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東京海上スマートモビリティが挑む、物流事業者間連携の仲立ち

中継輸送を越えて、“バトン”がつなぐ物流連携

2026年1月1日 (木)

話題物流の2024年問題を経て、業界には「連携」が不可避のテーマとして突き付けられている。ただ、その必要性が長年語られてきた一方で、競争関係や制度、慣行が壁となり、実装に至らないケースも多かった。

そうしたなか、保険会社グループという第三者の立場から物流コンソーシアム「baton」(バトン)を立ち上げ、企業横断の連携を社会実装しようとしているのが、東京海上スマートモビリティ(東京都千代田区)だ。26年2月には、複数社による共同運行の実証が控える。なぜ今、保険会社が物流連携の旗を振るのか。どこに難しさがあり、何が突破口となったのか。LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が、同社ロジスティクス事業部長の上野雄羽氏に聞いた。

赤澤 昨年も上野さんには、baton(バトン)という、物流・サプライチェーン(SC)の構造課題を、複数の事業者の協業によって解決することを目指したコンソーシアムについて、さまざまな機会でお話を伺ってきました。2026年は、このbatonがより広い領域で動き出し、より具体的に変化を引っ張っていく年になるのではないかと感じています。今日は、batonがそもそもどのような枠組みなのか、今どこまできていて、どんな課題があり、その先にどんな世界を見ているのか、時間軸も含めて具体的に伺っていきたいと思います。

▲東京海上スマートモビリティ・ロジスティクス事業部長の上野雄羽氏

上野 ありがとうございます。

赤澤 このbatonの舵取り役というか調整役を務めているのが東京海上スマートモビリティです。東京海上という名前は多くの方がご存じだと思いますが、そこにスマートモビリティが付くことで、どんな事業や取り組みをしている会社なのか。上野さんご自身の自己紹介と併せて、教えていただけますか。

上野 私は東京海上日動に入社してから20年弱、物流領域やサプライチェーンの貨物保険を中心に、法人営業や商品開発、ロンドンでの再保険、インテリジェンスリサーチなどに携わってきました。東京海上スマートモビリティは、保険制度の改正を背景に、保険以外のリスクソリューションを提供できるようになったことを受けて設立された会社です。もともと東京海上は自動車保険が売上の半分以上を占めていますし、創業をたどると物流保険が祖業でもあります。そうした長年蓄積してきたデータや知見を生かし、保険以外の形でも社会に価値を提供していこうという会社です。

赤澤 そうすると、上野さんご自身はかなり長い間、物流の世界を“リスク”という視点から見てこられたわけですよね。この業界では、その立場自体がかなり貴重だと思います。LOGISTICS TODAYでは、24年問題が明確になって以降、企業の枠を超えた連携、業界を超えた協調の必要性を繰り返し発信してきました。ただ一方で、物流は標準化が必要だと言われながら、プレイヤー同士は競合関係にあり、旗を振る難しさがある。結果として、総論賛成・各論反対に陥りやすい構造があったと思います。そうした領域に、東京海上スマートモビリティがbatonという枠組みで踏み込んだ背景を、改めて教えてください。

上野 もともと我々は、保険本業で培ってきたデータやリスクマネジメントの知見を使って、社会にとってインパクトがあり、かつビジネスとしても成り立つ領域はどこかを考えていました。その中で物流やサプライチェーンは、全ての産業が関わる基盤でありながら、日本では人口動態を背景にした人手不足という、極めて構造的な社会課題を抱えている領域だと感じました。

赤澤 確かに、物流が関わらない産業はほぼ存在しないですよね。

上野 そうなんです。皆さんお話を伺うと、個社の努力には限界があり、連携が必要だという認識は共通していました。ただ、歴史的な経緯や利害関係のなかで、なかなかブレイクスルーが起きない。そこで、物流事業者ではない第三者が声を上げることで、少しでも動き出せるのではないかと考えました。全く関係のない第三者では意味がありませんが、保険やリスクマネジメントは社会インフラとして広く使われてきた領域で、中立性という点で親和性があると判断しました。

赤澤 祖業の話も、象徴的だと思います。東京海上は明治期、日本企業の海外進出を支えるために生まれた会社でした。

上野 1879年の創業時、日本は殖産興業の時代で、企業が海外に出ていくなかで、海上輸送には大きなリスクがありました。そのボトルネックを解消するため、日本で初めて物流リスクを引き受ける保険会社として東京海上が誕生しました。145年経った今、日本の物流は形を変え、新しいリスクに直面していますが、物流リスクに向き合うという軸は変わっていません。その延長線上にbatonがあると考えています。

