イベント本誌LOGISTICS TODAYと野村不動産が共催する「第9回物流議論×第4回CLOサロン」が24日に開催された。10月末に提出期限を迎える改正物流効率化法の「中長期計画」をテーマに、制度創設以前から物流改革に取り組んできた日清食品専務取締役業務変革推進部長兼サプライチェーン本部長兼組織開発部管掌の深井雅裕氏、SUBARU執行役員CLO・物流本部長の村田眞一氏、さらに荷主企業の改正法対応や中長期計画策定を支援するNX総合研究所シニアコンサルタントの川本文一氏が、それぞれの立場から議論した。
物流改革を専攻して進めたCLO(物流統括管理者)とされる深井氏と村田氏に共通するのは、もともと物流の専門家ではなかったことだ。就任当初は「物流の素人」であることをむしろ強みとして、社内外連携を進めてきた。

▲日清食品・深井氏
深井氏は、荷待ち・荷役時間2時間以内や積載率といった指標について、「それ自体がゴールではなく、サプライチェーンを持続可能にするためのKPI」と位置付ける。物流部門だけでなく、資材メーカー、購買、生産、SCM、営業、卸、小売まで含めた関係者が現状を共有し、共通目標を持つことが必要だと強調した。

▲SUBARU・村田氏
村田氏も生産、営業、政策渉外、リスクマネジメントなどを経験したジェネラリストとしての知見で、法律施行の1年前に新設された物流本部を束ねてきた。JIT(ジャストインタイム)生産を前提とするため、単純な「2時間ルール」の達成だけを目的とせず、「選ばれる荷主になる」ことをゴールに据える。新設工場や物流倉庫ではフォークリフト要員を自社で用意するなど、荷役の内製化を試行し、既存工場への横展開も進めている。

▲NX総合研究所・川本氏
荷主企業のCLOという立場で物流改革の最前線に立つ2人に対し、川本氏はNX総合研究所で荷主向け物流コンサルティングや国の調査事業に携わり、足元では企業から依頼を受けて改正法対応や中長期計画策定も支援している。物流システムを専門に、倉庫改善から荷待ち削減、積載率向上までを横断して見る立場から議論に加わった。川本氏は、ドライバー不足を背景に物流の持続可能性が揺らぐなか、今回の制度で荷主企業に明確な責任が課された意義を指摘。そのうえで、重要なのは「制度をどう実効性のあるものにするか」だとした。
議論の最初の焦点となったのが、荷待ち・荷役時間の「2時間」と積載率という法対応上の指標を、どう捉えるかだった。
深井氏は「2時間や積載率はあくまでKPI」と言い切る。トラックドライバー不足によってサプライチェーンが維持できなくなるリスクに対し、どのような変革が必要なのかを測る一つの指標にすぎないという考えだ。資材メーカー、購買、生産、SCM、営業、卸、小売までサプライチェーンは長く、「関わるすべてのステークホルダーの現状理解と共通目標の中で解決していく」とした。
日清食品でも、数年前までは工場へのトラック入場時間などを手書きで記録していた。現在はデータ化し、「なぜその待ち時間が発生しているのか」まで分析できるようにした。深井氏は、2時間を切るために計測するのではなく、2時間半ならなぜ2時間半なのか、その構造を関係者で理解し、行動を変えることが必要だとした。
一方、JIT(ジャストインタイム)生産を前提とするSUBARUでは、村田氏が「選ばれる荷主になる」ことをゴールに掲げる。新設工場や物流倉庫では、これまでドライバー側に依存していたフォークリフト荷役を自社要員で担う取り組みを試行し、既存工場にも横展開している。単に時間を短縮するのではなく、ドライバーにとって負担の少ない物流現場をつくることで、生産部門にも改革の姿を具体的に示している。
それぞれの10月末提出の中長期計画への向き合い方も紹介された。
日清食品は、7年前に策定したサプライチェーン変革の「羅針盤」に基づき進めてきた事業計画を、今回の法定フォーマットへ落とし込んでいる。すでに大筋は完成しているが、深井氏はさらに具体的な数値を盛り込み、「絵に描いた餅ではなく、会社としてやるというコミットメント」にするよう求めているといい、「どうせやるなら、本当にやりたいことを具体的に出す」とチャレンジングな内容にも踏み込むとした。計画がまとまり次第、広く公開することもいとわない姿勢だ。
SUBARUもドラフトは完成済み。今後、定量的な目標値やPDCAを回しやすい形へ詰めるとともに、社内関係部署との合意形成を進める。部門間調整におけるハードルはないかとの問いに、改革の方向性そのものは社内で共有しているものの、「時間軸とハードルの高さ」に対して懸念の声が出る可能性を挙げた。
後半では、議論は企業間連携へ広がった。日清食品はJAグループとの帰り便活用や飲料・ビールメーカーとの混載を進めているが、深井氏は「着荷主の壁」という見方そのものに異を唱えた。従来の納品時間や商習慣による負荷は、着荷主自身も気付いていないことがあったとしつつ、現状とコストを可視化して「お互い下げる努力をしませんか」と話し合えば変えられるとの考えだ。現在は三菱食品との取り組みなど、着荷主を起点に複数メーカーへ横展開できる仕組みづくりも進める。
村田氏は、食品業界のこうした取り組みを「すごいなと思って見ている」としながら、自動車ではキャリアカーによる完成車輸送など業界固有の条件もあり、まずは業界内の連携を進めつつ、異業種連携については「まだ絵が描きづらい」と現在地を率直に語った。

