
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ネパール視察で特定技能ドライバー5人採用決定」(1月19日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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話題深刻なドライバー不足と2024年問題に直面する日本の物流業界において、24年4月に門戸が開かれた「特定技能」による外国籍ドライバーの活用が本格化している。高知市の丸中運送は、アズスタッフが企画したネパール現地視察ツアーを通じて5人の採用を即決した。しかし、その舞台裏には、アジア全域で激化する「人材争奪戦」と、日本が「選ばれる国」であり続けるためのシビアな現実があった。
「日本=魅力的な国」という固定概念の崩壊
「外国人労働者にとって日本が魅力的な国であるという固定概念は、もはや私の中にはない」。アズスタッフの谷口愛斗氏は、取材に対し衝撃的な現状を明かした。かつて主要な人材供給源だったベトナムやインドネシアでは、韓国や台湾といった競合国との人材争奪戦が激化している。
特にベトナムでは、より高賃金を提示する韓国などへ人材が流出し、日本への志望者が激減しているという。アジア全体で日本の「選ばれる力」が問われるなか、ネパールは例外的に日本への関心が依然として高く、求人に対して1.5-2倍の応募者を確保できる「最後の砦」とも言える市場となっている。
サッカーコート2.5面分の敷地で叩き込む「日本式マナー」
ネパール人候補者の強みは、その圧倒的な母数と教育体制にある。アズスタッフが提携する現地の国立機関直営の日本語学校は9校に及び、2000人の生徒が在籍している。
特筆すべきは、現地に確保されたサッカーコート2.5面分という広大な訓練施設だ。ここではマイクロバスやマニュアル普通車を駆使し、日本人の教習員が直接、日本の交通法規や独特のマナーを指導している。「来日前に『日本の運転を理解した状態』を作ることが不可欠」と谷口氏は強調する。単に運転ができるだけでなく、標識の理解からS字走行、坂道発進まで、日本基準の技術を徹底的に叩き込んでいるのだ。
コストの「透明化」と国内採用を凌ぐ投資対効果
気になる採用コストについても、詳細が見えてきた。アズスタッフでは採用の手数料については、国内で求人募集を出すのと同程度に抑え、採用人数が増えるほど一人あたりの手数料を割り引くボリュームディスカウントを適用。そのほか、航空券や免許関連の手続き費用がかかる。
一見、国内採用よりも高額に思えるが、谷口氏は「国内在住の外国籍人材は離職リスクが高い一方、現地採用は数年間の就労を前提とした強い意志があり、長期的な定着率で勝る」と、その投資対効果を説く。また、合宿形式での新規免許取得スキームを導入することで、入国から最短1か月で実務に入れるスピード感も実現している。

▲対面面接の様子(出所:アズスタッフ)
背景にあるのは、近年ハードルが極めて高くなっている「外免切替」の実情だ。以前は現地の免許を日本のものに切り替える手法が一般的だったが、現在は審査の厳格化により、切り替えまでに半年以上の待機期間が発生するケースも珍しくない。
「働けない期間が長引くことは、事業者と候補者双方にとって大きな負担になる」と谷口氏は指摘する。この課題に対し、アズスタッフでは入国後すぐに合宿形式で「新規免許」を取得するルートを推奨している。普通免許で2週間、中型・大型免許でさらに2週間と、集中して日本の交通法規を学ぶことで、結果的に安心感と確実性を担保しながら、早期の実務投入を可能にしている。
現場の実務スキルを求める運送事業者の切実な声
今後の課題は、より運送実務に踏み込んだ教育だ。同社のサービスを利用する運送事業者からは、運転技術のみならず、日本の商習慣に合わせた「荷役業務」や「フォークリフト操作」の習得を求める要望が数多く寄せられている。
アズスタッフではこうした現場の声に応え、現地でフォークリフトをレンタルし、来日前に基本的な操作訓練を行うオプションの検討をすでに開始している。さらに、日本の安全意識とのギャップを埋めるため、JAFの無事故プログラムやシミュレーターを活用した「危険予測教育」の強化も進めている。
地方の中小企業こそ「新しい血」を
アズスタッフの顧客層を見ると、54%が車両台数50台以下の地域密着型企業だ。丸中運送のような地方企業にとって、特定技能人材は単なる「労働力」ではなく、組織の停滞感を打破する「新しい血」となっている。
「まずは日本の交通ルールを。将来的には彼らが後輩を指導するリーダーに」。丸中運送の経営企画部長が描くビジョンは、日本の物流現場が直面する「多文化共生」という避けては通れない未来を象徴している。アジアでの人材争奪戦が激化するなか、日本の物流を支える「確かな戦力」をどう確保し、どう育てるか。アズスタッフがネパールで展開する挑戦は、その最適解の一つを提示している。

▲現地を視察した丸中運送、アズスタッフ、現地送出機関のキズナH.R.ソリューションズ、教習所関係者、採用候補者(出所:アズスタッフ)
また一方で、深刻な人材不足が加速するなか、「日本は今後も海外から選ばれ続けられるのか」という本質的な問いが突きつけられている。谷口氏が指摘するように、他国に負けない給与水準や労働環境を整備できなければ、アジア圏の働き手にとって日本が「かつての輝き」を失うのは時間の問題だ。
運送業や物流を持続可能なものにするためには、トラックドライバーという職種そのものを、国内外の働き手が等しく「稼げる」と実感できる魅力的な職業へと再定義しなければならない。 外国人労働者に対しても、国籍を理由とした賃金差別は労働基準法で禁じられており、特定技能制度でも日本人と同等以上の報酬が義務付けられている。 外国人労働者を、旧来のような「安価な労働力」として扱う時代は、もはや過去のものだ。
今、求められているのは、日本の物流を共に支える「プロのパートナー」として彼らを迎え入れ、正当に評価する姿勢である。 特定技能外国人ドライバーの活用は、単なる労働力の補填ではない。それをどう生かすかが、日本の物流が「選ばれる産業」へと脱皮できるかどうかの、大きな分かれ道となるはずだ。
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