行政・団体国土交通省(国交省)が4月1日に施行するラストマイル通達の改正は、宅配の供給構造に手を入れる制度変更だ。台数の上限撤廃と時間単位の稼働容認が同時に実現することで、専業のトラックドライバーでなくても宅配の供給に参入できる余地が制度上広がる。運送を「職業」から「機能」へ分解する方向に、行政が一歩踏み出したことになる。(編集長・赤澤裕介、編集委員・刈屋大輔)
従来の自家用有償運送は、日単位の枠組みと台数制限によって「あくまで例外」にとどめる設計だった。改正後は、午前中の2時間だけ自家用車で宅配し、午後は別の仕事に就く人が制度上参入できるようになる。副業、兼業、スキマ時間の活用。働き方としては合理的だが、宅配の供給サイドにとっては前提が変わる話だ。
この変化の射程は、通達案の条文を追うと見えてくる。現行通達は自家用車の稼働を「一両当たりの年間利用日数90日を上限」と定めている。1台につき年間90日。改正後はこの枠組みが根本から変わる。通達案は「許可自家用自動車の年間稼働日数の合計の上限は、事業用自動車の車両数に90日を乗じた日数」とし、個々の自家用車ではなく全車合計のプールとして管理する設計になった。事業用車が10台の事業者であれば、自家用車の稼働枠は合計900日分になる。許可台数の上限はない。
時間単位を選んだ場合は、この日数にさらに8時間を乗じた時間数が合計の上限だ。事業用車10台なら7200時間。ここで1日2時間の短時間稼働を前提にすれば、1台の自家用車を360日投入しても消費は720時間にとどまり、残り6480時間を別の車両に回せる。現行制度では1台の自家用車は年間90日しか使えなかったが、改正後はプール全体の枠内であれば毎日使える計算になる。
事業用車1台分の枠(720時間)を1台の自家用車に集中投入した場合の稼働日数は、1日あたりの稼働時間で大きく変わる。

通達案は時間単位の運用を「年間稼働日数による運用では利用者の需要に対応した効率的な輸送サービスの提供が困難である場合」に限るとしており、この条件をどこまで厳格に適用するかで制度の実質は大きく変わる。
都市部で先行、大手宅配の収益に影
正社員ドライバーを大量に雇用し、全国の配送網を維持してきた大手宅配会社にとって、この変化は軽くない。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社は、都市部の荷物密度で利益を確保し、採算の厳しい地方路線を支えてきた。そこに固定費を持たない副業ドライバーが都市部から入ってくれば、収益の柱が削られる。大手は簡単にドライバーを減らせない。日本郵便はユニバーサルサービスの義務まで負っている。
制度の建前は「地方の輸送力確保」だ。検討会の提言でも、2030年に北海道、東北、四国、九州で40%の輸送力不足が生じるとの民間試算が引用されている。だが副業ドライバーが集まるのは都市部だ。配送マッチングサービスの登録ドライバーは首都圏と関西圏に集中している。地方を救う制度が、都市部の市場を先に動かす。
この改正の方向性を議論した検討会の構成員には、アマゾンジャパン、楽天グループ、LINEヤフーのEC大手3社に加え、配送マッチングのCBcloudが含まれている。改正後の制度は、これらのプラットフォーマーから配送委託を受ける元請事業者が大量の自家用車をオンデマンドで動員し、繁忙時間帯だけ投入して需要が落ちれば引き上げる運用を可能にする。配送コストの変動費化という観点で、この制度設計に最もフィットするのは都市部で事業を展開するプラットフォーム事業者だ。
通達案にはラストマイル輸送を「営業所から近距離の限られた区域内における住居等への配送」と定義する条文が残っているが、「近距離」の定量基準は設けない。国交省はパブコメで「地域により実態や状況が異なるため定量的な基準は適切ではない」と回答した。都市部で「近距離」をどう解釈するかは運輸支局長の裁量に委ねられる。また通達案は「事業用自動車による運送を補完する規模にとどまり、貨物自動車運送事業者間の健全な競争環境を阻害しない範囲内」との文言を維持しているが、台数上限を撤廃した制度で「補完する規模」がどこまで拡大するかに定量的な歯止めはない。
供給拡大、統制は現場任せの制度設計
制度設計で見過ごせないのは、供給の拡大と安全管理のバランスだ。台数制限をなくし、時間単位で稼働させ、記録はLINEのチャットでもよい。一方で、安全の担保は運送需要者である貨物自動車運送事業者が運転者に法令遵守や事故防止に「努める」という努力義務にとどまる。違反した場合の行政処分や罰則の仕組みは通達の中に明示されていない。供給のアクセルを踏みながら、ブレーキは現場に委ねている。
パブリックコメントでは制度の歯止めの弱さを指摘する声が相次いだが、多くは制度に反映されなかった。事故時に個人の保険が適用されないリスクを踏まえ、対人・対物無制限の業務用保険への加入を必須要件とすべきとの意見があったが、保険加入は要件に入っていない。留学生や家族滞在など在留資格ごとの就労制限をシステム上で照合し、不法就労の温床にならないようにすべきとの指摘もあったが、在留資格の確認や抜き打ち監査の仕組みは設けられていない。制度が広げた供給の間口に対し、安全と適法性の統制はほぼ手つかずのまま残っている。

