話題前期1年分の受注を、今期は半年で追い越した。引き合いも前年同期の2倍。千葉市美浜区にあるAPT(アプト)にはいま、仕事が潮目のように寄ってくる。自動倉庫や搬送の保守から新設までを担う”メーカー縛りなし”のサードパーティーは、なぜここまで声がかかるのか。
理由は、きらびやかな武勇伝ではない。「会社の背骨は、現場で膝をすりむいた数でできている」と井上良太社長は語る。神戸で28人が手で荷を拾った夜。中国製シャトルで1.5億円を溶かした案件。大型商談のさなか、現場から総スカンを食らった日。泥の記憶が、背骨を太くした。「転んだ分だけ、次は強い。失敗の手触りが、うちの財産だ」と井上氏は語る。
神戸の夜、28人の手が現場を止めなかった
リニューアルは新設より厄介だ。動いている設備を止めず、段階的に入れ替え、最後にシステムをつなぎ替える。神戸の現場で、その綱が一度きしんだ。本来は自走する搬送設備が不具合で沈黙し、このままでは出荷が止まる。夜更け前にAPTの社員28人が集まった。

▲井上氏、栗原氏、両氏の口から苦楽を共にしたエピソードが次々に出る
止まった荷は、人の腕で動かした。拾い、運び、流れを途切れさせない。井上良太社長は「切り替えの『結合』でつまずいた現場が一件もないんです」と語る。結合とは移行の綻びが顔を出す瞬間のことだ。井上氏は「それでも現場は止めない。危うければ手ででも前へ運ぶ。それがうちの流儀です」と語る。
逃げず、投げず。黙って尻を持つ背中が、いつしか信用に変わった。「最後まで見届ける会社」という評判が、次の現場を連れてくる。執行役員でソリューション営業本部長の栗原勇人氏は「井上さんは『現場を止めたら終わりだ』が口癖です。だから社員も踏ん張る。そういう文化が根付いている」と語る。
1.5億の赤字を、勉強代と呼んだ男
もっと苦い失敗もある。
中国製シャトルを3件続けて受け、3件とも赤字。差し引き1.5億円は、中小企業の腹に鉛のように沈んだ。井上氏は苦笑いし、「正直きつかった。でも逃げられない。相手は日本のお客さんですから」と語る。追い打ちはコロナ禍で、中国のエンジニアは来日できず、据え付けもシステム構築もAPTが背負った。中国語のマニュアルと遅い返事を相手に、現場で試し、外し、直しを重ね、2年張り付いてようやく息を吹き返したという。
「売ったら姿を消すメーカーもある。揉めたら『それはそちらの都合』で済ませる。でも、うちは逃げ場がない。困っているお客さんに『知りません』は言えない」と井上氏は首を振る。
赤字は胃に重い。だが、現場には教訓が残った。中国製機器の癖、ロボットのさばき方、切り分けの勘所。「知見がずいぶん溜まりました」と井上氏は語り、「いま同種の案件が来たら、うちが一番詳しいかもしれない。その蓄えが、新設事業の土台になっています」と続けた。

