
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ライナフのスマート置き配、東海で1000棟突破」(10月17日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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ロジスティクスオートロック付き集合住宅の玄関前まで荷物を届ける。ライナフの「スマート置き配」は、不在再配達の削減だけでなく、配送オペレーションの前提、配達員の働き方を大きく変える。導入は無料。提携宅配事業者の配達員だけが入館でき、履歴も残る。宅配ボックスが足りない物件でも後付けで機能追加できるのが強みだ。
同社のスマート置き配サービスを導入する物件数はすでに1万8000棟に達する。ことし4月に全国導入棟数1万5000棟突破を大々的に発表したばかりだけに、破竹の勢いとはこのことだ。同様のオートロック解錠機能と置き配を組み合わせたサービス事業も登場してはいるが、この領域でのリーディングカンパニーとして、圧倒的な存在感を放つ。

(出所:ライナフ)
導入目標数を想定したロードマップでは「2027年末に5万棟」を掲げる。とはいえ、社長の滝沢潔氏は、「現在、東京エリアでは10棟に1棟が導入しているに過ぎないともいえる。27年度の目標を達成したとしても東京で25%。まだまだここからが本番」(滝沢氏)と言い切る。
それでも、同社が“置き配の認知促進と普及”という道なき道を切り拓いてきたことは間違いない。それだけに、滝沢氏がこれまでの取り組みで得たラストワンマイルにおける“気づき”や“提言”は、この領域の開拓者ならではの説得力に富む。
非効率の元凶は「再配達」ではなく「時間帯指定」にあり
再配達率削減への貢献としては、事業開始から4年での成果としては立派なものとも思えるが、それでも東京の4分の1をカバーするに過ぎないとの思いが強いという。ただ、「少なくとも4年前にはまったく浸透していなかった“置き配”という言葉が定着したことは、これまでの活動の成果ではないか」(滝沢氏)。「24年問題・物流危機」というキーワードへの社会的な認知も進み、「再配達は申し訳ない」との意識も定着し始めたのではないかと語る。
サービス自体の普及はまだ道半ば。政府が置き配拡大を後押し、支援する動向もうかがえるが、「ブレイクスルーにはそれだけでは足りない。多分、もっともドラスティックな変化の引き金となるのは、『再配達有料化』ではないか」(滝沢氏)
再配達分の追加料金だけを徴収する仕組み作りは難しいといわれる。それならば、置き配は料金据え置き、対面の配達だけ料金値上げというやり方もあるのではないかと指摘する。これだけ、置き配普及にこだわるのは、ただ自社事業のためだけではない。置き配を契機にラストワンマイル領域の課題や効率化について科学的に検証し、“あらためて配送のあり方を見直す”機運が醸成できるからだ。
滝沢氏がラストワンマイル領域の課題を検証した結論はシンプルだ。「配送の非効率の元凶は“再配達”にあるといわれてきたが、“時間指定”こそ持続的な物流を妨げる最大の要因だ」と喝破する。
滝沢氏が食品EC(電子商取引)事業の現状を分析して明らかになったのは、「時間指定、それも細かい時間指定に対応している事業ほど、採算が苦しくなる」ということ。滝沢氏は、「時間帯指定に対応するための、非効率な遠回りや待機時間の調整などが足かせとなっている。時間帯指定を受けない場合と比較すると、非効率な走行距離、拘束時間など、大幅な無駄が生じている」というシミュレーション結果を示す。「食品ECにおける事業モデルの正解は、生協のオペレーション」とも言い切る。週1配送・ルート配送・不在は置き配。これこそが持続可能な配送の模範解答だと結論づける。
滝沢氏は、「置き配の最大の効果は“再配達がなくなること”ではなく、“時間帯指定を受けなくてもよくなること”」と強調する。政府はこれまで、「再配達削減のための受け取り方の多様化」を利用者に訴え、その中には「時間指定」の活用も呼びかけられてきたわけだが、滝沢氏からすればこれは「間違ったメッセージ」だ。単に“再配達”だけを削減しても、時間帯指定に縛られる構造が残れば、現場の疲弊や配送の無駄はなくならないというのが滝沢氏の出した結論である。
