独立し立てでお金がないときに飯を食わせてください、みたいな感じで言うと、しょうがないなと火鍋をおごってくれる、というような関係でした。

赤澤 そんな関係性があったんですね。

宇佐美 はい。民間で事業をやっていくというのがどういうことなのかというのを、一つ一つ教えてもらいました。その頃から、いつかはこの人と一緒に仕事したいなと思っていました。

赤澤 そこからセルフィットにつながるわけですね。

宇佐美 セルートがギグワーカーを使った配送サービスを始めたのが6年ほど前。どうやって事業を展開しているのかなどは定期的に食事しながら事業の話を聞いていました。で、あるとき、ある程度見通しが立ってきたので、この事業を分社化してブーストしたい、という相談を受けました。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長

赤澤 その時点では、社長になると思っていましたか。

宇佐美 思っていなかったですね。分社化の仕組みや事業計画について話していくなかで、社長やってみないかと言われました。ちょっと難しいけどやってみるかと思い、25年4月から、セルートから分社化したセルフィットの社長になりました。

赤澤 直の下ではなく、子会社の社長という形ですね。

宇佐美 そうですね。いつか一緒に仕事をしたいとは思っていましたが、正直こういう形で実現するとは想定していなかったです。

赤澤 セルフィットのサービスは、もともとセルートが展開していたDIAqを受け継いだものですよね」

宇佐美 セルートは、荷主やライダーとの信頼関係が先にあって、そこからIT化していった会社です。DIAqは逆で、運び手と荷物とをマッチングしようというシステムから発想から始まった事業。配送ニーズがたくさんあって、それをギグワーカーとつなげれば、多くの人が配送に参加できる。副収入にもなるし、専業にもなる。ウィンウィンの仕組みが作れるんじゃないか、というところから始まっています。

赤澤 成り立ちやサービスの発想が違うんですね。

宇佐美 そうなんです。事業の発展のさせ方が違うので、別の会社として事業を展開しよう、ということになりました。分社化して、今までにないやり方にチャレンジしています。

赤澤 Diaqはギグワーカーを活用してラストマイル配送を担っているわけですが、物流業界全体の状況は、どう見ていますか。

宇佐美 2024年問題もあって、まず輸送の部分が人手不足になり、効率化が進みました。物流センターも大型化して、DXや物流業者の協力で、何とか維持している状況だと思います。その結果、物流センターより後工程の配送の負荷が強くなっています。輸送が効率化すればするほど、ラストマイルがきつくなる構造です。

赤澤 配送が一番苦しくなっている。

宇佐美 そうですね。配送が輻輳化していて、ラストマイルに近い部分をDX化していき、いろんな人が参画できる仕組みにしないと、維持できません。収入だけをインセンティブにするのではでなく、健康のための運動になるとか、配送を通じて縁ができるとか、コミュニティーへの参加などの価値も含めて、より多くの人の手で配送を維持する仕組みが必要だと思っています。

宇佐美 

赤澤 都市部と地方では事情が違いますよね。

宇佐美 まったく異なります。都心部はEC(電子商取引)比率が高まり、配送負荷が極端に大きくなっていて、システムに追い立てられるように配送員が動いている。だからこそ、都市部では、自分のペースで計画的に配送できる、息をつける枠組みを作りたいと思っています。

赤澤 地方はどんな感じなのでしょうか。

宇佐美 物流ももちろんなのですが、旅客のニーズが非常に強いと感じています。地方では、貨物は人手不足で回らなくなり、旅客はニーズ不足で維持できなくなっていく。人が移動するというのは、生きていく上で必須ですが、それが事業として成り立たなくなってきているので、旅客と貨物を一体的に捉えて、移動のニーズを経済的に成り立つ範囲で満たしていくということを考えています。いわゆる「貨客混載」ですが、これは特に過疎地域になればなるほど必要性が高いと感じています。地方では、これをやらないと、旅客も貨物も共倒れしてしまう。

赤澤 そうしたなかで宇佐美さんはどういう役割を果たしていくんでしょうか。

宇佐美 セルフィットのDIAqは、モビリティとそれを必要とする人をマッチングする、非常にオープンなモデルだと思っています。いろいろな方の力を呼び込み、協力しながら、一つのコミュニティー、エコシステムを作っていく事業です。一つ一つの点と点をつなげて線にし、最終的に一つの絵にしていく。それが自分の仕事だと思っています。