▲「うちは失敗の手触りがあるから、トラブルが来ても『ああ、これね』と手が迷わない」と語るAPT社長の井上良太氏
栗原氏は「あの赤字案件でも、井上さんは弱音を吐かなかった。『これは勉強代だ』と腹を決め、黙々と現場に通い続けた。その背中に押されて、社員も『ついていく』と腹をくくった」と語る。井上氏も「失敗を知っているのが、うちの強みです」と言い切り、「失敗のない会社は、いざという時にもろい。うちは失敗の手触りがあるから、トラブルが来ても『ああ、これね』と手が迷わない」と語る。
「提案書」を捨て、膝を突き合わせた
大型案件は、ともすれば上層部だけで回る「空中戦」になる。提案書を出した途端、現場の顔が曇った。「これ、現場の匂いがしない」。井上氏は腹を決め、空から降りた。通って、聞いて、困りごとを拾い直す。最後は表紙の看板も替えた。「提案書」ではなく「ディスカッションペーパー」。押し付けではなく、膝を寄せる合図だと井上氏は語る。
「『提案書』の文字が出た瞬間、現場は身構えるんです」と井上氏は語る。「『また上からか』ってね。だから最初に言う。『これはたたき台。いっしょに組み立てましょう』と。たったそれだけで空気が軽くなる」と語る。押し込む言葉か、寄り添う言葉か。現場はその差を、鼻先で見抜くという。
「これなら話ができる」。凍っていた空気がほどけ、言葉が転がり、受注へつながった。井上氏は「仕入れ先の見積もりまで開いたこともあります。普通はやらない。でも隠さず、同じ机で最適解を探したかった。そうしたら相手も腹を割ってくれた」と語る。栗原氏も「井上さんは懐に入るのがうまい。言葉一つ、表紙一枚にもそれが滲む。そこが強みです」と語る。
メーカーではない、だから、ユーザーの味方になれる
APTはメーカーではない。自社ブランドの棚を持たないぶん、現場の棚卸しから始められる。「メーカーは『うちの製品はこれだからこれ』って言う。でも、うちは言わない。課題を聞いて、世界中からいちばん合う道具を探して、現場サイズに組む。それがうちのやり方です」と井上氏は語る。
口癖は「人がつながらんと設備がつながらん」だ。「設備の前に人がいる。困りごとがあって、それをほどくために設備がある。その順番だけは間違えない」と井上氏は言い切る。「ラインナップという囲を出れば、ロックインはほどける。選ぶのは、ユーザーだ」と井上氏は語る。
「マテハン業界にサードパーティーがほとんどいないのが不思議なんです。海外には普通にいるのに。だから、うちが立つ意味がある」と井上氏は語る。さらに「ロックインはユーザーにとって不幸です。一度入れたら選択肢が消える。値段も上がる。でも第三者がいれば、選択肢が増えて競争が生まれる。結局それが業界にいい」と井上氏は続けた。
町医者の耳と、専門医の腕を持つ会社
APTの強みは、二段構えだ。一つは「町医者」の勘どころ。現場に腰を下ろし、困りごとを一つずつほどき、手を尽くす。大手が素通りする小さな案件でも、逃げない。
もう一つは「専門医」の眼。世界標準の品質感覚を携え、最新技術を世界から引き寄せる。新設案件でも、大手に臆しない提案ができる。

▲「赤字案件でも、井上さんは弱音を吐かなかった。『これは勉強代だ』と腹を決め、黙々と現場に通い続けた」と証言する同社執行役員でソリューション営業本部長の栗原勇人氏
「町医者と専門医、両方やるんです」と井上氏は語る。「現場に寄り添いながら、世界標準の技術も持つ。その二段構えが、うちの強みなんです」と続けた。「大手は小さな案件をやりたがらない。でも、うちはやる。そこで信頼を積んで、大きな案件につなげる。それが、うちの戦略なんです」と井上氏は語る。
寄り添う姿勢と、骨太な技術力。その両立が、APTを替えのきかない場所に立たせている。顧客はそれを見抜く。「困ったときはAPTに相談しよう」と口にする。その一言が、次の引き合いを連れてくる。
急成長を恐れ、息継ぎを設計する経営者
受注は伸び、引き合いも増えている。それでも井上氏に笑顔はない。「急成長は、怖いんですよ。社員が疲れて、組織が追いつかない。そうなると失速する。そんな場面を何度も見てきました」と井上氏は語る。
だからあえて「踊り場」をつくる。息も整えず踏み続ければ、どこかで足がほどける。「成長には息継ぎがいる。急成長と同じ線で語ると、だいたい途中で倒れる」と井上氏は静かに言う。「社員が消耗しない速度を守る。そこを見張るのが、経営者の仕事です」というのだ。
社員の定着率は高い。派手な採用の花火より、毎日の現場の空気が会社を太らせる。「逃げない文化は、安心して働ける土台があってこそ根づくんです」と井上氏は語る。自慢は制度の看板ではない。「社員が辞めないのが、うちの誇りです。無理をさせず、ちゃんと息継ぎをさせる。長く働いてもらう。それが会社の財産になるんです」と語る。
井上氏は、その重みを知っている。だから焦らない。急がず、足場を確かめながら、一段ずつ積み上げていく。
失敗を財産に変える執念
神戸で、人の手が夜をつないだ。中国製シャトルでは1.5億円を失い、大型商談では現場にそっぽを向かれた。どれも身を切る失敗だ。けれどAPTは、その痛みをそのまま仕事の道具箱にしまい込んだ。「転んだぶんだけ、次の一手が増える」と井上良太社長は語る。
失敗を怖がらない。失敗から目をそらさない。失敗を資産に替える。その粘りが、いまのAPTの輪郭をつくった。「5年前に言ったことが、いま形になっている。言ったことをやり切れるのが、うちの強みです」と井上氏は静かに語り、「口先ではない。実行が信頼になる」と続けた。
人間味溢れる記憶を味方につけて、APTは今日も現場に立つ。
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