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国内初「編集型」物流施設、関西の全主要都市へ2時間圏内

延床7万坪、西の基幹拠点・MFLP茨木17年9月竣工へ

2016年12月12日 (月)
MFLP茨木トップ画像-2
空白

話題 三井不動産が「東の基幹拠点」に位置付けたMFLP日野に呼応する「西の基幹拠点」の全貌が明らかになってきた。一言で表現するなら、MFLP茨木は「三井不動産らしさを確立する物流拠点」だ。

これまでの物流施設とは一味も二味も違うこの大規模物流施設開発プロジェクトも2017年9月の竣工まで残すところ10か月程度となり、地上6階建て・延床面積24万1841平方メートル(7万3157坪)というその巨大な構造物が徐々にその姿を現しつつあるなか、MFLP日野に続いてプロジェクトの開発担当者を務める藤塚和弘氏(三井不動産ロジスティクス本部)に、「三井不動産らしさ」の内側を聞いた。※聞き手・四森涼子さん(物流企業勤務)

– contents –

▷ 西日本を広域カバー、陸海空の輸送モードが活用可能な希少立地
▷ 雇用環境に死角なし、周辺居住者の7割超に就業意向(読売IS調べ)
▷ 「物流施設×高度人材サービス」リクルーティングセンター構想
▷ 国内初のコンセプト「編集型」物流施設
▷ 取材を終えて(編集部)
▷ MFLP茨木の概要
▷ 三井不動産・企業データ
シリーズ第1回「三井不動産だからできることを伝えたい」
特別インタビュー 三木孝行氏(三井不動産執行役員・ロジスティクス本部長)
シリーズ第2回「MFLP日野」-首都圏の基幹物流施設に施された独自手法-

工事が進むMFLP茨木のコピー

▲ 9月の竣工を目指し急ピッチで進む建設工事

■西日本を広域カバー、陸海空の輸送モードが活用可能な希少立地

四森涼子さん(以下、四森):まず基本的なことから伺いますが、MFLP茨木が立地する「彩都地区」のメリットは何でしょうか。

対談風景2(藤塚氏)藤塚和弘さん(以下、藤塚):名神高速道路茨木インターチェンジから5キロ以内、さらに新名神高速道路が開通すると茨城北インターチェンジも使えるようになります。関西の広域輸配送にとても便利な立地。最近の流れで言うと、湾岸から内陸へと物流のニーズが移ってきていますが、これは地盤の強さが重要なポイントとなっている現れだとみています。関西に地盤を置く企業は別ですが、例えば首都圏を拠点としている企業は、まず首都圏に物流拠点を配置し、2つ目の拠点として関西に拠点を開設するというところが多いんです。そういう意味ではBCPの観点が非常に重要。首都圏で地震が発生した場合、関西の拠点がいつでもフォローできる体制をとっておくことができるわけです。

MFLP茨木の2時間到達圏-2

四森:関西では何件目の開発になりますか。

藤塚:当社は大阪府堺市で2014年9月末に開設した物流施設「MFLP堺」を運営していますが、これに続く2件目の開発になります。堺はすでに満床となっていますが、2017年9月に竣工するMFLP茨木と合わせて、内陸と湾岸それぞれのニーズに対応できるよう配慮しています。

四森:この地域を開発地に選んだ理由は何でしょうか。

藤塚:まず、MFLP茨木の近くにヤマトグループが西日本の基幹物流拠点「関西ゲートウェイ」を開設することになっていますが、これが荷主企業にとって大きなメリットになるとみられます。関西ゲートウェイは東京・名古屋・大阪の三大都市圏を当日配送可能な物流ネットワークで結ぶ重要拠点だと聞いており、EC向けニーズの取り込みに加え、テナント企業の多くが店舗配送にもヤマト運輸や佐川急便を利用することを考えると、幅広い配送ニーズに適した環境だといえます。BtoCだけでなくBtoBでもメリットがあるでしょう。

四森:BCPの観点から、首都圏と関西に物流拠点を展開するニーズが年々高まっています。

藤塚:そうですね。BCP対策として適した立地性を補う要素として、MFLP茨木が立地する彩都エリアが液状化の可能性がきわめて低い土地であることも特長のひとつになります。実は大阪府下で物流に適しているといわれる用地のうち、液状化の危険性が低いエリアはそれほど多くないんです。

液状化の可能性

▲ 既存の物流集積地を上回る利便性と、BCP拠点にふさわしい地盤を兼ね備えた立地が特徴

■雇用環境に死角なし、周辺居住者の7割超に就業意向(読売IS調べ)