ではどう動くべきか。何を変えるべきか。
滝沢氏は、現実解として“置き配のみ料金据え置き、時間帯指定には“料金上乗せ”も提起する。今後、訪れるであろう料金値上げのタイミングに合わせて、自社の生産性を科学的に分析し直した結果を、事業サービス見直しに反映することは必然であり、関係者への強力なメッセージとなるのではないか。
社会的な理解の高まりや、制度面の追い風は上手に利用したいタイミングである。物流約款の変更、置き配標準化の動向は大きな前進。また、マンションの標準管理規約見直しの動きも見られ、「置き配を利用しやすい環境整備が整いつつある」(滝沢氏)と歓迎する。多様な見直しが進む今だからこそ、自社物流の生産性に基づいた配送機能の再編もまた、今こそ決断し、社会にその評価を委ねるべきなのかもしれない。
建物IDこそ「標準化」の焦点
効率化において避けては通れない“標準化”というキーワード。利用者の利便性向上、取り組みの普及においては重要な要素であり、「スマート置き配」事業領域においても、今後標準化について議論される機会も多くなるだろう。だが、事業者ごとに解錠システムの基本的な発想自体が違うので、事業者間のAPIや認証を一気に統一するなど現実的ではないことは明らかだ。そもそも先行投資で開拓した基盤を他事業者が使うような仕組み作りに合理性はなく、他社にもそれぞれ譲れない領域があるはずと滝沢氏は語る。
では、この領域においての“標準化”としての方策はあるのかとの問いかけに、滝沢氏は「もし、標準化という文脈でもっともインパクトのある施策をあげるなら『建物ID』の活用推進が重要」と語る。
建物ごとに固有のIDを振って、それを国が標準と定めること。事業者の共通基盤として解錠要請の照会・承認・連携・管理などにも活用するという方向性が定められれば、システム開発の景色はガラリと変わる。同じ建物IDに配送するのであれば、車両をまとめられないかなど共同配送の可能性も広がるだろう。
「これに関しては、国が主導すべき領域。ラストワンマイルの効率化を一気に加速するためのスイッチとして、運用検証の議論が深まれば」(滝沢氏)と語る。
国交省でも22年から同様の「不動産ID」の検証を進めているが、現状は不動産・住宅領域で議論されている形だ。滝沢氏は、「不動産ID・建物IDに関しては、物流政策側が改めて主導し、配送最適化の基盤としてもらいたい」と期待を寄せる。
「このままではいけない」という気づき
滝沢氏は生産性の科学的評価において、米国アマゾンのアプローチを高く評価する。
アマゾンが、圧倒的な取り扱い数で確立していく競争優位性は、高度なシステムの効率化だけではなく、生産性の高い配送に集中するという事業戦略の成果でもある。米国ではすでに、配送大手UPSやFedExを超える配送数で、同国最大の配送事業者になったことを考えると、その戦略が見事にはまっているというほかない。
日本国内においても今後、圧倒的な生産性で市場を独占するような物流事業者が登場するかもしれない。高い賃金でドライバーを確保しながら配送料金では低価格を実現するなど、「既存の物流会社が太刀打ちできなくなる可能性もある」(滝沢氏)と警鐘を鳴らし、国内事業者へ奮起を促す。時間帯指定や対面配送のコスト合理性など、経済の原理原則に基づいた戦略で置き配をどう位置付けるのか、行動を変えるべきときだと呼びかける。
再配達率という“症状”だけに目を奪われず、配送計画の“病因”である時間帯指定と向き合うべきとの提言。そこからさらに、配送における無駄を化学的に抽出し、持続可能性のある形に見直すべきとの提言。建物ID活用を物流効率化の観点から議論すべきとの提言。既存の仕組みに安心せず行動を起こすべきとの提言。これらの提言から気付かされるのは、もしかして自分も物流業界における長年の垢をためてこんでしまっていたのではないか、そんな気づきである。
集合住宅の“玄関”が開けば、ラストワンマイルの未来も開く。政策は目標達成の次のステージへ、事業者は価格設計と運用設計の見直しへ、不動産は“物流に優しい建物”の価値など、それぞれの果たすべき役割で前進した姿を社会に示す時だ。

▲ライナフ 滝沢潔社長
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