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SC改革開拓者の道筋に学ぶ「CLO本格始動の年」の歩き方

日清食品・深井常務が問う「変革を面白がれるか」

2026年1月1日 (木)

話題CLO(物流統括管理者)という言葉が、まだ今ほど語られていなかった頃。日清食品ではすでに、サプライチェーン(SC)全体を横断し、部門最適の壁を越えて意思決定を行う実践が始まっていた。

その中心にいたのが、日清食品常務取締役事業統括本部長兼Well-being推進部長の深井雅裕氏である。

営業出身で、物流の専門家ではなかった深井氏は、だからこそSCを「制度」や「肩書」ではなく、「人と組織の向き合い方」として捉え直した。営業・調達・生産・物流と分断されていた組織を横串でつなぎ、実質的なCLOとして全体最適の視点から改革を進めてきた。

異業種連携や業務プロセスの再設計を通じて物流効率化を先導してきたその取り組みは、結果として「CLOとは何を担う存在なのか」という問いに、現場起点の一つの答えを示している。CLO設置が義務化される2026年に、深井氏の言葉と実践は、多くの企業にとって示唆に富むものとなるはずだ。

LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が、改革の原点、CLOの実像、そして26年に向けたメッセージを聞いた。

▲日清食品の深井雅裕氏

2019年の転機、SC変革へ多様な分野から挑戦者が集結

赤澤 まずはあらためて自己紹介をお願いします。

深井 事業会社、日清食品の中でサプライチェーン全体、物流部門、営業本部、戦略企画など、販売から調達、生産、物流の戦略を立てている部門の責任者をしております。さらに、企業が成長していく上で、やっぱり人材育成も非常に重要だと考えておりまして、NISSIN ACADEMYという人材育成プログラムも担当しています。

赤澤 SCに関わる前は、物流をどう見ていましたか。

深井 もともとは営業畑で、正直、19年までは物流をほとんど分かっていませんでした。本当に恥ずかしい話ですが、「物流はあって当たり前」という感覚でした。営業側にいると、商品が届くのは前提で、その裏側を深く考えることはなかった。

実際に担当してみると、営業、生産、物流、それぞれが部門最適でちゃんと回っている。でも横から見ると、SC全体として最適かどうかは誰も分からない。データも前工程から後工程にバケツリレーで渡されているだけで、全体のインパクトが見えない。横断的なKPI、物差しがないため、物流だけ変革しても選択肢がもともと少なく、限界があるのだな、と最初に感じました。

赤澤 本格的なSC改革はどのように始まったのでしょう。

深井 物流部門のKPIをどうするかという話ではなく、持続可能性をどうするか、というところから始まっています。19年に一度、物流が止まるという事態に直面したことがありました。これをきっかけに「これはまずい」となり、全社でSCを考える部署を立ち上げました。

新部署には、生産、資材、情報システム、物流、財務など、バックグラウンドが全く違うメンバーが集まりました。物流の専門家ばかりではありません。

それで当時のキックオフ資料には「日清食品グループの未来をつくる“アベンジャーズ”になる」と書いたんです。今でも社内でいじられますけど。それぞれの立場が違っていて、バックグラウンドは違うんだけども、あの時あのメンバーがいて、サプライチェーン変革を始めたから良かったねっていう、そんなチームにしようみたいなことを一番最初に明らかにしたのが改革の始まりです。

羅針盤を持つことで、全体最適へ揺るぎない前進

赤澤 最初に手を付けたことは、なんですか。

深井 「羅針盤」を作ることでした。

将来、社会はどうなるのか。そのなかで日清食品のサプライチェーンはどうあるべきか。経営ともすり合わせながら、半年くらいかけて作りました。今でも判断に迷ったら、その羅針盤に戻っています。

赤澤 実際の改革で一番大変だったことは。

深井 各部門が、それぞれ本気で最適化してきたことですから「全体で見ると違うかもしれません」と言うと、当然、最初は反発もあります。

そこで意識したのは、押し切らないことです。押し切ると、「言われたからやった」になってしまう。そうじゃなくて、「日清食品としてどこを目指すか」を何度も話す。

工場長や営業支店長、マーケティングなど各部門の責任者を集めて話し合う機会も設けました。部門は違っても、最終的に目指す方向は一緒なんですよね。そこがそろってくると、自然と動き始めます。たすき掛け人事や、横串の会議体の設置など、社内の意思共有のためには、丁寧な作業を行いました。

CLOは肩書ではない、チームで動かす仕組みづくり

赤澤 実質的なCLOとして、孤独感みたいなものを感じたことはないですか。

深井 それはまったくなくて。むしろ、社内にも社外にも逆にいっぱい仲間ができた。専門家じゃないからできること、そんなことを真面目に話し合える仲間が増えました。

CLOは私一人がやってるわけではない。チームなので、いろんなメンバーがいて、それぞれの得意分野を出しながらやっているので、当然孤独感もないです。事業構造改革の一つとしてやっていることがCLOの役割だったということ、そんなふうな捉え方をしています。

赤澤 まもなく特定荷主それぞれ、3000人以上のCLOが誕生することになります。企業ごとの意識の差など気になりませんか。

深井 とにかく企業の外交の窓口として、営業部門とか物流部門とか、いろんな方とお話ししなきゃいけなかったのが、ワンストップでいけることになる。それによって変革が進んでいくんじゃないかなっていう期待はしています。