四森:ヤマトグループといえば、BCPの観点からデータセンターを東西に分けて展開していることで知られていますが、そういう意味ではMFLP茨木もBCPを考慮した拠点になり得るわけですね。首都圏と関西の両方で展開するという利用方法が可能です。ところで、MFLP茨木では、最寄りの彩都西駅だけでなく、JR茨木駅、阪急茨木市駅にもそれぞれシャトルバスを運行させるようですが、JR茨木駅は1日の乗降客数が9万人にのぼる大規模な駅で、ここと現地をシャトルバスで結ぶ意味は大きいですね。

藤塚:周辺で最も人口が密集しているのは茨木市中心部なので、なるべく通いやすい環境をと考えてシャトルバスを設定することにしました。4月にMFLP茨木の前面道路の供用が開始されましたが、これに合わせて阪急バスが2016年6月から茨木駅と結ぶ路線バスを運行させているんです。施設の前にバス停も設置してもらいました。MFLP日野と同様、ゆくゆくはバス停名も施設名を入れたものとなる見込みです。この阪急バスと、茨木と彩都西から交互にMFLP茨木と結ぶシャトルバスにより、通勤利便性は格段に向上すると思われます。シャトルバスは所要時間は約20分です。

通勤利便性

▲ 彩都西駅、JR茨木駅、阪急茨木市駅と周辺主要駅すべてとシャトルバスで結び、通勤利便性の向上に配慮

四森:MFLP茨木の周辺環境は。

藤塚:茨城市を含む北摂エリアは基本的に関西のベッドタウンとして住宅エリアが拡大を続けており、物流施設も集積しています。

編集部
2015年11月に彩都地区に居住する20歳から59歳までの男女399人に就業意向を聞いた調査(読売IS)によると、勤務日・勤務時間の柔軟性が高まったり、利用駅からシャトルバスが運行されたりとMFLP茨木の開設などによって就業環境が高まる場合、実に72.4%が「ぜひ働きたい」「機会があれば働くことを検討してもいい」と回答している。茨木市を含む周辺5市の人口は150万人を超えており、MFLP茨木は彩都という開発エリアにありながらも従業員を確保しやすい点で、大きな可能性を秘めた立地だといえそうだ。

読売IS調査結果等

四森:内陸は東大阪エリアのほか、枚方といった京阪沿線などに中小規模の倉庫群が集積していますが、茨木にロケーションを設定したのはなぜでしょうか。

屋上テラスからの眺望

藤塚:広域配送をにらんでのことです。関西より西側全体をカバーする立地として、西日本の基幹物流拠点として活用するニーズを捉えたい。大阪港へ50分程度、大阪空港へは30分かからず到達できるなど、さまざまな物流ニーズに対応できるのが特徴だといえます。

四森:物流を展開する上で非常に優れた立地なんですね。労働力の確保についてはいかがでしょうか。

■「物流施設×高度人材サービス」リクルーティングセンター構想

藤塚:シャトルバスを運行させることで路線バスと併せて通勤しやすい環境を確保したほか、万博公園跡地のエキスポシティに開業した商業施設「ららぽーとエキスポシティ」との連携を考えています。

ららぽーとEXPOCITYとの連携

ららぽーとEXPOCITY概要四森:主婦層に根強い人気のあるららぽーととの連携は魅力的ですね。具体的にどのような連携になりますか。

藤塚:ららぽーとで飲食などをされた場合に、何らかの優待が受けられるようにするなどのサービスを検討しています。まだ構想段階ですが、リクルーティングセンターのようなものを検討し、複数の人材派遣会社と協議を重ねているところです。

四森:人材派遣会社との連携ということでいえば、MFLP日野では派遣会社の担当者が施設に常駐するサービスを実施していましたが、それとどう違うのでしょう。

藤塚:より踏み込んだ取り組みになります。テナント企業によっては人事・労務面が手薄な場合もあり、こうした企業を対象に、人材確保のソリューション提案ができるような拠点づくりを考えています。日雇い、求人募集の初動、急に人材が足りなくなった場合の人材派遣、正社員への移行、採用代行などまで提供できるようなレベルを目指しています。通常ならテナント企業が業務を委託することになるわけですが、三井不動産が業務委託することで、「ある業務については無料でテナント企業に提供できる」ようになるものも出てくると思います。

四森:そういうサービスを受けられる物流施設は魅力的ですが、コスト面に跳ね返ってくるのが心配です。

現地事務所に設置されたイメージモデル藤塚:延床面積が24万平方メートル(7万坪)を超える大きな面積を活かし、スケールメリットを活用していきます。つまり、テナント企業が個々に委託するよりも、施設全体で委託したほうがコストダウンの交渉をしやすくなったり、求人情報の掲載についても同時期に発注することで規模の効果を得ることが可能になるわけです。

