話題物流課題に直面しているのは日本だけではない。
中国の物流市場では、EC(電子商取引)の拡大、SKU(在庫管理単位)の増加、販売チャネルの多様化、人手確保の難化が同時に進んでいる。アパレルや日用品の物流では、代理店向け、店舗向け、EC向けをまたぐ在庫管理と、大型販促期の急激な物量変動への対応が欠かせない。大型商戦では、通常時の数倍から数十倍に注文が膨らむ。
伊藤忠ロジスティクスの中国事業会社・伊藤忠物流(中国)が天津物流拠点で進める倉庫自動化は、こうした市場変化への実装事例だ。同拠点は2019年に立ち上げした、倉庫面積5万平方メートル規模の大型物流ハブで、華北・東北地区における同社最大規模の拠点として位置づけられている。現在はアパレル、日用品を中心に複数荷主の業務を担い、代理店向け、店舗向け、EC向け物流サービスを提供する。同社が推進する「スマート物流+サプライチェーン統合」を具現化するモデル倉庫だ。

▲伊藤忠物流(中国)
伊藤忠物流(中国)の総経理CEO、デヴィッド・チョウ(張宇)氏は、中国市場の特長をこう語る。
「中国は、世界で最も競争の激しい市場の一つだ。荷主も差別化しなければ生き残れない。品質、納期、顧客体験、レビュー、リピート購入まで含め、物流が支える範囲は広がっている」
同社が中国に進出したのは1994年。当時の中国では、現在のような意味での「物流」という概念は十分に定着しておらず、倉庫、運送、通関など個別機能の積み上げとして捉えられることが多かった。伊藤忠物流(中国)は、日本の物流コンセプトを中国市場に持ち込み、保管、配送、店舗納品、サプライチェーン管理へと事業領域を広げてきた。
その後、ECの拡大に伴い、BtoB中心だった業務にBtoC対応が加わった。店舗、代理店、EC、自社サイトなど複数チャンネルを一つの在庫で管理し、欠品や過剰在庫を抑えながら、販売機会を逃さない運用が重要になった。張氏は「手動では勝てない、あるいは回らない業務が増えている。抜本的な自動化は必須だった」と指摘する。
その判断は、天津拠点の業務課題を一つずつ分解するところから始まった。

▲伊藤忠物流(中国)、デヴィッド・チョウ(張宇)氏。
保管、作業、人手、店舗負荷を同時に解く
2025年、天津拠点ではHAI ROBOTICS の最新ソリューション「HaiPick Climb」(ハイピック・クライム)を導入した。背景には、3つの構造的課題があった。
第1は、保管効率の限界だ。従来の平床倉庫や軽量ラックでは、倉庫上部の空間を十分に使い切れない。物量増加に合わせて外部倉庫を借りれば、コストと管理負荷が増す。限られた床面積の中で、垂直方向の空間をどう使い切るかが最優先課題だった。
第2は、作業効率と人材確保である。アパレル商材は、色、サイズ、品番の組み合わせが多く、ピース単位のピッキングが中心になる。人が棚まで歩き、商品を探し、仕分ける運用では、生産性に限界がある。中国でも少子化や労働市場の変化により、人員確保は難しくなっている。大型販促期に臨時スタッフを集めても、教育、品質管理、誤仕分け対策の負荷は大きい。
第3は、店舗側の作業負荷まで含めた出荷品質だ。店舗では商品を品番や売場の流れに沿って陳列する。物流センターから商品がばらばらに届けば、店舗側での仕分けや陳列作業が増える。一方で、SKUの入れ替わりが激しいため、倉庫側でピッキングロケーションを固定化することも難しい。伊藤忠物流(中国)は、商品の順列、仕分け、整列を自動化ソリューションに委ねるべき領域として再設計した。
ハイピック・クライムとは何か
こうした課題に対する答えとして選んだのが、ハイピック・クライムだった。
ハイピック・クライムは、高密度ラックと昇降機能を持つロボットを組み合わせた自動倉庫ソリューションである。倉庫上部空間を活用できるラックを設置し、ロボットが庫内を移動、ラックを直接上下しながら目的のコンテナを取り出す。取り出されたコンテナは、作業ステーションまで自動搬送される。作業者は棚まで歩いて商品を探すのではなく、手元に届いたコンテナから必要な商品を取り出す。
従来の大型自動倉庫は、大掛かりな固定設備を前提とする場合が多く、建屋側の条件や改修範囲、導入期間が課題になりやすい。これに対し、ハイピック・クライムは既存倉庫への後付け、改装に適用しやすい。倉庫全体を一気に作り替えるのではなく、必要なエリアから段階的に導入できる。
スピード面でも、受注から最短2分以内に出庫可能な処理能力を持つ。ロボットが棚入れ、ピッキング、搬送までを担うため、作業者の歩行や手作業を最小化できる。天津拠点にとって重要だったのは、「高密度化」「後付けしやすさ」「スピード」「作業者の歩行削減」「拡張性」を同時に満たせる点だった。

