行政・団体政府は3月31日、中東情勢に関する関係閣僚会議を開き、石油製品や関連製品を含む重要物資の供給状況を省庁横断で総点検するよう指示した。赤澤亮正経済産業相のもとに関係省庁の局長級タスクフォース(TF、政府の省庁横断型対策チーム)を設置した。ホルムズ封鎖から1か月、政府の対応は「量を確保する」段階から「誰に届けるかを決める」段階に移った。(編集長・赤澤裕介)
5日間で変わった政府の言葉

▲高市早苗首相(出所:首相官邸ホームページhttps://www.kantei.go.jp/jp/105/actions/202603/31kaigi_middle-east.html)
高市早苗首相は会議で「重要物資の供給状況を総点検し、具体的な対応方針を検討してほしい」と述べた。医療製品については「国民の命と生活を守り抜くため、安定供給を必ず実行してほしい」と強調した。
この5日間の政府発言を並べると、対応の重心が動いた経緯が分かる。
3月26日、国家備蓄の放出が始まった。政府はこの時点で、供給量の確保を前面に出していた。
同29日、高市首相がX(エックス)で備蓄放出により「日本全体として必要な量は確保する」としつつ、九州の路線バス会社への軽油供給再開や海底ケーブル敷設船への重油補給を「融通支援」(企業間で不足分を回し合う仕組み)として挙げた。量はあるのに届いていない現実を、首相自身が公に認めた。
30日、木原稔官房長官がナフサ由来製品の供給余力を「4か月分」と説明した。同じ日、赤澤経産相が重要物資安定確保の担当相に発令された。
31日、TF設置と総点検の指示。政府の課題設定は「あるか」から「届くか」に変わった。
問題はここから先にある。「届くか」を問うということは、限られた供給を誰に先に回すかを決めなければならないということだ。原油をガソリンや軽油などに加工する精製設備の能力には上限がある。1バレルの原油から軽油を多く取れば、ナフサの取れる割合は下がる。トラック向けの軽油を優先すれば石化工場に回るナフサが減る。ナフサを守れば医療資材は維持できるが、物流の燃料が細る。誰かに回せば、誰かに回らない。量の問題は配分の問題に変わった。
この構図を理解するには、燃料と原料を分けて見る必要がある。2つは別の段階で問題が起きている。
ガソリンには補助金が手厚く投入され、価格は目標水準に達した。ガソリンは生活に直結し、価格上昇が政治問題に直結するため、政策の優先度が高い。一方、軽油は産業用途が中心で、ナフサは一般消費者の目に触れにくい。政策は生活防衛を優先する設計になっており、物流と製造業を支える燃料・原料ほど手薄になる。
官房長官が示した「4か月分」の内訳は、石化各社の製品在庫2か月分と、米国や南米からの代替調達、国内精製分の見込み2か月分だ。前者は手元にあるが、後者は船便の到着と精製工程を経る必要があり、確定した量ではない。
燃料は「あるのに届かない」問題。原料は「見込みに依存している」問題。性質が違う。
物流事業者にとって直撃するのは軽油だ。トラックが止まれば、医療品も食品も農産物も動かない。だが、石化原料のナフサが滞れば、運ぶべき包装資材や医療資材そのものが減る。燃料が止まれば物流が止まり、原料が止まれば物流の対象が消える。2つの問題は別々に見えて、最終的には同じ結果につながる。
局長級TFは、この2つの段階にまたがる情報を集約し、対応方針を整理する役割を担う。だが、制度上の裏づけには不透明な点が残る。
石油備蓄法は備蓄の放出手続きを定めているが、放出後の配分先を指定する権限は規定していない。経済安全保障推進法は特定重要物資の安定供給を目的とするが、医療用プラスチックの原料であるナフサは現時点で指定対象に含まれていない。TFは情報を集約し、事業者間の融通を促すことはできる。だが、特定産業への供給を強制的に振り向ける法的根拠は、現行制度には見当たらない。
30日の衆院予算委員会で共産党の辰巳孝太郎氏が「人工透析機器にも使われている。患者が命の危険にさらされている」と質した際、高市首相は厚生労働省と経産省の連携による情報集約と融通支援を説明した。だが、融通支援は事業者間の協力を促す枠組みであり、法的な強制力を伴う配分ではない。命に直結する医療用途ですら、制度上の優先配分の枠組みは存在しない。TFがこの空白をどう埋めるかが、制度としての実効性を左右する。
対外面では、高市首相が同日、インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領と電話会談し、エネルギー分野での連携を確認した。インドネシアはLNG(液化天然ガス)と尿素の供給元であり、ホルムズ海峡を経由しない調達先にあたる。
国内では配分の問題に直面し、対外では供給源を広げようとしている。TFの国内調整と対外調達の両面が同時に動き始めた形だが、問題の本質は調達量ではなく分配にある。国内で配分の基準が定まらないまま供給を増やしても、同じ偏在が繰り返される。
物流事業者が見るべき点は3つある。第1に、TFから配分の優先基準が示されるかどうか。示されれば自社の位置づけが分かる。示されなければ、個別の融通交渉が続く。第2に、軽油の地域別供給データだ。資源エネルギー庁の週次統計と、フジグループが公開している自社給油設備の燃料残量データが判断材料になる。第3に、ナフサ由来製品の減産情報だ。石化メーカーの減産が拡大すれば、包装資材や容器の調達に影響が出る。荷主との契約条件の見直しが必要になる時期が近づいている可能性がある。
備蓄はある。代替調達も動いている。だが、それを誰にどう届けるかの仕組みは、まだできていない。政府が31日に設置したTFは、その仕組みを作る最初の一歩だ。配分の優先基準を公に示すのか。示さないなら誰が配分を決めるのか。決めないなら市場の奪い合いに委ねるのか。TFにはこの3つの選択肢しかない。そしてどれを選んでも、現場の在庫は減り続けている。
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