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「17年の小売業は新たな配送形態が拡大」、米マンハッタン

2017年2月23日 (木)

サービス・商品マンハッタン・アソシエイツは23日、英国の小売分野で2017年に重要になると同社が予測する「5つの潮流」をまとめた。その注目分野は、(1)インターネットショップ専門業者のリアル店舗への進出(2)革新的な配送方法の実現(3)人工知能(4)AR・VR技術の普及(5)「オムニチャネル型顧客サービス」への移行――の5項目だ。

「いまや流通小売業者には、重要顧客に向けて個別にカスタマイズしたサービスを遅滞なく提供できるような仕組みを常に整えておくことが求められている。販売チャネルの違いはもはや存在しない。そして、経済状況の混迷がまだしばらく続くと考えられる2017年、ショッピングに対する消費者の期待レベルはますます高まり、インフラとなる技術革新も進むものと予想される」(マンハッタン・アソシエイツのEMEA地域シニアバイスプレジデント、ヘンリー・セロー氏)

こうした環境変化に流通小売業は対応していかなければならず、そのスピードもさらに加速していくとみられる。以下に具体的なマンハッタンの予測内容を掲載する。

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1.ネット専業店の実店舗へのシフト
ここ1-2年の間、ネットショッピングで成功したオンラインストア専業の小売業者の多くが、リアルな店舗を持ち始めている。そしてこの傾向は2017年も衰えることなく続いている。その形態は本格的な営業店舗のほか、期間限定の仮店舗、他社との協業型店舗など々だが、今後もオンラインストアが、リアルな買い物かごと仮想の買い物かごの両方を重視していくだろう傾向はますます高まっていくものと思われる。オンライン専業ストアだというかつての「新規性」は、もはや過去のものとなっている。

特にこの傾向が顕著なのはおそらく米国だろう。Amazonは数百店にも及ぶリアルな書店を立て続けにオープンし、AmazonEchoという先進的なホームスピーカーをプロモーションするための期間限定の店舗を立ち上げたりもした。会計のための待ち時間がゼロというコンセプトの食料品店AmazonGoもこれに続くものだ。

英国でも、ファッション用品を扱うオンライン専業店Missguided社が2016年にロンドンに最初の実店舗オープンしたり、ファッションのオンライン専業セレクトショップだAsos社が大型スーパーのAsda社が提供する「toyou」と呼ぶ店舗サービスを活用して表通りに販売拠点を設けたりといった動きが活発化している。

そのほかにも、eBay社が家具日用品販売のArgos社との協業により目抜き通りに店舗を構え、顧客が自分の都合に合わせて商品を受け取る、あるいは返品商品を持ち込めることを可能にする体制を整えたり、オンライン紳士服ブランドのMrPorter社が期間限定ショップをオープンしたりしている。

また、チョコレートメーカーのHotelChocolat社と家具小売のMade.com社はともに、オンライン専業の小売店としてスタートしたが、今では実店舗やショールームをそれぞれ運営している。

マンハッタン・アソシエイツが2016年12月に実施した調査によると、消費者がリアル店舗を訪れる理由の上位2つは、購入前に製品を試すことができることと、商品を「その場だぐに」入手できるということだった。

ネット購入でのクリック&コレクトの傾向は昨今さらに強まり、自宅以外の場所で自分の都合に合わせて商品を受け取ったり、返品手続きをしたりという消費者の要求は今後もますます拡大していくだろう。そうした動きが加速する中で、オンライン専業の小売業者は実店舗へのシフトを検討せざるを得ない状況となっているのだ。

このように、オンラインで構築したブランドを実店舗の環境にもスムーズに移行するという取り組みが2017年の流通小売業の課題のひとつと言えるだろう。

2.時間を短縮する配送の新形態
前述した英国でのマンハッタンの調査によると、消費者の58%が「その場ですぐに」商品を入手するために、店舗に足を運んでいる。こうした状況下で小売業者には、オンラインからの注文に確実に応えられる配送方法の確立と、顧客の要望に沿ってできる限り即座に商品を手渡すことができる方法を構築することが求められている。

さらに、オンラインと実店舗の融合が今後さらに進んでいけば、小売業者は、消費者の満足度を高めるために、従来「ラスト1マイル」で取り組んできたこと以上のサービスを提供できるような努力が必要になってくるだろう。

