[1月21日]Report.5「物流拠点の感染対策で殺菌空気清浄機の導入進む」を追加公開
 
ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「不慣れ」な作業者増加、背景に人手不足
桶田一夫氏(三井住友海上火災保険株式会社海損部リスクコンサルティングチーム)

倉庫の事故防止研修は「ゲーム感覚で」、リスクハンター開発者

2018年4月22日 (日)

(桶田一夫氏:三井住友海上火災保険株式会社 海損部 リスクコンサルティングチーム)

話題三井住友海上火災保険が2017年末にリリースした「リスクハンター」。損保会社が実施する事故防止・削減対策としてゲーム方式を採り入れたのは、このアプリが初の試みだという。

これまで2回にわたってアプリの内容やその活用方法を探ってきたが、開発した同社の狙いは何か、そもそもなぜゲーム方式なのか、今後はどんな展開を考えているのか。開発の中心となった同社海損部リスクコンサルティングチーム長の桶田一夫氏の話を聞くことができた。

桶田氏によると、最近は人手不足を背景として倉庫内で働く不慣れな労働者が増加し、外国人労働者も目立つようになってきたが、これらの労働者に効率よく、意味のある事故防止研修を行うことが、物流企業の中で重要な課題として浮上してきているのだという。

■ 事故削減の答えは現場にある

――2017年末に損保会社として初めてゲーム感覚で取り組めるアプリ「リスクハンター」を公開しましたね。物流会社向けの事故防止メニューに、ゲームアプリ方式を取り入れようとなった背景は。

桶田氏:保険金を支払う際、事故の現場に行って実際に事故を見るわけですが、当社としても顧客にとっても「本来はない方がいい業務」だといえます。なくすためには何がいいのかということを考えたとき、答えは「現場」にあるということがわかるわけです。

例えば「こういう場合は数パターンの事故の発生率が高い」という情報を把握できるようになります。これを分析し、わかりやすく顧客に伝えるように心がけています。

一方で、運送会社や倉庫会社に行ってこういう取り組みを実施しようとしても、ワーキングタイム中やお昼の休憩に時間を取ってもらうというのはなかなか難しいのが実情です。いざ開催しても大抵、数人はそこで寝てしまう。セミナーの中身が退屈になりがちだということだけでなく、肉体労働をしながら一か所に集まり、勉強会に参加しているわけで、眠くなってしまうというのは仕方のない面もあります。

事故は従業員が安全を理解しない限り、なかなか減るものではありません。そこで「顧客やその従業員が取り組みやすいようにできないか」「彼らが受け入れやすいのはどういうものか」と考え、例えばゲーム形式はどうかということになったのです。

保険会社目線ではなく使う側目線、何故聞いてもらえないのかではなく、彼らが使いやすい方法は何かということを徹底して考え「どうせやるなら面白おかしく作ってみたらいいのでは」という思いから、リスクハンターという企画の着想を得ました。楽しみながら触ってもらい、同時に事故防止につながるならこれはいいと考えたわけです。

事故防止の必要性は保険会社だけでなく顧客側もわかっていることですが、それを「どう現場に伝えるのか」が最も悩ましかった。そこで勉強会から視点を変えてみよう、ということでゲーム方式に着想したのが一つのきっかけになります。

■ 研修に「手軽さ」必要とスマホアプリ化決断

――最初から現在の形のリスクハンターを想定していたということですか。

桶田氏:当初はウェアラブルカメラを使用したリスクコンサルティングを考えていました。「現場で使うためにはどうすればいいのか」と考えた結果、例えば会議室でこのモニターに事故現場もすべて映り、テレビ中継のような役割を果たすというものを作れないかと。リアルタイムに事故現場の情報がすべて把握できるようになるなら、その意味は小さくないと思ったのです。

このように、目の前にあった機器を見て現場で使えないかと思って使いはじめたわけですが、この頃(2016年頃)から他社もこうした機器を活用するようになってきました。そこで、アプリ開発会社に「モニターに映っている映像を何か別の形で活用できないか」と相談。かねてから「ゲーム方式」でやりたいと考えていたため、これらをミックスさせようということになりました。

最初は事故現場の状況映像をタブレット機器に映すということから考えはじめ、VR(仮想現実)についても検討しましたが、まだVRゴーグルは個人に普及している訳ではないので、最終的にVRを採用するのは見合わせました。

■ 開発2か月、改善と解説書作成に9か月

――実際に開発に着手したのはいつですか。

桶田氏:17年1月頃ですね。360度カメラを用い、何パターンかの事故状況を用意したが、そのほかに実際に第三者調査機関のサーベイヤーにも協力してもらい「この倉庫のどこに問題点があるか」という視点で監修を受け、アプリの内容を検討しました。解説書にもサーベイヤーからの意見を収録してあります。

