
▲IEA(国際エネルギー機関)ファティ・ビロル事務局長(左)と握手を交わす赤澤亮正経済産業相(右、出所:経済産業省)
行政・団体高市早苗首相は30日、赤澤亮正経済産業相に「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣」を追加で発令した。経産相との兼務になる。(編集長・赤澤裕介)
ホルムズ海峡の封鎖から1か月。政府は備蓄放出で原油・石油製品の総量を確保し、代替調達にも動いた。それでも、バスやトラックの燃料が届かない地域がある。ナフサ(原油から精製される石油化学の基礎原料)由来の医療物資にも将来の供給懸念が出てきた。量はあるのに届かない。燃料はあるのに偏る。医療素材には制度上の優先枠がない。共通するのは、サプライチェーン全体を見渡して配分を決める主体が不在だったことだ。今回の発令は、その不在だった統括機能を経産相に担わせる動きといえる。
木原稔官房長官は同日午前の会見で、ナフサなど石油関連製品の供給について「現時点でただちに需給上の問題は生じていない」と述べた。石油化学各社がナフサ由来の製品在庫を国内需要の2か月分保有しており、米国や南米からの輸入と国内精製でさらに2か月分の確保が可能との見通しを示した。石油化学工業協会も17日のコメントで、汎用樹脂のポリエチレン、ポリプロピレンの在庫は国内需要の3か月半から4か月分あるとしている。
医療物資、供給懸念の時間軸を整理
今回の発令で焦点になるのは、対象が燃料からナフサ由来の非エネルギー製品に広がった点だ。高市首相はSNSで輸血パック、透析回路、注射器、医療用手袋、エプロンを具体的に挙げ「万が一にも支障があってはいけない」と述べた。前日29日の投稿でも透析回路用の医療用プラスチックや手術用廃液容器に言及し、厚生労働省と経産省が連携してサプライチェーンの情報を集約する体制を立ち上げたと説明している。
ただし、供給への影響は「今すぐ」ではない。海外通信社は27日、経産省・資源エネルギー庁幹部が26日に首相官邸で高市首相に説明した内容として、透析回路の国内シェア5割を占める企業がタイ・ベトナム工場へのナフサ供給不足で「早いもので8月ごろから国内への出荷が困難になる」可能性を伝えたと報じた。手術用廃液容器でも国内シェア7割の企業のタイ工場へのナフサ供給が4月半ばまでで終了する見込みとされる。木原官房長官も30日の会見で、夏ごろから一部供給に影響があるとの声を把握していると認めた。
30日時点の品目別の状況を整理する。
政府は「ただちに滞らないが、代替調達を急ぐ」という立場だ。品目によって在庫の厚みと影響時期に大きな差がある。汎用樹脂は数か月の余裕があるが、特定の医療機器は上流の原料供給が途絶した場合、製品在庫が尽きた時点で影響が顕在化する。
この時間軸を踏まえると、担当相の「総点検」に求められる実務は2段階に分かれる。短期(数週間)は燃料の流通偏在の解消だ。国土交通省は3月中旬に大口向け軽油販売の停止や数量制限の発生を把握し、業界団体に実態報告を求めている。西日本(特に瀬戸内沿岸)では中東原油への依存度が高く、運送会社のインタンク(自家用給油設備)向け供給が半減された事例も出ている。全日本トラック協会は27日に自民党本部で「燃料高騰危機突破総決起大会」を開き、軽油の安定確保、激変緩和措置の継続、価格転嫁と燃料サーチャージの周知徹底を求める決議を採択した。
中長期(数か月)は医療物資と産業素材のサプライチェーン確保だ。日本透析医学会の2024年末統計では透析患者は33万7414人で、週3回の透析回数ベースでは年間5200万回規模になる。透析に使われる代表的な樹脂にはポリスルホンやポリプロピレンなどがあり、いずれもナフサを出発点とする素材だ。国光あやの外務副大臣(医師)はSNSで、関係省庁と業界でサプライチェーン調査を行っており、命に直結する医療品目への優先供給を検討していると明らかにした。
ここで政策上の問題が残る。ナフサは石油備蓄法上の指定石油製品に含まれるが、国家備蓄の大半は原油の状態で保管されており、放出後は精製工程を経る。足元では流通ひっ迫が顕在化している燃料供給の立て直しが先行しており、放出運用がナフサ不足の解消に直結するとは限らない。仮にナフサが確保できても、樹脂メーカーが医療機器向けの出荷を優先する法的義務は現行法にない。経済安全保障推進法(2022年)は特定重要物資の安定供給を目的とし、人工呼吸器などは対象に加えられたが、医療用プラスチック原料そのものは現時点で指定されていない。
では、担当相の発令で何が変わるのか。高市首相のSNSと赤澤経産相のこれまでの会見から読み取れるのは3つだ。1つ目は情報の一元化で、経産省、厚労省、国交省にまたがる供給情報を担当相のもとに集約する。2つ目は配分の優先順位の決定で、限られたナフサや石油製品をどの用途に回すかの判断に政治が関与する。3つ目は調達と外交の一体化で、エネルギーと非エネルギー製品を一体で扱い、代替調達先の確保に動く。いずれも個々の省庁の所管を超える仕事であり、経産相に兼務として集約した形だ。
政府がこれまでに動かした備蓄放出と代替調達の時間軸は以下の通りだ。
代替調達は動き始めているが、4月中に届くのは封鎖前後に既に手配されていた船便が中心だ。新規に中東以外から調達する原油の到着は最短でも6月以降になる。備蓄原油が精製されて軽油として末端に届くのは4月中旬以降であり、ナフサ向けの配分はさらに時間がかかる。
物流事業者にとっての変化は明確だ。焦点は価格から配分へ移る。備蓄を放出しても、どこに・いつ届けるかは政策判断になる。ナフサの配分が医療向けに優先されれば、包装資材や樹脂パレットへの供給は後回しになり得る。荷動きの増減がメーカーや行政の判断に左右される局面に入ったということだ。フクビ化学工業は25日、4月1日以降の全製品を対象に供給制限と価格改定を発表した。こうした荷動き減少が広がれば、燃料費高騰と売上減の二重の圧力が運送会社の経営に重くのしかかる。
官房長官が示す「ただちに問題なし」と、品目によっては4月半ばに上流の原料が途絶するという現実の間には、製品在庫が尽きるまでの具体的なタイムラインがある。そのタイムラインを品目ごとに可視化し、優先順位を付けて配分を整えること。今回の発令で、政府の対応は供給量の確保に加え、用途ごとの配分判断を伴う段階に入った。
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