Amazonでは、ドローンを活用したclick-to-deliveryサービスを世界で初めて導入し、注文後13分で届けるという驚異的な配送を実現している。こうした配送手段は、すべての企業がすぐに真似できるものではないが、Amazonによるこの歴史的な取り組みが、他の流通小売業者のそう遠くない未来での変革につながっていくものと想像される。

しかし、ドローンによる配送だけが、唯一の革新的サービスではない。他にも配送効率を向上させる々な取り組みが行われている。

例えば英国の大型スーパーだAsda社は2015年末に、業界でも先駆的となった「toyou」と呼ぶ店舗サービスを開始した。このサービスは、他のオンラインショップで購入した商品でも、Asdaの商品と同にAsda店頭で受取と返品を行うことができるようにしたものだ。数多くの家庭用品ブランドなどと提携して、消費者にとって利便性の高い配送と返品を実現している。

また、欧州の宅配サービスのDeliveroo社やStuart社などもサービスを拡大し、流通小売業者に向けて新たな配送の選択肢を提供している。

2017年は、商品を1時間以内あるいは数分以内に届けるといった、消費者のさらに高まる要求に対応するため、小売業者がさまざまな協業を模索するといったことが予想される。そしてこれは単に消費者の要求だからということだけでなく、あらゆる面でサービスの運用効率を高めていきたいという小売業者のチャレンジでもあるのだ。

そして本当に目指すべきものは、顧客が望むものを、いつでも、どこにでも届けることができるような体制を整備すると同時に、そうした新しい配送方法の導入が企業の収益を悪化させることなく、確実に利益を向上させていくことにほかならない。

3.カスタマイズサービスの切り札となる人工知能
昨年は顧客サービスのひとつとして自動会話プログラム「チャットボット」の活用が進み、一部ではAIを活用していることが話題となっていた。しかし多くのチャットボットは知能というにはまだ程遠く、推測をもとに回答している程度のものに過ぎない。チャットボットは非常に複雑で、その機能が開発者のアルゴリズムやデータアクセス頻度によって形作られていくという点で、現時点では多くの取り組みが特定の質問に対して「最良の推測」を行っているだけのもので、カスタマイズした個別の回答を導き出す計算能力を備えているとまでは言えない。

しかし、コンピュータが人間のように論理的な推論や意思決定を行うことを目指した技術は、今はまだ道半ばではあるものの、その進歩の早さは目をみはるものがある。

現在は、自然言語処理、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなどがその先端テクノロジーとして注目されており、時間とともに豊富なデータが蓄積されつつある。こうした取り組みの積み重ねによってAIの能力は確実に高まりつつあり、すでに人間のように考え、話し、判断し、対話ができるレベルにまで至っている例が現れ始めている。

アウトドア用品の米国NorthFace社は昨年、対話型のショッピングアシスタントの仕組みを導入した。これは、自然言語処理技術を用いた顧客との会話により、個々の好みにあった商品を提案するというもので、AIを活用してニーズをリアルタイムかつインテリジェントに判断するという点で、カスタマイズサービスのあり方を塗り替える革新的な取り組みと言えるだろう。このサービスを用いれば、顧客がどのような目的で何を望み、どういったスタイルやカラーを探しているかといったことを2分以内に特定することができる。

同に、米国の大手百貨店Macy’sは最近、AIを活用した店頭でのショッピングアシスタント・アプリケーションとして「Macy’sOnCall」を試験的に導入し、米国内の10か所の店舗で情報提供ツールとして運用している。顧客は、特定の商品や売り場、ブランドがどこにあって、その店舗で利用可能なサービスは何かといった質問をスマートフォンに自然言語入力することで、カスタマイズされた関連情報を受け取ることができる。

こうした小売業者によって開発され試行されているサービスは、AIアプリケーションのほんの一部に過ぎないが、今後、全社の在庫や顧客に関するデータと密接に連動したサービスとして展開できるようになってくれば、顧客に対するサービスとして非常に大きな価値が生まれる可能性がある。AmazonのAlexa、GoogleのAssistant、AppleのSiri、MicrosoftのCortanaなどのAIアシスタントは、その普及が進めば進むほど、より多くのデータや個人情報が蓄積され、提供できる能力はさらに強力なものとなっていくだろう。

将来、オーダー管理システムが在庫や顧客取引に関する豊富なデータを蓄積し、それがさらに発達したAI技術と連動するようになる世界を想像してみてほしい。小売業者が消費者の興味や嗜好を本人以上に熟知することで、購入したいと潜在的に考えている商品や、その配送方法などを先取りして提案できるようになるのだ。そうした時代が来るのはそれほど遠くない未来かもしれない。

