調査・データ物流DX(デジタルトランスフォーメーション)ツール「MOVO」(ムーボ)を提供するHacobu(ハコブ、東京都港区)は18日、本誌と共同で実施した「物流×AI活用に関する実態調査」の結果を発表した。
全国の荷主企業や物流事業者268人からの回答を分析した結果、AI(人工知能)を業務に導入している企業は全体の3割にとどまる一方、9割以上が今後の活用に前向きな姿勢を示した。現場の人手不足や業務の属人化という深刻な課題を背景に、AIへの期待値は極めて高いものの、人材不足や費用対効果の不透明さが導入の障壁となり、実装が進んでいない実態が浮き彫りとなった。
調査は10月16日から29日にかけて、インターネットを通じて実施。回答者の内訳は、製造業などの荷主企業が4割、物流事業者(運送・倉庫など)が4-5割を占め、経営層から現場担当者まで幅広い層から回答を得た。
導入率36.6%に対し、活用意欲は95.9%
調査結果によると、AIを業務に「積極的に活用している」との回答は6.7%、「一部の業務で活用している」は29.9%だった。これらを合計したAI導入率は36.6%にとどまり、依然として過半数が「特に何もしていない」または「情報収集段階」にあるのが現状だ。
対照的に、今後の活用意向については「積極的に活用していきたい」が52.6%、「機会があれば活用してみたい」が43.3%に達した。合計95.9%の回答者がAI活用に前向きな姿勢を示しており、現状の導入率との間には60ポイントもの大きな乖離(かいり)が存在する。物流業界全体がAIの必要性を強く認識しながらも、実際の導入には足踏みしている現状が明らかだ。
業種別に見ると、物流事業者(運送・倉庫など)の導入率は、メーカーや小売業と比較して低い傾向にある。特に生成AI(ChatGPTなど)の利用許可状況において、メーカーの60.8%が「正式に許可している」のに対し、物流事業者は29.5%にとどまる。物流現場では、電話やFAXといったアナログな業務慣行が根強く残るため、デジタルツール導入のハードルが相対的に高い可能性がある。
「使いこなせる人材」の不足が最大の障壁
高い意欲がありながら導入が進まない要因として、最も多くの回答を集めたのは「AIを使いこなせる人材が社内にいない」で50.4%に上った。次いで「どれくらいの効果があるのか分かりにくい」が47.4%、「どのツールやサービスを選べば良いかわからない」が38.1%と続く。
物流業界は慢性的な人手不足に直面しており、回答者の60.1%が「人手不足」を、60.8%が「業務の属人化」を最大の課題として挙げている。日々の業務に忙殺される中で、AIという新技術を習得・運用するリソースを割く余裕がない現場の実情がうかがえる。
配車の自動化・経営判断への活用に期待
AIを活用したい、または関心がある業務領域としては、「配車の自動化・標準化」が37.3%で最多となった。ベテラン配車係の経験と勘に依存してきた配車業務をAIで自動化し、属人化の解消と効率化を図りたいというニーズは根強い。
次いで「データ分析に基づく経営判断の支援」が36.6%、「在庫管理や需要予測」が35.8%と続いた。単なる作業の自動化だけでなく、AIを戦略的な意思決定やサプライチェーン全体の最適化に活用したいという経営視点での期待も高まっている。
実際にAIを導入した企業(135人)への質問では、65.2%が「作業時間を短縮できた」と回答し、21.5%が「人的ミスが減り品質が向上した」と効果を実感している。一方で「特に効果は感じていない」とする回答も11.1%存在し、導入後の運用定着にも課題が残る。
データ活用の「質」に課題、8割が不十分と認識
AI活用の基盤となる「データ」の取り扱いに関しても課題が浮き彫りとなった。車両の走行データや倉庫の入出庫データなどについて、97%以上が「業務改善に活用することが重要」と認識している。しかし、実際の活用状況については「ある程度活用しているが、もっと活かせるはずだ」(40.7%)、「データは集めているが、ほとんど活用できていない」(38.8%)との回答が大多数を占めた。
「十分に活用し、業務改善に役立てている」との回答はわずか4.5%にとどまる。データを収集する段階までは進んでいるものの、それを分析し、AIに学習させて現場改善につなげるサイクルを確立できている企業はごく一部だ。
また、生成AIの利用については、本社・管理部門の46.9%が正式許可している一方、物流現場では33.9%に低下し、現場レベルでの「分からない」という回答も4割を超える。現場へのガバナンス浸透やルール策定の遅れも、活用を阻む要因の一つだ。
現場理解と経営のコミットメントが鍵
AIを現場にスムーズに導入・定着させるための最重要要素として、「経営層からの明確な方針や目的の共有」と「誰でも使いやすいシンプルなシステムの選定」が同率(25.0%)でトップとなった。現場任せにするのではなく、経営層がリーダーシップを発揮し、現場の負担にならない使いやすいツールを選定することが成功の鍵を握る。
また、ツール選定時に重視する点として「物流業務への理解度や実績」が31.7%で最も多く挙げられた。汎用的なAIツールではなく、物流特有の商慣習や現場のオペレーションを深く理解したベンダーやパートナーが求められている。
Hacobuの取締役COO兼Hacobu Solution Studio事業部長の坂田優氏は、「AI活用の意欲と実装の間にギャップがある」と指摘する。その上で、同社はSaaS、システムインテグレーション、コンサルティングを組み合わせ、現場に寄り添ったAI導入支援を強化する方針だ。
同社は今回の調査結果を受け、12月16日に「物流×AIの最前線」と題したオンラインセミナーを開催し、AI実装に向けた具体的なステップを解説する。
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