話題物流の2024年問題を経て、荷主、物流事業者、ITベンダーの関係性は質的な転換点を迎えている。物流を「現場任せ」「外注任せ」にする時代は終わり、データを前提に企業横断で最適化を図るフェーズへと移行しつつある。25年はその兆しが各所で顕在化し、26年には共同化やシェアリングといった取り組みが、構想ではなく具体的な実行事例として姿を現し始める年になる可能性が高い。
その転換の渦中で、創業から一貫して「“ハコブ”を最適化する」を掲げてきた物流DXベンダーHacobu(ハコブ、東京都港区)は、どのように業界の変化を捉え、次の一手を描いているのか。新年最初の対談として、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が、Hacobu社長の佐々木太郎氏に、10年の歩みと26年を見据えた展望を聞いた。

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赤澤 物流DXの分野で10年にわたり取り組みを続けてこられたHacobuの佐々木太郎社長にお話を伺います。まずはあらためてですが、簡単に自己紹介をお願いできますか。
佐々木 2015年にHacobuを創業して、今回が3回目の起業になります。創業前に書いた事業計画の中で、すでに「運ぶを最適化する」「物流ビッグデータで変える」と書いていました。当時は「そんなことは無理だ」と言われることの方が多かったですね。
赤澤 10年前から、その言葉を掲げていたわけですね。
佐々木 はい。ただし「最適化」の中身は、時代によって変わるものだと思っています。これはおそらく完了しないテーマです。

▲Hacobuの佐々木太郎社長
赤澤 そもそも、なぜ物流だったのでしょうか。
佐々木 前の会社がうまくいかず、30代半ばで3年間無給という時期がありました。その後、コンサルタントとして入ったのが、乳業メーカーの卸子会社の経営改革プロジェクトです。そこで初めて物流の現場を見て、「こんなにアナログなのか」と衝撃を受けました。
赤澤 2014年当時ですよね。
佐々木 はい。スマートフォンも普通に使われていた時代なのにファクスで情報が飛び交い、トラックがどこにいるのか分からない。それで全国の物流が回っている。この状況を見て、「これは必ず最適化できる問題だ」と直感しました。
赤澤 今では業界を代表する存在ですが、最初から順調だったというわけではないですよね。
佐々木 全然です。最初の5年間は本当に苦しかったですね。最初のプロダクトは、位置情報端末を使った「MOVO Fleet」(ムーボ・フリート)でした。中小運送会社向けに売ろうとしたのですが、テレアポしても話を聞いてもらえない。「別に変える必要はない」「デジタル化にはあまり関心がない」という反応ばかりでした。
赤澤 業界構造の壁ですね。
佐々木 そこで気づいたのが、「運送会社だけにアプローチしても構造は変わらない」ということでした。
赤澤 転機はどこにあったのでしょう。
佐々木 荷主企業との接点です。イオンから「入荷予約をファクスでやっているが、デジタル化できないか」という相談をいただきました。最初は正直、「地味だな」と思いましたが、ある時ふと「ここは物流ネットワークの結節点だ」と気づいたんです。
赤澤 結節点とはどういうことだったんでしょうか。
佐々木 物流センターというノード(接続点)をデジタル化すれば、物流ネットワーク全体を表現できる。コンピューターネットワークのノードとリンク(ノードとノードの接続)の構造に似ていると感じました。この結節点を捉えていったら、デジタルで表現できるんじゃないかな、と。
赤澤 発想としてはフィジカルインターネットそのものですね。
佐々木 そこから生まれたのが「MOVO Berth」(ムーボ・バース)です。

赤澤 2024年問題を経て、業界の空気は大きく変わりました。
佐々木 一番変わったのは荷主の意識です。以前は「物流は物流会社任せ」という考え方が主流でしたが、「これは自社の経営課題だ」と捉える企業が一気に増えました。
赤澤 SCM全体で見ると、ボトルネックが移動した。
佐々木 そうです。これまでのボトルネックは生産や調達などの計画系でしたが、今は実行系、つまり物流に移っています。ボトルネックが変われば、マネジメントの焦点も変わる。荷主が物流を「見に行く」必然性が生まれたのだと思います。
赤澤 現在のHacobuのサービスはかなり幅広いですね。
佐々木 MOVO Fleetは、今では荷主や元請けが協力会社も含めて全体を把握する用途が中心です。「MOVO Vista」(ムーボ・ビスタ)は配送依頼の電子化で、取適法(中小受託取引適正化法)対応や実運送体制管理簿の作成も可能です。26年4月を前に導入が急増しています。
赤澤 お話を聞いていると、まずは一つの会社の中で物流の状況をきちんと見えるようにすることと、その先で企業の枠を超えてデータをつないでいくこと、この2段階がポイントになっていそうですね。
佐々木 そうですね。多くの企業では、現場ごとに最適化が進んでいて、本社から見ると全体像が見えないというケースが少なくありません。まずは社内の拠点や現場をつないで、どこで何が起きているのかを把握できる状態をつくることが第一歩になります。
赤澤 社内の分断を解消する、ということですね。
佐々木 はい。そのうえで次の段階として、荷主、元請け、協力会社、着荷主といった、これまで立場ごとに分かれていた企業同士をデータでつないでいく。実は、我々のサービスは最初からその企業間接続を前提に設計しています。