赤澤 batonというと、中継輸送や共同運行の話が注目されがちですが、実際にはそれだけではありませんよね。第三者として旗を振る難しさは、昨年12月の記者会見からも感じ取れました。実際、batonの立ち上げで一番苦労した点はどこでしたか。

上野 着手したのは約2年前になりますが、一番最初に難しかったのは、「保険会社が何をするのか」「中立公平とはどういう意味なのか」という点が、社内外ともに理解されにくかったことです。警戒というより、イメージが湧いていなかったというのが正直なところです。

赤澤 確かに、物流業界からすると、保険会社が前に出てくるという発想自体が新しい。

上野 そこでまずやったのが、batonの立ち位置や存在意義を、立ち上げの段階、賛同者を集める段階で明確に定義することでした。物流やサプライチェーンの課題は、個社の範疇を超え始めている。個社利益の追求だけではなく、企業連携によって解決できる社会課題がある。そのための枠組みがbatonであり、その考え方に賛同いただける方々で立ち上げた、という点を最初に共有しました。

赤澤 最初に思想を固めたわけですね。

上野 はい。ここが曖昧だと、途中で必ずぶれてしまうと感じていました。中継輸送の社会実装は、あくまで第一歩です。batonは、連携を成立させるための枠組み、言わば器だと考えています。そのなかで、段階的に標準化やデータ連携、リスク分担といったテーマに広げていく構想です。

赤澤 その器としての機能を、もう少し具体的に教えてください。

上野 大きく3つあります。一つ目がデータ分析です。企業連携、特に競合関係にある物流企業同士が連携する場合、どの組み合わせで効率が最大化するのかを見極める必要があります。ただ、生データを直接やり取りするのは現実的ではありません。そこで事務局が間に入り、データを預かって分析し、「この組み合わせで効果が出そうだ」という形で返す。これが最初のブレークスルーになりました。

赤澤 そこを越えないと、議論自体が始まりませんね。

上野 2つ目がガバナンスです。物流の法令や認可は非常に複雑で、しかも変化が速い。さらに、共生と競争のバランスを保ち、独占や不公正にならないようにする視点も欠かせません。物流企業ではない第三者が、そこをフラットに整理する役割を担うことが重要だと考えました。

赤澤 3つ目がリスクアロケーションですね。

上野 はい。企業連携をすれば、必ず「どこまで誰が責任を負うのか」という問題が出てきます。これは避けて通れません。過去の保険・リスクマネジメントのケイパビリティーを生かし、ガイドラインや協定書として整理することで、実務に落とし込む。ここは評価いただいている部分だと思います。

赤澤 ただ、各論に入ると、運賃、責任、車両仕様、荷役方法など、調整項目は一気に増えます。ここが一番、総論賛成・各論反対に陥りやすいところだと思います。

上野 まさにその通りで、だからこそ最初に考えたのが、総論賛成の部分をできるだけ大きく固めることでした。日本の物流業界を代表するような企業のトップの方々に直接お話をし、個社の課題ではなく、業界全体、日本の物流課題を連携で解決したいというレイヤーで合意を得る。そこに時間をかけました。

赤澤 トップ同士で合意ができていれば、各論でも「無理」で終わりにくくなる。

上野 そうです。無理、不可能と言われがちなことも、「どうすれば解決できるか」という方向で議論しやすくなります。

赤澤 総論の部分をかなり大きく固めてきたというお話でしたが、実際に共同運行をやるとなると、現場レベルでは相当細かい調整が必要になりますよね。運賃の考え方、事故が起きた場合の責任分担、車両の仕様や荷役のやり方など、どれも簡単に合わせられる話ではないと思います。そのあたりは、今まさにご苦労されているところではないですか。

上野 まさにその通りで、今はそこに一番エネルギーを使っている段階です。26年2月に実証運行をやるということを公表しましたが、そこに向けて各論の洗い出しと調整を、かなり細かく進めています。現場を突き詰めなければ、社会実装は絶対にできませんので、うちのチームも含めて、隔週、場合によっては毎週のようにミーティングを重ねています。

赤澤 やはり現場を抜きにしては進まない。

上野 そうですね。各社それぞれが、これまでの歴史のなかで最適化してきたやり方があります。それは荷主やエンドユーザーにとって、安く、正しい時間に、正しい品質で届けるために磨かれてきたものです。そこを変えるというのは、簡単な話ではありません。ただ一方で、今だけではなく、5年後、10年後の物流を考えると、どこかで変えていかないと、結果として荷主やエンドユーザーにも影響が出てしまう。その時間軸を入れて議論することで、少しずつ理解が進んできていると感じています。