▲HaiPick Climb(ハイピック・クライム)
一角から始められる柔軟性
天津拠点では、3000平方メートルほどの倉庫の一角にハイピック・クライムを導入した。130台のロボット、3万5271の保管ケース、21台の作業ステーションで構成し、店舗向けのバラ出荷を中心に、保管・ピッキング工程を担わせている。SKU数が膨大で、シーズン変動が激しいアパレル商材に対し、混流処理をスムーズに行える点が評価された。
ハイピック・クライムを選んだ理由は、天井高8.5メートルを生かした高密度化だけではない。既存倉庫全体を専用設備に作り替えるのではなく、必要なエリアから段階的に導入できる柔軟性が重要だった。倉庫の一角に高密度保管とピッキング機能を組み込み、従来運用と併存させながら効果を検証する。市場や顧客の業務が変化すれば、ラック、ロボット、作業ステーションを追加し、処理能力や保管能力を広げられる。
張氏は、この柔軟性を重視した理由を「中国市場では、今の波動はあくまで参考値にすぎない」と説明する。
「マーケットが変わる。オーダーが変わる。BtoBとBtoCの比率も、販売チャンネルも変わる。最初から固く作り込み過ぎると、2割変わっただけで対応できなくなる。だから、コアの部分は自動化に任せ、人間が全体をコントロールできる形にした」
天津拠点では、当初からラックの増設余地を残し、ロボットや作業ステーションの追加も可能な構成とした。作業ステーションも必要数だけに絞らず、出荷波動やオーダー構成の変化に対応できるよう余裕を持たせた。ハイピック・クライムは、高密度化と省人化だけでなく、将来の物量増、業務変更、適用領域拡大に備える可変的な物流基盤なのだ。

▲伊藤忠物流(中国)で稼働するハイピック・クライム。
業務優先で使い込む自動化
機能面では、ロボットが自動走行、ラック壁面を昇降し、ステーション間の搬送を完結できる点が効いた。中継やリレーを前提としないため、待ち時間を抑えやすい。また、縦1列単位で制御する設計により、通路全体をふさがずに同じエリア内で複数ロボットを並行稼働させやすい。
張氏は、選定時の考え方を「設備優先ではなく、業務優先だった」と振り返る。「自動化メーカーは、どうしても設備効率を最優先に考える。だが、われわれは業務を止められない。業務優先と設備効率のバランスをどう取るか。そこに一番時間を使った」
伊藤忠物流(中国)は、導入前から入荷格納、動線、バッチ切り、優先度制御、教育など、人手運用の改善を進めていた。そのうえで、機械化すべきコア工程を切り出した。導入後も改善を重ね、ロボットの動かし方を調整した。自動化は、設備を置いて終わりではない。現場の業務に合わせて使い込むものだという姿勢がある。
運用事例も少なかった最新システムの導入決断について、張氏は「HAI ROBOTICSの技術力は認めていたから、新しい商品が出たならチャレンジしよう、と考えていた。ただし、顧客の業務を守る必要がある。そこで、倉庫の一角を空けて始めた」と振り返る。
倒的な効率化、省人化にとどまらない成果
成果は数値にも表れている。自動化エリアでは、従来の有人倉庫と比べて空間利用率が92%向上した。出荷業務に必要な稼働人数は60%超削減した。時間当たりの出庫能力は3000ケース超に達し、SKU管理や季節波動に対しても、人的リソースの増減に依存しにくい運用となった。
一方で、伊藤忠物流(中国)は自動化を「省人化」の一言では捉えていない。重視するのは、作業の標準化と可視化である。従来は熟練者の勘や経験に頼っていた判断をデータで把握し、プロセス全体を標準化する。出荷時に店舗陳列順に近い形で商品をそろえる運用も可能となり、倉庫内だけでなく、納品後の店舗作業にも効果が及ぶ。
HAI ROBOTICS にとっても、天津拠点は3PL 型倉庫における実装事例となる。複数荷主、複数チャネル、複数出荷条件が重なる現場では、ロボット単体の性能だけでは成果は出ない。既存WMS(倉庫管理システム)との連携、バッチ設計、現場立ち上げ、保守対応、トラブル時の復旧力まで含めた総合力が問われる。
中国では物流ロボット、自動化ソリューションの競争が激しい。その中でHAI ROBOTICSが差別化するには、製品性能だけでなく、現場で動かし切る導入設計と運用支援が重要になる。天津拠点での取り組みは、伊藤忠物流(中国)の運営力と、HAI ROBOTICSの技術力が交差した成功事例といえる。