赤澤 社内に閉じた最適化では限界がある、と。
佐々木 まさにそこです。さらに将来的には、商流上は直接の取引関係がない荷主同士であっても、データを起点に「このルートとこのルートは一緒にできるのではないか」といった形でつながる可能性も出てきます。共同化やシェアリングを、構想ではなく実行に落とすための土台をつくっていくイメージですね。
赤澤 九州物流研究会での「クロスデータ」の取り組みは象徴的ですね。
佐々木 複数社の物流データを重ね合わせて、「このルートとこのルートは統合できる」という可能性を抽出する仕組みです。共同化を精神論で終わらせず、データから具体案を出すことが重要だと考えています。
赤澤 ここまでのお話を踏まえると、26年に向けては、構想や議論の段階を超えて、実際に形になった取り組みが見えてくる、という理解でよさそうですね。
佐々木 そうですね。25年は、各社がデータを整えながら「この組み合わせなら一緒にできそうだ」という兆しが各所で見え始める年になります。例えば、同じエリアで似た時間帯に走っているルートが可視化されて、「ここはエリア配車としてまとめられるのではないか」といった具体的な検討が進むフェーズです。
赤澤 まずはデータ上で、重なりや無駄が見えてくる段階ですね。
佐々木 はい。その流れを受けて26年には、データを起点にエリア配車やルート統合を実際に実行し、現場のオペレーションとして回し切った事例を1-2件は示せると考えています。
赤澤 単なる実証実験ではなく、日常の配車や運行の中で使われる、と。
佐々木 そこが重要です。「データを集めました」ではなく、「データをもとに配車を組み替え、エリア単位で車両を動かした」というところまで踏み込めるかどうかが、26年の分かれ目になると思っています。共同化やシェアリングも、その延長線上で現実のものになっていくはずです。

赤澤 26年4月に向けて、物流統括管理者、いわゆるCLOの設置が進んでいきますが、ここまで伺っていると、CLOの役割とデータの重要性はかなり密接に結びついていそうですね。
佐々木 そうですね。CLOに求められているのは、現場の細かいオペレーションを一つ一つ見るというよりも、自社の物流全体を俯瞰して、どこに課題があり、どこをどう変えるべきかを判断することです。その前提になるのが、継続的に取得されたデータだと思っています。
赤澤 データがあることで、CLOは何ができるようになるのでしょうか。
佐々木 例えば、拠点ごとの荷待ち時間や滞留、エリア別の輸送量、協力会社ごとの稼働状況などが見えてくると、「この問題は一つの現場の話なのか、それとも構造的な課題なのか」を切り分けられるようになります。CLOは、そうした情報をもとに優先順位を付けて、社内外に働きかけることができるようになります。
赤澤 現場感覚ではなく、根拠を持って意思決定できる、と。
佐々木 はい。さらに企業間のデータまでつながってくると、「この会社単独ではなく、エリア単位で配車を組み替えた方がいい」「この荷主と組めば効率が上がる」といった、企業をまたいだ判断も可能になります。これはまさにCLOに期待されている役割だと思います。
赤澤 そのときに、Hacobuはどんな形でCLOを支援できるのでしょうか。
佐々木 我々が提供できるのは、まず現状を把握するためのデータ基盤です。入荷予約や配送依頼、車両の動きといった日々の業務データを自動的に蓄積し、ダッシュボードで可視化することで、CLOが「考えること」に時間を使える環境をつくります。
赤澤 CLOが資料づくりや情報収集に追われないようにする、と。
佐々木 その通りです。さらに、複数社のデータを扱える仕組みを通じて、エリア配車や共同化の候補をデータから提示できる。CLOが社内外と合意形成を進める際に、「感覚」ではなく「データ」を共通言語として使えるようにすることが、Hacobuの役割だと考えています。
赤澤 CLOの仕事を、実務面から支えるインフラという位置づけですね。
佐々木 はい。CLO制度が形だけのものに終わらず、実際に物流を変えていくための道具として、データと仕組みを提供していきたいと思っています。
赤澤 ここまで伺ってきて、26年に向けて何が起きそうなのか、輪郭がかなり見えてきました。正直なところ、まだ聞きたいことがたくさんありますが、そろそろお時間がなくなってきてしまいました。エリア配車や共同化の話も、CLOの役割も、本当はそれぞれ一本ずつ対談ができる内容だと思っています。
佐々木 そうですね。特に共同化については、まだ「こうなるはずだ」という段階の話も多いので、実際にデータを使って動かしてみた結果が出てからの方が、具体的なお話ができると思います。
赤澤 まさに、25年から26年にかけてですね。今携わられている取り組みが進めば、「構想」ではなく「実際に何が起きたのか」をお伺いできそうですね。ぜひそのタイミングで、続編をお願いしたいですね。
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