▲(左から)野村不動産・藤﨑氏、和田氏
途中では野村不動産のインフラ・インダストリー事業本部営業部長の和田吉朗氏、同事業本部営業部の副部長兼ソリューション営業課長である藤﨑潤氏も加わり、物流施設の役割が「床を貸す」ことから物流オペレーションそのものの改善支援へ広がっている現状を紹介。同社のTechrum(テクラム)では150社以上のパートナー企業と連携し、自動化機器だけでなく、物流戦略や拠点、委託先の選定まで支援領域を広げている。
物流の専門家ではないところから改革を始めた2人のCLOが示したのは、中長期計画を新たに一から作るというより、まず自社が何を目指し、これまで何を変えてきたのかを計画の形に落とし込む姿だった。制度への対応速度には各社で差があっても、10月末はあくまで改革の途中に置かれた一つの節目となる。

▲参加者全員でのディスカッション(右端はモデレーターのLOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長)
後半のセッションでは、参加者から事前に寄せられた質問をもとに、中長期計画を実行へ移す際の課題を掘り下げた。301人が回答したアンケートでは、「数値目標(KPI)の置き方」が45.2%、「自社努力の限界・外部連携」が35.2%。いずれかを選んだ回答者は7割に達した。
深井氏は、行政が示す目標値を達成するため、「各部門、各プロセスとしてどういう設定をするか」がKPI設定の難しさだと指摘。同時に「個社では何もできない」とし、発荷主、着荷主、物流事業者が現状を共有し、それぞれの課題を相互理解することが「限界を突破する第一歩」だとした。
川本氏は、KPIを細分化することだけにとらわれず、持続可能な物流のビジネスモデルをどう担保するかという視点を提示した。モーダルシフトなどコスト増を伴う施策については、カーボンプライシングなど内部会計の仕組みによって物流投資を促す企業も出始めているという。
議論は、参加者から寄せられた「総論賛成、各論反対」「負担と利益をどうシェアするか」という悩みに移った。深井氏は、持続可能なサプライチェーンという共通目的を共有できれば、「利害が対立すると思っている間は、まだ相互理解ができていないのではないか」と指摘。ゼロサムの条件交渉から、パートナーとして一緒に仕組みをつくる関係へ変える必要性を説いた。
村田氏は、部門や企業を越えた合意形成では、まず「大義」を握ることが重要だとした。負担や役割を巡って各論で意見が割れた際にも、「何のために一緒に取り組むのか」という共通目的に立ち返ることを、社内の議論でも意識しているという。
CLOの体制づくりについては、「手本がなく、何から手を付ければよいか分からない」とする回答も11%あった。これに深井氏は「手本はない」と断言。「皆さん初代CLO。自分が手本になればいい」とし、CLO一人に万能な「スーパーマン」を求めるのではなく、社内外の知見を集めて実装につなげる「チームCLO」の考え方を示した。
外部との接点についても、具体的な成果が紹介された。深井氏は、過去のCLOサロンで偶然隣り合った参加者とその場で意気投合し、その後半年以上にわたり議論を続けたことから、さらに連携先が広がっているという。村田氏も、社内に物流専門人材が多くないからこそ外部のプロフェッショナルと接点を持ち、「そこを恐れてはいけない」と語った。この日は第4回のCLOサロンも同時開催され、物流議論の終了後は、登壇者に会場参加者も加わって交流を深めた。
計画実行後の効果測定では、先行企業にもなお課題が残る。村田氏は、人員やコストの単純な増減では施策効果を測りにくく、ドライバーアンケートなどは実施しているものの、十分なデータドリブン評価には至っていないと率直に明かした。一方の日清食品は、自社開発アプリとダッシュボードで待ち時間を把握し、物流事業者との毎月のミーティングで数値を確認しながら改善を続けている。
中長期計画への悩みに、唯一の模範回答が示されたわけではない。むしろ、先行するCLO自身も試行錯誤を続けていること、その解決には社内外との対話と連携が欠かせないことが、参加者の質問を通じて浮き彫りになった。
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