赤澤 印象的だったのが、上野さんが「無理」とか「不可能」という言葉を、そのまま受け取らないというお話です。この考え方は、batonの中でも重要なポイントだと思います。

上野 物流の議論では、どうしても「それは無理だ」「現実的ではない」という話で止まってしまうことが多いと感じています。ただ、その“無理”の中身を分解していくと、実は理由が違うことが多いんです。時間がかかるから無理なのか、コストがかかるから無理なのか、制度上の問題なのか、それとも慣習の問題なのか。そこを切り分けないと、議論が前に進みません。

赤澤 確かに、理由が違えば、解き方も変わりますよね。

上野 そうなんです。例えばコストの問題であれば、誰が投資主体になるのか、どんなパートナーを巻き込めば解決できるのかを考える余地がありますし、時間の問題であれば、3か月なのか5年なのかで、ロードマップの描き方が変わります。制度や認可の問題であれば、解釈の整理や、場合によっては制度変更の働きかけも必要になる。慣習であれば、現場への影響を可視化しながら、段階的な移行を考える。batonは、そうした分解を行う場でもあると考えています。

赤澤 具体的な各論で言うと、車両や荷役、バースの問題なども、大きな壁になりますよね。

上野 まさにそこは典型的な論点です。車両の仕様が違えば、バースの高さが合わない。車両を大型化すると、そもそも入庫できない拠点が出てくる。荷役方法も各社で違いますし、データ項目やインターフェースもバラバラです。これまでは、そうした違いがある時点で「無理」となりがちでしたが、今はまず全部洗い出して、短期・中期で何ができるのかを整理しています。

赤澤 一気にそろえるのではなく、段階的に。

上野 はい。いきなり完璧な標準化を目指すのではなく、どこからなら現実的に合わせられるのかを見極めることが重要だと考えています。

赤澤 もう一つ、非常に重要だと感じたのが、投下資本の話です。車両の更新、拠点の再整備、EV(電気自動車)化や自動運転化など、結局のところお金の話から逃げられません。

上野 おっしゃる通りです。システムやデータ連携の難しさ、競争環境や制度の問題と並んで、投下資本は非常に大きな論点です。車両を大型化する、EV化する、拠点を再整備する、新しい設備を入れる。どれも相応の資本が必要になります。そのなかで、物流・サプライチェーンの領域に、今後どうやって資本を呼び込んでいくのかは、避けて通れないテーマです。

赤澤 最近は、物流拠点の再整備に関する議論も進んできました。

上野 23年の物流拠点のあり方検討会では、老朽化した施設の再整備や、大型で高機能な拠点を整備していく方向性が示されました。そこに資本の話が正面から入ってきたのは、大きな前進だと感じています。連携を進める上でも、物理的な基盤が整わなければ、どうしても限界がありますから。

赤澤 この春から、物流統括管理者、いわゆるCLOの設置が義務化されます。荷主が物流に向き合う責任を負うという意味では、大きな転換点ですよね。

上野 CLOの設置は、非常に大きなきっかけになると思います。ただ、CLOの役割は単なる制度対応ではなく、サプライチェーン全体のアジリティとレジリエンスを高めることにあります。そのためには、社内外のステークホルダーを調整する力が不可欠です。

赤澤 その調整を、CLO一人で担うのは現実的ではない。

上野 おっしゃる通りです。CLOが全てを一人で抱え込む前提ではなく、外部に調整役、オーケストレーターを持ち、連携しながら進めていくことが重要だと考えています。我々保険業界は、これまでもサプライチェーンリスクを見ながら、レジリエンスを高める役割を担ってきました。リスクスコアリングの考え方を使えば、どのリスクに対して、回避、最小化、トランスファーといった手段を取るべきかを整理できます。そうした知見は、CLOの皆さんにとっても一助になるはずです。

赤澤 最後に、batonを今後どう広げていきたいのか、改めて聞かせてください。

上野 現在は物流事業者の参画が中心ですが、必ずしもそれだけに限る必要はありません。物流不動産、車両、テクノロジーを持つ企業、そして荷主の皆さんにも参加していただきたい。「不可能だと思っていた課題」をまず場に出し、その要因を分解する。その中で、解決できる企業や技術を巻き込んでいく。荷主の方であれば「ここに困っている」、テクノロジー企業であれば「この技術が使えるかもしれない」という声を、ぜひ事務局に投げてほしいと思っています。

赤澤 baton自体も、固定された仕組みではない。

上野 はい。課題に応じて進化していく枠組みである必要があります。だからこそ、多くの声を持ち寄っていただきたいと考えています。

赤澤 26年2月の実証運行は、その第一歩というわけですね。

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