赤澤 なるほど。非常にオープンにビジネスを捉えようとしている印象を受けます。輸送手段としては、当初はバイクを中心に考えていたという理解でよろしいですか

宇佐美 当初はそういう想定もありましたが、やってみて分かったのは、特に都心部では、徒歩の方が効率的なケースが多いということです。提携しているサービスステーションに荷物を集め、そこから数百メートル圏内を運ぶ。車を駐車する場所を探すことを考えると、徒歩で完結した方が効率的かもしれない。必ずしもモビリティが必要ではない場面が、かなりあると感じています。

赤澤 今のお話を聞いて、色めき立った方も多いんじゃないでしょうか。日本のラストワンマイルは独自の進化を遂げた結果、サービスレベルが上がりすぎて24年問題を悪化させた側面もあります。一方で、中国など人口が多い国では、都市部にステーションがあり、そこに荷物を集約して、消費者が取りに来たり、そこから配送するモデルがすでに広がっている。日本でも議論はありましたが、担い手がいなかった。今まさに、その担い手が現れたという印象です。

宇佐美 我々としては、現場のニーズに沿ってやってきただけなので、そうした議論があったことは正直あまり認識していませんでした。事業が始まった当初は軽バンなどの車が必要だろうから、カーリースの仕組みを整えようなどと考えましたが、拠点まで荷物を運んでしまえば、そこから先の配達は徒歩でもよさそうだという感触です。そうなると、整えるべきは家から配送ステーションまでの移動手段になります。最近は、電動スクーターなどとの連携のほうが重要になってくると考えています。

赤澤 事業はかなり進んでいますね。

宇佐美 徒歩圏配送モデルは1年以上運用しています。今年4月に30拠点だったのが、今は100拠点まで来ました。来年は600拠点を目指しています。都市部に関しては需要も多いですし、ビジネスとしてしっかり成立させていきたい。一方で、地方は配送だけで無く旅客、移動手段というものが下手したら無くなってしまうので、これを支えていく公益性のある事業となるのかなと思います。もちろん利益を上げることは考えなくてはなりませんが、社会的な公益性を考えられる体制作りを進めたいと考えています。

赤澤 地方展開も具体的に進んでいるんでしょうか。

宇佐美 2026年の2月、3月ごろから本格的な取り組みが始まる予定で、まずは仕組みづくりから始めます。貨客混載では、タクシー会社との連携が中心になります。規制や法務の課題は多いので、段階的に進めます。

赤澤 もともと地方の旅客も扱う予定だったんですか。

宇佐美 決してそういうわけではなかったんですが、地方の旅客事業者などからの問い合わせがとても多かったんです。これは何かをするべきだし、我々だったらできることがあるんじゃないかということで、対応できる体制を作ろうということになりました。現政権や国土交通省からも、交通空白やラストワンマイルの課題に取り組む方針示されましたし、だったらに我々もできることは参加してやっていこう、と。この方向性への方針転換は、25年の後半になってからですね。

赤澤 セルフィットはデジタルプラットフォーム企業という印象もありますね。

宇佐美 おっしゃる通り、デジタルのプラットフォーム作りがベースになっています。正直最初は、プラットフォームを作れば人がついてくると思っていました。でも、実社会に落とし込んでみると、それでは足りない。人のコミュニティー、人のプラットフォームを作らないと、人は動かない。この半年で痛感しました。

▲「みんなの力を合わせて物流危機を支えていきましょう」(宇佐美氏)

赤澤 地方物流において、国が何かの役割を果たすことはできるんでしょうか?

宇佐美 一つは初期投資の支援です。地方の旅客事業者には、投資余力がありませんから公的な支援が必要です。もう一つは意識の転換のための発信です。運ぶ側、運ばれる側ではなく、みんなで配送を支えるんだという意識をみんなが持つ必要があります。地方の物流、旅客の問題は、みんなの力を集めないと解決できない課題です。ドラゴンボールで言えば元気玉です。みんなの力を集めないと倒せない敵というわけです。人口減少という課題に対しては、物流もその一部を担えると思っています。なので国や政治家には、意識変革を促すようなメッセージの発信をしてほしいですね。

赤澤 最後に、26年の目標を

宇佐美 26年度中に単月黒字を達成することです。そして、都市部と地方部で、経済的に成り立つモデルを、まず一つ作る。都市部は純粋なビジネスとして成立させる。地方は公益性を前提に、共倒れを防ぐ仕組みを作る。

赤澤 物流を維持していくためにも、みんなの力を貸してくれと。まさに元気玉ですね。

宇佐美 そうです。みんなの力を配送に貸してほしい。

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