話題2024年問題、EC(電子商取引)貨物の急拡大、BCP対応、脱炭素化。物流を取り巻く環境は、単なる効率化やコスト削減といった従来の延長線では対応できない局面に入っている。こうした構造変化を背景に、北九州市は22年3月、「北九州市物流拠点構想」を策定した。物流を社会インフラとして維持するだけではなく、「都市を成長させる産業」として捉え直す試みである。
北九州市は、製鉄・化学を基盤に日本の製造業を支えてきた街だ。現在は自動車、半導体関連産業の集積が進み、九州全体が“シリコンシティー”としての色合いを強めるなか、物流もまた次世代を見据えての重要性が一層高まっている。部素材の調達、完成品の供給、さらには災害や有事を想定したBCP対応まで含め、サプライチェーン全体の安定性が企業活動の前提条件となりつつある。
そのなかで北九州市が描く将来像は明確だ。
「物流のすべてをこの街で」

▲北九州市の蓑田圭祐氏
市の産業経済局企業誘致課物流拠点化係長、蓑田圭祐氏は、北九州市をひとことで表すキーワードとしてこの言葉を提案する。単なる通過点ではなく、北九州市ならではの機能でサプライチェーンを再構築し、次代の物流戦略を実現するための物流インフラを備えた都市を目指している。それは、短期的、対症療法的な物流対策ではなく、都市構造そのものを更新する挑戦といえるのではないか。
陸・海・空が交わる物流基盤を備える北九州の強み
北九州市の物流拠点構想を支える最大の基盤は、その立地にある。「本州と九州の結節点として、九州から本州へ向かう陸送のすべてがこのエリアを通過する」(蓑田氏)。市はこの特性を「通過する街」ではなく、「結節する街」と捉え直し、物流機能そのものを都市の価値として取り込む戦略を描いている。本州と九州をつなぐだけではなく、陸・海・空のあらゆる輸送インフラの結節点となるのが北九州市の強みである。
陸上では、九州自動車道、東九州自動車道、中国自動車道が交差し、広域物流の要衝を形成する。海上では、2つのコンテナターミナルと西日本最大級のフェリーターミナルを擁し、東南アジア、中国、韓国を中心にコンテナ航路が充実。国内フェリー航路は、長距離トラック輸送の代替手段としてモーダルシフトを支えている。
航空面では、「九州・中四国で唯一、24時間運用可能な海上空港」(蓑田氏)である北九州空港が核となる。国内定期便フレーター就航に加え、韓国・仁川、中国・深センといったアジア主要都市への定期貨物路線を有する点も北九州市ならではの魅力だ。製造業の部素材や高付加価値貨物を、リードタイムを意識しながらアジアとを結ぶ拠点としての機能を担っている。
27年には滑走路を3000メートルへ延長し、より大型で長距離便の航空機運用にも対応する予定であり、市が目指す「産業立地と物流機能を同時に引き上げるインフラ強化」への着実な一歩に位置付けられるものだ。
北九州空港、北九州港ともに取り扱い貨物量の拡大を続けている状況は、モーダルシフトによる環境対策への意識が着実に高まっていること、サプライチェーン全体を意識した、多様な輸送モードの検証が着実に広がっていることを感じさせる。輸送の選択肢を広げて多種多様な物流ニーズと時代の変化に対応できる街・北九州市の真価が発揮されようとしている。
モーダルシフトの実装地、官民連携の現在地
北九州市の物流拠点構想の特長は、理念にとどまらず「実際に使われる物流」を重視している点にある。物流効率化に向けて必須となる“連携”は、ともすれば民間企業同士の取り組みに頼りがちだが、北九州市では官民連携でしっかりと道すじを見極め、着実な前進を目指していることも注目される。
例えば、国内有数の鉄道貨物拠点、北九州貨物ターミナル駅の管理運営事業者は、市自身が株主の1つである。同ターミナル駅はE&S(着発線)荷役方式を採用し、「全国屈指のリードタイム短縮」を実現する列車体系を構築した北九州の重要な物流インフラとなっている。海上コンテナを鉄道で輸送する海陸一貫の複合輸送も、多様化する輸送手段の1つとして定着し始めており、今後、市による積極的な政策連携によって物流革新の切り札としての後押しも想定される。
物流危機がもっとも顕著な形で表れるといわれる地域の農産物物流でも、北九州市ならではの機能を生かした取り組みを実証している。九州各地の農産物を、北九州市からフェリーで関西圏・首都圏へ輸送する仕組みを整え、補助制度を通じて後押ししてきた。これは、本州大都市圏への長距離輸送をトラックからフェリーにモーダルシフトするだけではなく、九州各地の農産物を一旦北九州市に集約し、そこからまとめてフェリーを利用する“共同物流”の効率化も兼ねるものだ。トラック運転時間の短縮と積載効率向上、排出CO2量削減を実現する取り組みとして、利用実績も増加傾向という。