CLOにも、いろんなタイプのCLOがあっていい。それぞれの強みを生かして、向き合って話し合うのではなく、同じ方向を見ることが変革を早めるのではないでしょうか。

赤澤 CLOとしての立場で嫌われ役を買って出るような場面はなかったですか。

深井 嫌われたくはないです。押し切ってもあまり意味がない。絶対正しいとか多分なくて、最適解だって3年後、5年後では違いますから。ただ、判断は早くした方がいいと思っています。

「作業をゼロにする」、現場最適と経営最適をつなぐ視点

赤澤 経営目線だからこそ見えてきた現場課題みたいなものはありますか。

深井 やっぱり部門の最適化、全体最適化で見方は違う。現場ができる最適化と経営者目線で見た最適化では違っていいと思ってる。 それを両輪でどう動かしていくか、どうすり合わせていくかが多分ポイントじゃないでしょうか。

お得意様との関係で発生しているルーティーンや定型作業など、俯瞰してみると合理的じゃないものは多い。僕ら基本的に「作業をゼロにする」といっている。受注の自動化、そこからの調整とかデリバリーの確定までも、全部業務は自動化できるんじゃないかと思っていて。それは当然現場からはなかなか出てこない話なので、僕らの方で覚悟を持って、やっぱり働き方そのものを変えていきたい。

赤澤 社外、荷主と物流事業とのパートナーシップについてはどんな風に考えていますか。

深井 運んでいただいているという思いが根幹。物流会社からいかに選んでもらえるか。日清食品の商品をあの仕組みで運んでみたいと。運びたいって思ってもらわないと、そもそも物流の維持は難しい。反対に私たちは早くそれに気づけたことが良かった。契約自体を整えることから巻き返して、業務プロセス、運賃、人件費、工数などテーブルを見ながらお互いに議論できるようになっている。それぞれの業務プロセスも理解しながらお互いに変更できるところは変更するみたいな歩み寄りは必要じゃないでしょうか。

「6割がやる、はものすごい」、変化の予兆に期待

赤澤 26年に向けたCLO設置の動きをどう見ていますか。昨年12月の調査では、特定荷主のうち「CLO設置の予定なし」が4割という調査もあります。(特定荷主4割が「CLO選任の予定なし」と回答 ※2025年12月18日掲載)

深井 まだ4割が予定なしという数字は一見衝撃的ですが、僕はネガティブには捉えていません。

12月の段階で6割、2000人が「やる」と言っているのは、ものすごいことだと思います。まず一部がやって、うまくいけば周りが追随する、その方が健全です。良いスタートじゃないですか。

赤澤 深井さんの後を追って誕生する1年生CLOたちに、これは覚悟しておいてほしいみたいなものはありませんか。

深井 “覚悟しろ”とはあまり言いたくないですね。構えすぎなくていいと思っています。

行政の方では覚悟を決めて、大きく舵を切ったと思います。規制緩和から始まって、今ははっきり方向を示している。民間は、それを企業価値に取り入れて、そこからまた新しいサービスが生まれる、それをもっと面白がってやればいいと思うんです。むしろ、社会がこれだけ注目している状況にワクワクしてもらいたい。

SCをワクワクする現場に、それが物流変革の推進力

赤澤 深井さんは、これまでCLOを開拓してきたともいえるわけですが、ご自身のCLOとしてのゴールをどう設定していますか。

深井 明確にゴールはない気がしている。うちの社内で、もうCLOのチームができているので、いつでもCLO替われますし、冗談で4月から君がやりなさいとかって言ってたりするんです。やっぱり人を育成していくとかも、僕らCLOの仕事。 物流、サプライチェーンの現場をもっと面白くワクワクする現場にして、いろんな才能をここに結集して、CLOをやってみたいっていう人がいっぱい出てくることが一番大切です。

赤澤 深井さんのこれまでの取り組みの中でも、上手くいかなかったこともありましたか。

深井 むしろ上手くいかなかったことの方が圧倒的に多い、打率で言えば1割2割です。完璧な判断なんていうのは、やりながら考えさせてもらいたい。

赤澤 深井さんが実質的なCLOとなってから、日清食品にはどんな変化がありましたか。

深井 変革が普通になってきて、ここ数年で、さまざまな課題に対して全社各部門で一斉にやろうぜみたいな文化が根付いている気がします。元々の新しい食文化を作ろうみたいなパーパスがあって、そこにすべての業務が向かっていくのが実感できるようになった。

当然、個社だけでやってる最適化とかの可能性よりも、いろんな仲間とやった方がいろんな可能性が広がる。26年はそういう方向に、CLOというところを基点に変わっていく。CLOになりたいという人が出てくる、人材を育成するといったこともやっていかなきゃいけない。

──CLOに就任することが、悲壮な覚悟であるかのような風潮を深井氏は一蹴する。「今が仕事で一番楽しい」という深井氏の言葉は終始、自然体で前向きだ。

26年にCLOを担う人々たちもまた、物流の変革、大事件に立ち会うチームの一員。悲壮な覚悟で臨むよりも、ワクワクしながら取り組むことこそが、持続可能なSC構築に不可欠なのではないだろうか。

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