ロジスティクス物流業界が2024年問題という深刻な局面を迎えるなか、ヤマトグループ傘下のナカノ商会(東京都江戸川区)は、在留資格「特定技能1号」の外国人ドライバーの採用・育成において、独自の先進的な取り組みを展開している。同社は2月2日、20代から30代のベトナム人3人の中型トラックドライバー候補を厚木営業所に迎え入れた。このプロジェクトは、単なる労働力の確保にとどまらない、言語や文化の壁を超えて「共に働く」ための標準化スキーム、通称「厚木モデル」の構築を核としている。
即戦力重視の採用戦略とコスト最適化
日本の大型トラックドライバーの平均年齢は50.9歳と、全産業平均に比べ6.8歳も高く、将来的な輸送力不足は物流業界の存立を揺るがす課題となっている。この状況下でナカノ商会が選んだのは、現地で運転免許を保有する人材を対象とした「中途採用方式」であり、なかにはベトナムでの運送実務経験や日本での業務経験を有する人材もいる。
同社の常務取締役の高田祐輔氏は、同社の試算によると、「日本到着後にゼロから運転免許取得を支援し、その間の給与を保障する場合、一人あたりの採用コストは300万円規模にまで増大するという試算もある」と語る。すでに現地の運転免許を取得している人材を採用することには、一定の合理性があるといえるだろう。

▲ナカノ商会厚木営業所に配属となった3人の特定技能ベトナム人ドライバー
また、募集エリアの選定も戦略的だ。ベトナムの大都市部であるハノイやホーチミンでは賃金水準が上昇していることを踏まえ、担当者は「そうした都市部から車で30分ほど離れた地域で求人を行うことで、日本で働くことに意欲のある人材にアプローチしている」と語り、現地の賃金動向に応じた柔軟なチャネル選定を行っている。
「厚木モデル」を支える教育の心臓部
プロジェクトの教育拠点となっている厚木営業所では、日本での生活・就労経験が豊富なベトナム出身の先輩社員、ゴ・ゴック・アイン氏とグエン・トゥアン・アイン氏が「架け橋」として機能している。入社7年目のゴ氏は、運行管理者補助として日本人スタッフ向けに安全会議の資料を作成・発表する実力を有し、厚木営業所で業務面をサポートする。グエン氏は人事部の立場から研修資料の体系化を担っており、外部との調整スキルを生かして、人事面でサポートをしている。このように、同国出身の先輩社員を新入社員に伴走させるメンター体制こそが、同モデルの要である。
教育の根幹を成すのが、両氏が中心となって作成した「交通知識の差分資料」である。これは単なる交通法規の翻訳ではなく、現地の運転習慣に起因する「認識のギャップ」を埋めることに特化した資料である。これは、右ハンドル・左側通行への切り替えに伴う右折時の判断といった物理的差異の指導に加え、ベトナム独自の慣習の補正を行うものだ。ベトナムでは自車の存在を知らせるために頻繁にクラクションを鳴らしたり、かなり短く車間距離を詰めたりといった現地の慣習が、日本では事故リスクに直結することを説き、候補者の意識改革を促している。さらに、日本特有の厳格な点呼やアルコールチェック、車両点検といった安全手順の必要性についても、現地との対比を通じて深く理解させる内容となっている。
これらの資料作成にはChatGPTなどのAI(人工知能)ツールも活用されているが、最終的な用語のニュアンスや現場での伝わりやすさは、ゴ氏、グエン氏により実運用視点で細かく補正されている。この徹底した事前教育と、日本到着後から1か月にわたる厚木営業所でのオリエンテーションにより、配属された候補者3人は、難関とされる日本の免許切替試験のうち、筆記試験に全員一発で満点合格という快挙を成し遂げている。
包括的支援とエンゲージメントの維持
入国後のサポートについても、単なる事務的な手続きを超えた重層的な体制が敷かれている。まず実務面では、前述のメンターが現場スキルを直接伝授する伴走支援を徹底しており、高田氏は「言葉がわかる先輩がいた方が定着もスムーズだろうくらいに考えていたが、結果的に、こうした人員配置は必須だとわかった」と、その重要性を再確認している。生活環境の整備においては、プライバシーの確保と過密な自前コミュニティー形成による近隣トラブルの回避を両立させるため、1人1部屋の住居を提供している。さらに、登録支援機関であり人材関連事業を展開するバイトレ(東京都新宿区)などと連携して24時間対応のコールセンターを設置し、現場で発生する「リアルな声」を収集して受け入れプロセスの継続的なアップデートに生かしている。

▲3人とも外免切替の筆記試験には満点合格。実技試験までは、厚木営業所の駐車場にカラーコーンなどでコースを設定し、社用車で運転の練習を行う
受け入れ体制の強化は候補者側だけでなく、日本人スタッフに対しても徹底されている。厚木営業所では、サブリーダー以上の全社員に対し、在留資格や労働条件の理解、文化・習慣の違い、高圧的な態度の禁止などを盛り込んだ研修を実施。受講後には満点合格を必須とする確認テストを課すことで、組織全体の教育品質を担保している。
将来的な展望とダイバーシティへの価値
現場で学ぶタイン氏、トゥエン氏、ファット氏の3人は、特定技能2号制度の将来的な移行を見据え、家族を日本に呼び寄せるという目標を抱きながら日々の業務に励んでいる。彼らは6月からの中型トラックによる企業間輸送の単独乗務開始を目指している。
ナカノ商会は今後、厚木営業所で確立したこの教育スキームを標準モデルとして他拠点へ水平展開し、さらにベトナム以外の他国からの採用も検討していく方針だ。高田氏は、「外国人の採用にとどまらず、多様な人材が働ける環境づくりが目標」と語る。実際同社では、女性などパートタイムのドライバーによる短時間運行の制度の検討も進めており、さまざまな人材が、自分に合った働き方が実現できるような取り組みを進めている。「ナカノ商会は物流と雇用によって社会に貢献していくことを企業使命としている。特定技能外国人採用の取り組みをきっかけとして、多様な人材が働けるような職場環境を構築したい。」と述べ、この取り組みが女性や高齢者の活躍など、ダイバーシティの拡充につながる価値を強調している。
同社は「人数より教育の質」を最優先し、現在ベトナムで研修中の人材を、3人程度ずつ継続的に受け入れることで、人材の定着と安全運行を両立させ、持続可能な物流サービスの提供を目指す。(土屋悟)
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