四森:高コスト化を心配する必要はなさそうですね。ただ、それはある意味、三井不動産が物流企業の周辺領域に足を踏み入れることになるということでしょうか。

藤塚:あくまで人事・労務面に課題を持つテナントが利用することを考えており、当社はサポート役に徹する考えです。もちろん、必要ないというテナントもあるでしょうから、ニーズに応じて利用してもらえれば。

四森:そういうサービスがあれば、関西に土地勘のない企業でも進出を検討しやすそうですね。

藤塚:関西には求人媒体もローカルのものがかなりあるんです。そういう情報を押さえることができるメリットは小さくないと思います。20社以上の人材サービス会社とコンタクトを取り、10社以上からヒアリングを行い、その協議の中で「こういうことができそうだ」というアイデアが生まれました。すべて三井不動産が一から企画した取り組みであり、物流施設の新しいあり方を提案するつもりでやっています。2017年4月頃には、具体的なサービス内容が固まるでしょう。

四森:それは楽しみですね。物流施設の提供を最大のミッションとしながらも、周辺サービスを拡充することでテナントの利便性を高める取り組みという点で、「三井不動産ならでは」の物流施設像が進化してきたように感じます。

藤塚:三井不動産のロジスティクス本部は「ともに、つなぐ。ともに、うみだす。」という事業ステートメントを掲げています。時にはテナントニーズを読み違えることもあるかもしれませんが、これまでの取り組みは新しい開発案件でより進化して継承してきており、方向性には自信を持っています。今後もこうした試みを積極的に採り入れていきたいと考えています。

現地事務所内セミナールーム四森:不動産会社やファンドが開発する大規模物流施設は、汎用性の高さが最大の売りとなっていますが、一方で三井不動産は、特定のニーズを想定したフロアづくりを行うなど、専門的なニーズを追求している面もありそうです。MFLP日野やこのMFLP茨木で取り組もうとしていることは、主要なテナント層である物流企業が単独では実現できない機能が含まれていますね。

藤塚:MFLP日野の開発で短期人材サービスを提供しようという話になった際、「この取り組みでできることは限られている」という意見が結構ありました。どこまで間口を広げられるかを検討するため、できる限り多くの人材派遣会社から意見を聞くべきだと考え、結果的に20社以上にコンタクトすることになったんです。

編集部
汎用的な大規模物流施設としては、グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(GLP)が一部の拠点で人材サービス会社とテナント企業をつなぐ機能を提供しているほか、三井不動産がMFLP日野で人材サービス会社の担当者に常駐してもらい、テナントの人材ニーズに即応するサービス体制がみられる。

これらは十分に画期的な取り組みだが、MFLP茨木では複数のテナントが利用する「マルチテナント型物流施設」のスケール効果を活かし、共同求人や施設に付属する機能として無償で利用できるサービスの提供までを考えているという。これが実現すれば、テナント企業は自前で施設を建設するよりも、汎用物流施設を利用したほうが手間とコストを省くことができるようになり、本業である物流サービスの提供により専念できる環境が出現することとなる。物流施設と物流企業の関係が変わる可能性を秘めた意欲的な取り組みだといえよう。

■国内初のコンセプト「編集型」物流施設

四森:MFLP茨木は6階建てで各フロアが中央車路で隔てられた1万坪の構成となっていますが、すべてのフロアが汎用的なものになるのでしょうか。

対談風景1

藤塚:実はフロアごとに特色をもたせる「編集型物流施設」を意識しています。工夫によって希少性の高い物流スペースを提供できる面があり、汎用性を維持しながら、プラスアルファの部分で差別化を図っていくのが基本方針です。

四森:MFLP日野でもそれに近い話をしてもらいましたが、そこからさらに差別化要素に磨きがかかってきたように感じますね。

藤塚:時系列で言うとMFLP日野、MFLP船橋に続くMFLP茨木ということになるので、過去の取り組みをどう進化させていくかというのは、常にテーマとしています。例えば、これまでの開発を通じて、大規模施設では1フロア程度、低床があったほうがニーズに応えやすいという意見がありました。そこでMFLP茨木では、1階部分はドックレベラーを備えた高床倉庫に加え、トラックバースからフォークリフトで荷役をしやすい低床倉庫を設けることにしたわけです。この部分は梁下有効高6.5メートル、1平方メートルあたりの床荷重が2.5トンと、そこで行われる荷役の特性に配慮したものとなります。まずは1階部分の半分を低床化するということからスタートしました。