通達案には新設条項もある。運転者が個人事業主である場合、事業者は個人事業主の保護や健康管理に十分配慮し、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)や各種労働関係ガイドラインを遵守することが求められる。副業ドライバーの参入を制度が想定していることの裏返しだが、遵守の実効性をどう確保するかは示されていない。
もう1つ、制度設計に盲点がある。今回の改正は時間単位の稼働管理を前提にしているが、管理の対象は自家用有償運送の稼働時間に限られる。本業を持つ副業ドライバーが有償運送に従事する場合、本業と合算した総労働時間を誰がどう管理するかは何も定められていない。いわゆる24年問題の核心はトラックドライバーの時間外労働の上限規制だった。その上限規制を迂回する形で、労働時間の合算管理を欠いた副業運送が広がれば、働き方改革と物流規制緩和が正面から衝突する。
なお、旧通達に基づき令和8年分の許可を受けた事業者も、4月1日以降は改正後の規定で運用できる経過措置が設けられている。施行前の準備申請も可能だ。制度の切り替えに空白期間はなく、4月1日から即座に新しい運用が始まる。
LINEのチャット記録で稼働時間を管理できるという点も、制度の性格を映し出している。チャットの記録は送信者が削除できる。時系列の正確性や網羅性を第三者が事後検証するのは容易ではない。パブリックコメントでは専用システムの導入を求める声もあったが、国交省は「信頼性が担保できる場合に限り」利用可能とした。過疎地域で専用システムの固定費を負担できない事業者への配慮だが、都市部の大量稼働でも同じ基準が適用される。
物流改革と白トラ規制、同月施行の矛盾
政府は物流革新に向けた政策パッケージの中で、軽貨物の安全対策を柱に据えてきた。事業用軽貨物車の死亡・重傷事故件数は直近6年で倍増し、2025年4月には安全管理者の選任義務化や業務記録の保存義務化が施行された。一方で自家用車による有償運送の門戸を広げる今回の改正は、安全規制の強化と同時に進む。宅配便ドライバー1人当たりの月間配達個数が5年で29%増え、ドライバー数は7%減った。専業ドライバーだけでは回らなくなった現実が、制度を動かしている。
もう1つ、制度の波及効果として見落とせない論点がある。年間720時間の枠をピーク時間帯の2時間ずつ消化すれば、1台の自家用車を360日稼働させられる。台数の上限はない。この計算が成り立つなら、ラストマイルに限って言えば、24年問題に対して制度上は供給不足を補える設計が整うことになる。副業ドライバーで埋められるのだから、専業ドライバーの不足は致命傷ではなくなる。
問題はその先だ。24年問題への対応として、政府は荷主や元請に対しても大きな負荷をかける改革を進めてきた。取引適正化法の遵守、実運送体制管理簿の作成義務、2次下請け制限の努力義務化。いずれも事業者に相応のコストと手間を求める制度だ。しかしラストマイルの人手不足が自家用車で埋まるなら、荷主やEC事業者にとって運賃の適正化に取り組む動機、下請け構造を是正する動機は弱まる。安い副業ドライバーで回る現場に、コストをかけて改革を進める理由が立ちにくくなる。この制度はラストマイルの24年問題を緩和するかわりに、物流改革全体の推進力を削ぐリスクをはらんでいる。
同じ2026年4月に施行される制度を並べると、政策の方向性が二極化していることが分かる。

さらに見過ごせないのは、同じ4月に白トラ規制の強化と白ナンバーの有償活用拡大が同時に動く事実だ。トラック適正化2法は、白トラと知りながら発注した荷主にも罰金を科す規定を設けた。無許可の有償運送を根絶するという法律の意志は明確だ。ところが同じ月に、白ナンバー車の有償運送の台数制限を撤廃し、時間単位での稼働を認める通達が施行される。白トラを取り締まる法律と、白ナンバーの有償活用を拡大する通達が同時に走る。許可を得たトラック事業者の管理下という条件はつくが、「白トラはダメだが制度的な間口は広げる」という構図を現場のトラック運送事業者がどう受け止めるかは想像に難くない。
4月1日以降、この制度がどう使われるかは現場次第だ。時間単位の運用は需要のピークに自家用車を集中投入する設計に向いており、都市部のEC宅配で先行する可能性が高い。宅配大手、配送プラットフォーム、軽貨物事業者、EC事業者の力学がどう動くか。今後の競争環境を左右するのは、制度そのものではなく、制度の余白をどう埋めるかだ。
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