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物流企業・団体トップの年頭所感を分析

編集部が大胆予測──2026年の物流トレンド5選

2026年1月9日 (金)

ロジスティクスLOGISTICS TODAYはトラック輸送、倉庫、海運、航空の大手物流企業や行政、業界団体などから発信された、およそ30の年頭所感・メッセージを分析した。そこから浮かび上がったのは、不確実な世界情勢への冷徹な認識と、テクノロジーによる判断の自律化への確信、そして物流を経営戦略の核に据える強い意志だ。26年の物流業界を理解するための5つのキーワードを軸に最前線の動向を解説する。

自律型ロジスティクス──AI主導の意思決定

「機械ができることは機械にやらせる。各個人のレベルでAI(人工知能)を利用し、草の根的に業務プロセスの改善にチャレンジしてほしい」

日本郵船の曽我貴也社長はこう述べ、全社員にAIを前提とした業務プロセスの再設計を求めた。近鉄エクスプレスの山中哲也社長も「既成概念や過去のプロセスにとらわれず、ゼロベースで業務を再設計し、柔軟な発想で新しい仕組みを構築」すべきだと強調した。

その狙いは「省人化」ではない。属人的な業務での「経験」をデジタル上の「知能」へ変換し、実装していくことだ。不確実な状況下でも止まらない物流を実現するための経営インフラの構築を目指すことを意味する。26年4月のCLO(物流統括管理者)選任義務化により、荷主企業も物流データの可視化を求められる。この制度対応が、AI活用の裾野を一気に広げる契機となる。

AIを「使う」段階は終わった。AIを前提に業務を再設計する段階が始まる。

地政学レジリエンス──リスクを経営の定数に

国際物流のトップたちは、第2次トランプ政権の追加関税や貿易摩擦を一時的な混乱ではなく常態化したリスクとして戦略に組み込んでいる。三菱倉庫の斉藤秀親社長は「保護主義や貿易摩擦の拡大」を背景に、変化への即応力(レジリエンス)の重要性を指摘した。川崎汽船の五十嵐武宣社長も「25年は米中の対立、中東情勢の緊迫化、ロシア・ウクライナ情勢の長期化など、地政学的リスクが一年を通して顕在化した」と振り返り、不確実性への対応を求めている。

この不確実性に対応するには、貨物の動静だけでなく関税コストやルート変更の影響を瞬時に可視化し、シミュレーションできる体制が必要になる。災害のみならず地政学的な供給網の寸断を回避するための「デジタル・サプライチェーン」は、荷主企業から選ばれるための絶対条件となった。付加価値ではなく、必須インフラとしての位置づけだ。

物流統括管理者──荷主を共創パートナーへ

26年4月、特定荷主にCLOの選任が義務化される。この制度は、長年続いた「運送事業者=下請け」という構図を打破する好機となる。

「企業内外を通じて、テクノロジーを有効に活用するためには、ハード、ソフトの標準化のみならず、業務プロセスなどを含む広義の標準化が欠かせない」

日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の大橋徹二会長が説く、この「広義の標準化」は、荷主側のCLOというカウンターパートを得て初めて実効性を持つ。

全日本トラック協会や東京都トラック協会は、休息時間の確保と安全の徹底を、インフラとしての持続可能性を高めるための「投資」と位置づける。日本物流団体連合会(物流連)の長澤仁志会長も「物流が現場の力仕事だけでなくプランニング、設計に深化した産業であることが示されてきた」と述べている。荷主と事業者が同じテーブルで最適解を導き出す「共創」が26年の標準となる。

特に、多層下請け構造の解消や適正な運賃交渉において、CLOの存在は大きい。運び手に無理を強いる契約は、CLOの監督責任を問われる経営リスクとなる。荷主が自ら発荷主・着荷主の調整を行い、待機時間の削減や共同配送の枠組みを構築する「荷主の主体性」が問われる年になる。

ロジスティクス・スペシャリスト──現場の専門職化

人手不足に直面する実運送の現場では、待遇改善の先にある「専門性の再定義」が加速している。

「当社を支えるのは、各国・各拠点の固有の強みを生み出している『人』であり、その源泉となる皆さんの『多様性』と『主体性』だ」

近鉄エクスプレスの山中社長はこう述べた。この視点は国内のトラック輸送も同様だ。ギオンをはじめとするトラック輸送会社から発信されたメッセージに共通するのは、人を単なる「労働力」ではなく、価値を生む「資本」として捉える姿勢である。

26年は、デジタルツールを使いこなし、高度な運行管理やリスク管理を行う「ロジスティクス・スペシャリスト」としての地位を確立できるかが問われる。現場の創意工夫をデータで評価し、明確なキャリアパスを示す。そうした人的資本経営を実践する企業に、優秀な人材が集まる構造が鮮明になる。

不可逆なGX──政治に左右されない環境戦略

米国の政策転換により、グローバルで脱炭素規制の緩和が議論される局面にあるのは事実。だが、国内の物流リーダーたちの視座は揺るがない。

「気候変動への対応の必要性は世界全体の不可逆的な流れだ。投資のタイミングや金額についてはややスローダウンが必要だが、長期的な視点で環境戦略を着実に進めていく」

商船三井の橋本剛社長は、短期的な「冷え込み」を認めつつも脱炭素を「不可逆」と断じた。川崎汽船の五十嵐社長も「中長期的な視点での温室効果ガス(GHG)削減という世界的な流れは揺らぐことはなく、環境負荷の低減に向けて着実に一つ一つの施策を積み重ねていく」と方針を示している。

EVトラックの導入や新燃料船への投資を「長期的なブランド価値」として継続できるかどうかが、26年の経営手腕を測る尺度となる。脱炭素は一時的なトレンドではなく、社会インフラとしての存立基盤だという認識だ。

物流は26年「能動的なインフラ」へ進化する

26年、CLOという新たな役割が、荷主と物流事業者の境界を溶かしていく。物流は「モノを運ぶ苦役」から、テクノロジーと共生し不確実な世界をデータで読み解きながら社会を最適化する「能動的なインフラ」へと進化する。この変化を自律的に捉え、自らを再定義できる企業だけが、30年以降の未来を切り拓く。

26年におさえるべき物流キーワード【用語解説】

★自律型ロジスティクス
AIが膨大なデータを瞬時に解析し、配車・ルート・在庫配置などを自律的に最適化する仕組み。人間の判断を補助するだけでなく、システムが意思決定の主体となる。

★地政学レジリエンス
トランプ関税や紛争など、予測不能な国際情勢を「経営の定数」と捉え、供給網の寸断を即座に検知し瞬時に代替策を講じるしなやかな強靭さ。

★物流統括管理者(CLO)
ことし4月に特定事業主への選任が義務化される役職。物流を経営の柱に据え、荷主側の立場から物流効率化と働き方改革をリードする。

★ロジスティクス・スペシャリスト
デジタルツールを高度に使いこなし、安全と効率を両立させる現場のプロフェッショナル。技能の可視化により、従来の「作業員」から脱却した専門職。

★不可逆なGX
政治情勢に左右されない長期的な環境投資戦略。グリーン投資をコストではなく、企業の信用力や受注競争力を左右する「戦略的投資」と定義する。

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