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M&Aや物流施設投資「当面は慎重」に

三井倉庫HD、会長・社長が過去の買収で“引責辞任”

2017年5月12日 (金)

話題三井倉庫ホールディングスは12日、前3月期決算を発表した。過去に家電メーカーから買収した子会社ののれん代を中心に大幅な減損損失を計上し、最終損益は234億円の赤字となった。これを受け、田村和男会長と藤岡圭社長が退任し、経営責任を明確化する。中谷幸裕・代表取締役常務(社長補佐)も取締役ではない顧問に退く。

■本業は復調、丸協運輸グループの業績寄与
前3月期決算は、韓進海運の破綻に伴い、コンテナターミナルの取り扱いが減少する局面もあったものの、ほかの既存事業が全般的に堅調に推移し、新たに同社グループ入りした丸協運輸グループの業績も寄与したことで、売上高が5.9%の増収、営業利益は77.1%の増益と、本業は復調したといえる。

▽2017年3月期

期初からの累計実績(百万円)
前年同期比
対売上高利益率
売上高
225,5035.9%
営業利益
5,82377.1%2.6%
経常利益
3,668301.9%1.6%
最終利益
-23,427----

同社は3月27日に6月の株主総会以降の経営体制として、田村会長や藤岡社長らの続投を内定していたが、1か月後の4月28日になって「過去に買収した子会社」ののれんの減損損失209億円、保有する物流施設の減損損失46億円を計上する、と発表。5月12日には、1か月半前に内定したトップ人事を決算発表に合わせて急きょ変更し、会長・社長が事実上の“引責辞任”に追い込まれることになった。

■旧三洋電機ロジ・旧ソニーサプライチェーンで減損209億円
のれんの減損の対象となった子会社は、ノンアセット型3PL事業を担う三井倉庫ロジスティクス(旧三洋電機ロジスティクス)と、メーカー物流を手がける三井倉庫サプライチェーンソリューション(旧ソニーサプライチェーンソリューション)。

三井倉庫HDの関係者によると、これらの子会社ののれんを減損処理する必要性は昨年から認識していたが、問題は「いつ」「どのように」処理するかということだった。少なくとも3月27日の段階では、社外取締役を含めて11人の取締役と社外監査役1人が全員「続投」する方針だったが、その1か月後の4月28日に255億円の減損損失を、5月12日には代表取締役の異動と取締役候補者の「再決定」、役員報酬の減額を発表する。

わずか1か月半の間に何があったのか。

■減損処理の必要性認識も計上時期判断に甘さ
のれんの減損処理はいわば買収した企業の「ブランド価値」を見直すもので、直接的には帳簿上で損失を計上するものの、直ちにキャッシュフローが影響を受けるわけではない。だからこそ3月に経営陣の続投方針を発表していたわけだが、ここに同社の“誤算”があった。

東芝が米国で買収したウェスティングハウスの巨額ののれん減損処理を行い、その後の経営危機につながった「東芝ショック」以降、国内では監査法人が決算に付ける監査意見を表明する際の姿勢を厳格化しているともいわれる。つまり、三井倉庫HDの現経営陣は子会社のブランド価値のき損に対する判断が、監査法人より「甘かった」という側面が、今回の急な「引責辞任」につながる要因となったことも否定できない。

■3代表体制へ移行、財務基盤再建に注力
新体制では、新社長(代表取締役社長兼CEO)には、三井住友銀行出身で昨年6月から三井倉庫HDの常務取締役(企画・調査・事業開発管掌)に就いている古賀博文氏が昇格するとともに、代表権を持つ取締役も1人増やし、3人体制にする。

古賀氏とともに代表取締役に就くのは、三井倉庫のオペレーション部門長などを歴任した小田中修氏と、古賀氏と同じ三井住友銀出身で財務部門のトップ(常務取締役財務経理管掌兼最高財務責任者)を務める中山信夫氏の2人。

代表者のうち2人が同じ銀行出身者となる新体制の顔ぶれは、同社がトップ交代の理由として説明する「抜本的な事業収益力の強化と財務基盤の再建」に注力する方針を色濃く反映したものだと言える。

目下、同社は今年度からスタートさせる新たな中期経営計画の策定に取り組んでいるが、当面は「M&Aや物流施設などの大型投資には慎重にならざるをえない」(三井倉庫HD)状態が続くものとみられる。