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-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め

2020年4月15日 (水)

話題国土交通省の標準運賃案について諮問を受けた運輸審議会が14日、「適当である」として実質的なゴーサインを出したことを受け、LogisticsToday編集パートナーの永田利紀氏がその狙いや意義を解説するとともに、実効性を確保するためにはどうすればいいのかを提言する。

標準運賃案にゴーサイン、運輸審議会が答申

運輸審議会は14日、国土交通大臣から2月26日付で受けていた標準運賃の告示に関する諮問について、国土交通省が示した運賃案は「能率的な経営の下における適正な原価及び適正な利潤を基準としたものである」として、大臣が標準運賃として定めることは「適当である」との答申を行った。(2020年4月14日掲載)

記事全文のURL▶https://www.logi-today.com/374113

緊急寄稿「標準化のクサビ」

書き手:永田利紀(LogisticsToday外部編集パートナー)

先日、国土交通大臣が運輸審議会に諮問した標準運賃の告示制度は一定の結論に至り、実施に向けての大きな前進を得る結果となった。公的な指針や標準指数が策定されることは大いに好ましいのだが、懸念材料も併存する。せっかくの画期的決定なので、さらに充実した内容への発展を願う次第だ。

■すばらしい進展

過去の拙稿でも何度か記しているが、最近の国交省は非常に能動的で実務ベースにそった指針や基準を連発している。今回の標準運賃にしても、事の当初は進捗を案じたが、それも杞憂に終わった。他の事項についても同様に諮問が出される可能性と具体的な答申の前例を作った功績は大きい。国を支える基幹産業であり国民生活のインフラであるという物流の実務にまで、具体的な踏み込みを行った姿勢には評価と称賛をおくるべきだ。

■誰のための標準なのか

標準とされる運賃の中身だが、誰もが割高感を抱いたはずだ。言い換えれば業界向けの「安全値」を採ったということになる。「これなら必ず利益が出るだろう」という単価が居並んでいるのだが、荷主側の反応は見聞きするまでもない。とある大手メーカーの物流担当者は「それでなくても割高感だらけの運賃値上げが続いてきたのに、さらに…」と言葉を継がなかった。もちろん誰よりも運輸をはじめとする業界関係者が告示された標準運賃の与えるインパクトを承知している。そしてこれが起点となって、今後の業界動向がどう動くのかを息を殺してうかがっている企業がほとんどだろう。

■御上のお達し

決定した内容はそれなりの重みと威厳をもって尊重されるはずだが、いわゆる現場での運用時にどう使われるかは今後の課題として残る。

ひとつは「形骸化」
さらには「定価化」

この二語が往く道に影を落としかねない。その影の主は「相場」という相対や密室という状況が生み出す「結果」の集約だ。標準単価の積算により標準価格が決定する。しかし語尾に「出精値引」や見積に一行もしくは数行の大項目とそれに続く「一式」表示があれば、標準は建値に名を変える。

定価や表示価格から電卓たたいて「これでいかがですか?」とやる対面接客の専門店や量販店の光景が重なって見えてくる。せっかくの公的英断にイチャモンつけたり水を差すつもりは毛頭ない。万全化するためにダメ押しするべき点を提案したいだけだ。

■視えざる手

完璧な制度など皆無だとはいえ、可能性の追求と瑕疵(かし)の排除は永続的事項だろう。したがって、いかなる案であっても穴や脆弱さはゼロにできないのだが、複数の要素を掛け合わせることで、相当の改善や強化が可能となるはずだ。

今回の標準単価に加えて、標準項目とその表記統一を盛り込めば、なおよいのではないだろうか。

つまり「見積書」「請求書」などの書類面が揃うという様相になる。単価や金額の前にある「内容」「項目」などを示す各行の表記を統一することで、作成者が異なっても全く同じ表記項目で比較ができる。どこがどう高かったり安かったりするのかが一目瞭然となる。もはやこれ以上は蛇足だろうが、あとは勝手にガラス張りの相場ができあがってゆく。書式や表記を統一することは視えざる手が動くような作用を市場に及ぼすのではないかと考えている。蛇足ついでだが、運輸以外の庫内作業や資材・マテハンについても同様の理屈で整備が進めば、物流規格の標準化が完成するはずだ。

■公正と公平

二重価格、出精値引、特別価格、協賛値引、請求歩引……必要悪や潤滑油としての効用や慣習的同調を唱える業界や企業は少なくない。民間の取引において、すべての結果は相対で生み出される。独禁法に抵触しない限りは、どのような価格で折り合おうとも、双方納得の上なら他者が立ち入る必要はない。

新規獲得のために相当の無理や特段の値引を腰だめにして見積作成する心情や実情は、一般的な企業人なら誰でも理解できるところだろう。ただし、それはあくまで「同じ土俵」で相撲を取るならという条件付きであって、業界や行政が監視すべき点のひとつかもしれない。公正な取引は標準価格の産物ではなく、公平な条件設定と市場参加者による順守の徹底によって維持できる。

では物流業界でしのぎを削る者にとっての「公平」とは何か?それは「同条件下での比較検討の末に意思決定される状態」を指すのではないだろうか。同表記の同項目による価格設定とその詳らかな内容説明の集合体が見積提案として荷主のテーブル上に並べられ、精密な比較検討の末に採用企業が決定される。それに異を唱えるのは誰なのだろうか?もしそんな者が存在するのなら、市場から即刻退場すべきだ。荷主が求めている商談相手は、真正面から本気で向き合う者だけだ。

■欠片のような自由

プロたちの異口同音の主旨はいつも同じだ。「制限と規制だらけの条件はあたりまえだが、その中に欠片のような自由裁量を見出して自己表現することが仕事だと思っている」今回の標準化や規格化の歩みは、物流業界のプロフェッショナル達にとって追い風となるはずと信じてやまない。

ただ視えない・目立たない要所に打ち込まれる楔(くさび)に似て、表面的には大きな存在感を感じさせないだろう。まっとうな物流会社がまっとうな荷主にめぐり会うための大きな後押し。物流規格の標準化は、真面目と本気が報われる業界体質の下地になるはずだ。

■永田利紀氏やLogisticsToday編集部に対するご意見、ご感想をお待ちしています。下記メールアドレスまでご連絡ください。

LogisticsToday編集部
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