▲張氏とHAI ROBOTICSのアラン・リウ社長(左)
未来戦略を支える可変的な物流基盤
伊藤忠物流(中国)は今後、天津拠点で得た運用ノウハウを他業務へ横展開する。ハイピック・クライムの拡張性は、その未来戦略とも結びつく。対象業務は、店舗向けアパレルのバラ出荷にとどまらない。厳格なロット管理が求められる化粧品、食品、リードタイム要求が高くSKU数の多いEC業務、生産性が重視される小売チェーン物流への展開、AI活用も視野に入れる。
張氏は「設備を入れることが目的ではない。変化する顧客の商売に合わせ、物流側も変われることが重要だ」と語る。天津拠点で構築したのは、固定化された自動倉庫ではなく、業務の変化に応じて広げ、組み替え、使い込める自動化基盤である。中国国内では、HAI ROBOTICSの設備と伊藤忠物流(中国)の運営ノウハウを組み合わせた共同提案も進めており、天津拠点を上回る規模の案件も立ち上がっている。
日本市場にとっても、この事例から学ぶべきことは多い。日本では既存WMSや業務インターフェースが複雑で、長年の運用が積み上がっているため、自動化設備を単純に置き換えるだけでは成果が出にくい。POC(概念実証)や安定稼働に対する要求水準も高い。だからこそ、導入判断には、現場データに基づく効果検証、トップダウンの意思決定、立ち上げ後の運用改善が欠かせない。荷主企業のCLOの判断力・決断力も問われる。
HAI ROBOTICSは日本でデモ環境を整備し、ハイピック・クライムの提案を本格化している。高密度、高スループット、高柔軟性を特長とする同ソリューションは、既存倉庫の一部から導入し、物量や業務変化に合わせて拡張できる点で、日本の物流現場にも親和性がある。人手不足、保管効率の改善、既存施設活用、SKU増加、自動化機器選定に悩む荷主・物流事業者にとって、天津拠点の実装経験は参考になるはずだ。

▲ハイピック・クライムのデモ稼働はHAI ROBOTICS JAPAN(東京都大田区)内で確認できる。
自動化の本質は運用改革にある
自動化は、設備投資の話に見えやすい。だが、天津拠点の事例が示すのは、倉庫の中にロボットを置くことではなく、倉庫運営そのものを組み替えることだ。限られたスペース、人手不足、SKU増加、販売チャネルの多様化という課題に対し、物流会社が業務を分解し、人が判断する領域と機械に任せる領域を再定義した。
ハイピック・クライムは、その再設計を支える手段である。主役はあくまで、変化の激しい市場で顧客の物流を支える伊藤忠物流(中国)の現場運営力だ。天津拠点の取り組みは、これからの物流自動化が、単なるロボット導入ではなく、荷主の競争力と現場の持続性を同時に支える運用改革であることを示している。
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