4.仮想現実と拡張現実がもたらす変革
ここ数年、消費者の購買動機を刺激し、企業の売上促進に貢献する手段として、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)が々な形で取り上げられてきた。過去1年ほどでウェアラブル端末はより実用的になり、これまでとは異なる没入感のある新たなユーザーインターフェイスに対して投資を行う企業が増えてきている環境を見ると、2017年はVRやARがニッチな市場からビジネスの本流へと転換する年となるかもしれない。

BMW社は、Accentureと協力してGoogleのAR技術Tangoを活用したアプリケーションを開発し、実際の状況で車がどのように見えるかを視覚化する仕組みを提供している。化粧品専門店の仏Sephora社が開発したバーチャル・アーティストアプリは、特定のメークアップカラーが自分の顔でどのように見えるかを即座に確認できるツールだ。米国のホームセンターLowe’sHoloroom社は、顧客がVRゴーグルを使って自分の理想とするキッチンやバスルームをデザインすることができるアプリを提供している。これらは、ここ15か月ほどの間に開発されたものばかりだ。

さらに、ウェアラブル技術の開発を進める大手企業がB2B市場への進出を拡大しようとしていることから、2017年は店舗でのVRやARの技術導入がさらに進み、店舗には常にバーチャルなストックルームが存在するという環境が整備されていくだろう。

また、人の視野に直接情報を映し出すHUD(ヘッドアップディスプレイ)やスマートグラスを利用すれば、口頭では説明がしづらい製品の特徴や、配送方法、価格などあらゆる情報をビジュアルかつリアルタイムに顧客に伝えることが可能になる。さらにその間、店舗スタッフは顧客のそばを離れたり、タブレットやスマートフォンを確認する作業を行うこともできるようになる。

5.全社的オーダー管理でオムニチャネル型顧客サービスを実現
世界各国の流通小売業者では、過去7-10年をかけて、フロントエンドの販売プロセスの整備を進めてきた。その多くでは、全社レベルのECプラットフォームへの投資が行われ、それがオムニチャネル型ビジネスに転換していくための基盤ともなっている。

そして、そうした企業の大半は、フロントエンドと同にバックエンドのシステムを構築することが重要だことに着目し、過去数年間で、消費者の期待に応えられるようなシームレスで一貫したオムニチャネル型サービスの提供を目指してきた。こうした取り組みのポイントとなっているのは、全社的に統合されたオーダー管理システム(OMS)にある。先進的な流通小売業社は、自社のオムニチャネル戦略を策定し、それを実行に移した際の重要な技術要素として、このOMSの存在を挙げている。

そして今、ほとんどの小売業者が認識しているのが、今後は、過去の顧客の購買データと在庫など現在のリアルな情報を結びつけるためITをフルに活用し、顧客が潜在的に持っている購買意欲を満たすことができる、本当に役に立つ、厳選された情報だけを提供していく仕組みを持つことが、ビジネス成功の条件になるだろうという考えだ。

全社レベルでのOMSを構築することは、今後さらにユーザーの選択肢が広がってニーズがより移ろいやすくなるであろう市場で、消費者の期待に確実に応えつつ競争力を維持するために不可欠な取り組みとなる。

商品の提案を行う際に顧客に伝えなければいけないのは、それがアプリ経由であっても、ウェブサイトからでも、店舗でも、またコールセンターであっても、(1)在庫の有無(2)いつ入手できるか(3)どういった受け取り方法があるか(4)支払い方法は何が選べるか(5)購入と同時に別の商品を返品し、それを一回のクレジットカード処理で済ますことができるか――といった情報であり、これらすべてに対応した上で利益を確実に確保することが、流通小売業者の今後の課題となる。

在庫を常に100%把握できていると考えている小売業者はわずか6%に過ぎないが、一方で消費者の3人に1人は、もし店頭に在庫がないならば、他の店で買うか、購入をあきらめると回答している。

今後、流通小売各社が全社規模でOMSを構築することの重要性に着眼し、導入がさらに進むことで、こうした比率も必然的に変動していくだろう。そして、顧客に対して商品の在庫情報をリアルタイムに提供できるような仕組みが構築できれば、販売機会を逃さないためのさまざまなアプローチを展開することが可能になる。