――どの部分に時間をかけたんですか。

桶田氏:アプリのセキュリティ面や背景として使う倉庫の映像に問題はないか、問題の数は適正か、など。あとは接続の安定性を高めるため、サーバーに大きな負荷をかけても大丈夫かなどの検証も、社外の専門機関を活用して行いました。

さらに、社内でできるだけ多くの人に触ってもらい、意見を出してもらって改善したり、解説書の作成にも時間がかかりました。というのも、従業員がリスクハンターをプレイした後、その結果を踏まえてその上司・管理者が適切にレクチャーできるよう、解説書のわかりやすさや適切な内容となっているか、などにも配慮しました。保険会社が事故防止にゲーム方式のアプリを導入する初めての試みだったという面でも苦労はありましたが、運送会社、倉庫会社はぜひ取り入れてほしいと思います。

――苦労して開発したものができ上がったときの感想は。

桶田氏:当初、想定していたものよりもシンプルな形になりました。初めての取り組みでしたし、予算の制約もありました。社内で理解してもらうのも容易ではなく、当初の企画や思いのすべてを反映させることができたわけではありませんが、ここでの反響を見ながら、よりレベルアップした新バージョンも企画していきたいと考えています。

■ ゲーム感覚で事故防止の有効性実感

――現行版で終わりではないと。

桶田氏:最初の矢を放つ意味の大切さを考えた結果、現行版を公開するに至ったわけですが、やりきれなかったことの中に今後、盛り込むべきだと思う要素はあります。

――リスクハンターのアプリを公開してまだそれほどの時間は経っていませんが、顧客からの反応は。

桶田氏:子どもがスマートフォンアプリでゲームを楽しむ時代になって、それほど長い時間は経っていません。そういう中でビジネスの世界にゲーム方式のアプリを持ち込むというのは、なじまない可能性もありましたが、意外に受け入れられました。当社の顧客からも上々の声を頂戴しており、特に倉庫現場からは「研修の効率が上がった」という感想も寄せられています。

――リスクハンターの課題は。

桶田氏:現行版ではプレイヤーがプレイ中に驚くような仕掛けを十分に反映できませんでした。この難関を越えるとこういう課題が出てきて、それをクリアすると爽快感が得られる、プレイするたびに場面が切り替わる、部屋ごとにトラップが替わる――といった工夫を増やしていきたいですね。

ある日はフォークリフトの現場、ある日は冷凍倉庫、重量物倉庫など場面が切り替わることで、プレイヤーの危機感知能力が幅広く定着していくことを目指したい。難易度もプレイヤーによって変わる方がいいと考えています。

今回作ってみて、ゲーム感覚で事故防止に取り組むということの有効性や奥の深さを感じることができました。今後は今回感じた課題への対策をより多く反映させ、飽きのこない工夫に配慮したいですね。

■ 不慣れな労働者の増加で倉庫内事故誘発も

――倉庫内の事故がそれほど多いということなのでしょうか。

桶田氏:「倉庫に入ってからの油断」が背景となるケースも多く、さらに最近は人手不足の深刻化を背景として「不慣れな労働者」の増加が倉庫内の事故を誘発しているのが実情です。

ベテランだけで構成されている倉庫ならまだいいですが、多くはそうではない。主にそういう倉庫で事故を減らすために使ってもらっていると聞いています。

――リスクハンターを導入した物流事業者はどのような効果を期待できるのでしょうか。

桶田氏:プレイした作業者間でコミュニケーションが増え、上司・管理者とのつながりが強まっていくことになるでしょう。例えば、ある作業者がある場面で物を落としやすいということがわかった場合や、何度プレイしても100点に到達しない理由は何かということを上司と作業者がともに考える、といったコミュニケーションが増えていくはずです。

これによってチームワークができ上がり、互いに補い合うことで、最終的に事故を減らすことができるでしょう。まさにリスクハンターではそういう効果を狙って開発しました。

<インタビューを終えて>

桶田氏の熱いトークに圧倒されながら、ゲームアプリ方式を採用したのが安易な思いからではないこと、ゲームとしての楽しさというよりも、プレイした人と同僚や上司のコミュニケーション密度が増す可能性が高いツールであること、現行版で終わりではなく、よりレベルアップする次作の可能性があること――などがわかった。

単にアプリを手にとって試してみることもできるが、せっかくなら開発者の意図を知った上で、本体以上に時間をかけて作り込まれた解説書をフル活用し、事業所を挙げて取り組む事故防止活動に発展させたほうが、より大きな効果を期待できるだろう。

参考リンク「リスクハンター」(三井住友海上火災保険株式会社)
http://www.ms-ins.com/marine_navi/riskhunter/

バックナンバー
検証、倉庫内危険発見アプリは事故防止の最適解か
https://www.logi-today.com/314050
(2018年4月9日公開)

リスクハンター ユーザーインタビュー
アプリ形式の実践ツールで事故防止「次の段階」へ、大手物流S
https://www.logi-today.com/314566
(2018年4月16日公開)