実際にこうした取り組みを実装することから、平日は高稼働だが土日は空きが出てしまうといったフェリー運用の現状も見えてきたといい、蓑田氏も今後の課題と語る。地方物流や商材ならではの課題を、モーダルシフトや共同物流で解決しようとする試みを先導して知見を重ねることで、次の改善点も見えてくるのではないか。
北九州市の「自動車調達物流改善プロジェクト」は、官民連携の象徴的な取り組みだ。今年度の国土交通省による地域連携促進事業として立ち上げた「北九州市地域物流MaaS協議会」では、市が事務局を務めるほか、完成車OEM(オブザーバー)、物流事業者、研究機関や業界団体などが参画する。調達物流領域の効率化に焦点を当てたコンソーシアムとして、物流事業者と発荷主・着荷主が一体で取り組む、サプライチェーン全体の効率化を検証するものであり、まずは地域の調達物流の実態調査が行われる。製造業の集積地である北九州ならではのテーマであり、サプライチェーン全体の最適化への連携、意識改革を後押しする取り組みとして、その成果が注目される。
物流拠点化を加速し、成長産業呼び込むワンストップ体制
北九州市が目指すのは、物流単体の高度化だけではない。半導体、EV(電気自動車)、ロボットといった成長産業と物流を一体で捉え、「好循環を回す都市構造」をつくることにある。すべての物流を束ね得る存在として北九州市は、市への企業進出の相談においても企業誘致課を入り口とする庁内連携による「ワンストップ対応」を整えた。
物流適地として、また今後の成長産業の集積地としての市の取り組みに興味を持ったなら、とにかくまず相談してほしいと蓑田氏はいう。そこを起点に、物流拠点推進、港湾、空港、都市開発など関係部署が横断的に連携し、用地、インフラ、補助制度、物流条件を一体で整理する。部署をまたぐことによる停滞がないスピード感は、実務面での力強いサポートとなる。
一方で蓑田氏は、産業用地不足や既存物流施設の老朽化といった課題に直面していることも明かす。用地開発においては地域未来投資促進法を活用した民間開発の誘導なども、今後の重要な取り組みとなる。インターチェンジを中心としたエリアでは、新たな大型物流拠点開発も相次いでおり、「物流基盤の充実が、成長産業を含む新規企業の立地の呼び水にもなる好循環」(蓑田氏)に期待を寄せる。
さらに「北九州市は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの集積地でもある。国内最大級の洋上ウインドファームの稼働も予定されており、次世代エネルギーの創出により、企業活動が活発になれば、物流の活性化にもつながる」(蓑田氏)という。次世代に向けた企業価値を創出するための舞台としても、魅力的な環境が整いつつある。
現在は、関係機関や事業者と意見交換を重ねるという段階の自動運転トラックやドローン物流などの活用も、北九州市ならではの課題の解決に向けて、実証の可能性が探られることだろう。
物流を止めない──地政的条件と向き合い描く北九州モデル
特定荷主事業者にはCLO(物流統括管理者)設置義務化が4月に迫る。蓑田氏はこれを「物流が経営の中枢で語られる転換点」と捉え、全体最適に向けた企業間連携や共同配送、DX(デジタルトランスフォーメーション)・自動化投資が進むことで、物流拠点構想の実効性は一段と高まると見ている。
物流を止めないという観点では、BCP対策において強みを持つ点も強調する。「過去100年間で震度4以上の地震は3回のみ」(蓑田氏)という災害リスクの相対的な低さにも触れ、陸・海・空すべてで「代替輸送の選択肢」を持つ点は、企業のリスク分散ニーズと合致することも指摘する。
巨大消費圏として成長を続ける福岡市の近隣にあることが、かえって北九州市独自の立ち位置を確立する推進力にもなっている。「輸送方法の見直し、拠点の再配置が真剣に検証されるなか、陸・海・空の三位一体活用などは、北九州市ならではの優位性」(蓑田氏)となり、物流危機というピンチをチャンスと捉え直す契機となっている。
福岡市とは役割を明確に分けた、生産と物流を支える実装拠点としての成長戦略に「北九州市物流拠点構想」を位置付けることができるだろう。ほかの都市では担いきれないモーダルミックスなど新たな施策を実証できる街としての姿勢が、「物流のすべてをこの街で」の言葉に込められている。
物流をコストではなく成長への投資と捉える企業が街を活性化させ、新たな共創が連鎖することも必要となる。地政的な条件と向き合いながら、現実に使われる物流を目指すには、「民間の事業者と一緒に、その知恵と活力ももらいながら積み重ねていきたい」と蓑田氏はメッセージを送る。
北九州市は2026年を一つの節目として、この街ならではの物流モデルを、着実に形にしようとしている。

▲「北九州市物流拠点構想」のイメージ図(出所:北九州市)
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。