フロアごとに異なるスペック

四森:スタートということは、ほかのフロアでも独自性をもたせたということでしょうか。

藤塚:ほかには空調付きフロアを設けたり、「パッシブデザイン」を取り入れたりというフロアごとの特性を出そうとしています。MFLP茨木は免震構造を採用していますが、免震層はほかのフロアに比べて「夏に涼しく、冬は温かい」という特徴があり、地上(屋外)よりも空気環境が安定しています。この温度差を利用した「クールビットファン」を導入できないかと考えて調査した結果、十分に利用できるということとなり、1階部分ではこの設備を導入し、夏の暑さや冬の寒さが軽減できる仕様となりました。また、6階部分は最上階ということで、夏の室内温度の上昇が最も大きいと考え、標準装備として空調を導入することにした。当社の施設で事前に空調設備を導入するのは初めてですね。

四森:MFLP日野でトライアル導入していた大型ファンはいかがでしょうか。

藤塚:大型ファンはもちろん導入しますが、それだけでなく照明の照度を1個単位で調整できる機能も採り入れる予定です。これにより、人があまり出入りしないストックスペースでは照明を落とすなど、「LEDのその先の省エネ」を考えた取り組みが実現できることになります。LEDを導入することで50%程度の省エネを実現することは可能ですが、さらに細かく照明のON/OFFを調整することで、最大60%の省エネ効果が得られると考えています。これらはすべてタブレット端末で操作・管理できるようになります。

大型ファン-2

四森:物流現場では、例えばフォークリフトしか走らないようなスペースであまり明るい照明があっても「もったいない」ということになりますが、1個単位から調光できるというのは、テナントのレイアウトごとに適した省エネが可能になることを示していますね。

藤塚:一般的には防火区画ごとに制御するケースが多いと思いますが、それに縛られない柔軟な調光システムが当社の提案のひとつだと考えてください。また、5階には細かい区分けが可能な仕様を導入しています。最低850坪から利用できる設計で、必ずしも大規模な物流作業でなくても使ってもらえるのがMFLP茨木のもう一つの特徴だといえます。

四森:各階ごとに異なる仕様を導入しつつ、汎用性を維持しているという説明がよくわかりました。MFLP茨木のさまざまな機能・設備を利用することにより、自前の物流施設を建設するよりコストや物流効率の面でさらに大きな成果が得られる可能性が高まるんですね。

■取材を終えて(編集部)

開発を担当している藤塚氏の話を聞き、最初に感じたのは「これはとんでもない物流施設が出てきた」ということだ。施設の快適性や環境性能もさることながら、リクルーティングセンター構想やフロアごとに異なる趣向を凝らした仕様というのは、とても物流企業1社や荷主企業が単独で取り組むのは困難なレベルに達しているからだ。汎用性と差別化という異なる命題に対し、三井不動産が出した答えのひとつがこのMFLP茨木に詰まっていると感じたが、それだけでない。「物流施設の未来」がこうした取り組みから生み出されていくというワクワク感。前回のMFLP日野に続いてMFLP茨木の開発内容を説明してもらったが、茨木が日野よりもレベルアップしているのは明らかだ。

シリーズの最初で同社の三木孝行執行役員・ロジスティクス本部長が「三井不動産だからこそできるという物流施設をつくりたい」と話していたのを思い出した。機能面と安定感ではすでに他社の物流施設を凌駕するレベルに達し、十分に「三井の物流施設」は差別化できており、MFLP茨木はこれまでの物流施設の延長線上で考えるべきではない。現地に案内所が設置されているので、関西の物流拠点を検討している読者は一度訪問してみてはいかがだろうか。

■MFLP茨木の概要

所在地:大阪府茨木市彩都あかね4番
敷地面積:10万8671平方メートル(3万2873坪)
延床面積:24万1841平方メートル(7万3157坪)
総貸付面積:20万8913平方メートル(6万2169坪)
規模・構造:地上6階建て、S造(免震構造)
トラックバース:396台分
駐車場:普通車417台分、トラック待機場29台分
バイク置き場:78台分(駐輪場兼用)
竣工:2017年9月末

お問い合わせ先 https://www3.mitsuifudosan.co.jp/enquete/regulation.php?enqueteurl=809240f55538b11f8a47464591be463b

■三井不動産・企業データ

商号:三井不動産株式会社
本社:東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
設立:1941年7月15日
資本金:3397億6600万円
2015年度売上高:1兆5679億6900万円
株主数:3万568人(2016年3月31日現在)
従業員数:1332人(2016年3月31日現在)
TEL:03-3246-3131(代表)
ウェブサイトURL
http://www.mitsuifudosan.co.jp/