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製造業撤退から4年、異例の業態転換果たす

新井鉄工所が物流施設開発に進出、東京湾岸に1万坪

2020年7月15日 (水)

話題2021年10月の完成を目指し、東京湾岸・浦安エリアに延床面積1万500坪のマルチテナント対応物流施設を開発する計画が浮上した。建築主は、異業種から物流施設事業への新規参入となる旧・新井鉄工所(東京都墨田区)。同社の新井嘉喜雄社長と新井太郎専務が14日、墨田区江東橋の本社ビルでLogisticsTodayの独占取材に応じ、異例の業態転換を図って物流施設事業へ参入する経緯や、どのような事業戦略を描いているかについて語った。(LogisticsToday編集部)

アライプロバンス浦安市港物流センター(仮称)の完成予想図

同社は1903(明治36)年創業、業歴117年の歴史ある金属加工メーカーで、特に高品質な石油掘削機器の供給元としてその名を世界に知られる存在だったが、2016年に製造業から撤退。同社にとっては完全な異業種である物流施設事業へ挑戦する。

浦安物流施設プロジェクトの開発計画を皮切りに、新たなチャレンジが本格的に始まる7月15日を目前に控えた新井社長と新井専務は、8月にも着工することを宣言。プロジェクトの開始に合わせて社名を「アライプロバンス」へ変更すると同時に、「物流施設事業を柱とする総合不動産企業への進化を目指して、『第二創業』のスタートを切る」と表明した。

新井嘉喜雄社長(右)と新井太郎専務(左)

石油掘削機器メーカーが物流施設事業への転身を決めた理由

同社が物流施設事業に参入することを決めたのは、物流拠点として国内随一ともいえる東京都心部にほど近いエリアに、2か所の広大な工場跡地を保有していたことが大きい。

折しも国内では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛ムードのなかで、インターネット通販をはじめとしたECの利用が急速に拡大しており、国内最大の消費地である東京を配送エリアに収める物流拠点の需要は、今後さらに高まる流れにある。

業態転換を決めた理由について説明する新井専務

「東京都心に近いこの立地に保有している広大な土地を、このタイミングで活用できるのは運命的なことだと思った」(新井専務)という同社が、物流施設事業へ参入する意思を固めたのは3年前だったが、当時からすでにECは拡大傾向にあった。物流施設需要の裏付けを重ねていった同社経営陣からしてみれば、満を持しての参入表明だといえる。

最初の開発案件となる浦安の開発用地は、東京23区内の主要エリアに30分程度で到達できる点で、配送拠点としての好条件を備え、近年では希少となった国際物流拠点と都心向け配送拠点に適した強みを持つ。

さらに都心部への距離が近い東京・東葛西では、かつて主力工場だった旧江戸川工場の跡地がおよそ1万7000坪あり、より規模の大きな物流施設の開発も視野に入れて、具体的な検討を進めるという。

技術だけでは勝てない、物流こそ社会貢献

今後の動向が注目されるアライプロバンスだが、大胆な業態転換のきっかけとなった製造業からの撤退について、新井社長は「苦渋の決断だった」と振り返る。ピーク時の70-80年代には年商200億円を売り上げた同社が、工場閉鎖を余儀なくされた経緯はどのようなものだったのか。

同社の創業は1903年。太平洋戦争の終戦までは主に化学機械と水圧機を製造し、戦後は多様な産業用機械の製造を手がけた。53年から石油掘削用機器の製造を開始すると、高い技術力を背景に世界でもトップレベルの出荷量を達成。

浦安工場の構内のようす(当時)

大手鉄鋼メーカーへの納入分とは別に、独自の「アライ」ブランドでも取引を広げ、社員数は最大400人まで増加した。同社の技術力の高さは、日本が世界に誇る海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」のドリルパイプに同社製品が使われていることからもわかる。

しかし、石油資源の掘削技術が向上し、新興国でも一定の品質で同製品を製造できるようになると、新興国に比べて製造・輸送コストが高い日本製品のニーズは徐々に低下していった。

「技術だけでは勝てない。会社に体力のあるうちに決めたい」(新井社長)

新井社長

事業環境の変化を敏感に感じ取った新井社長は2016年、従兄弟(いとこ)にあたる新井専務と相談し、石油掘削機器製造事業からの撤退を決断した。

特化した石油掘削機器の製造ノウハウにしがみついても展望は開けず、「同じ製造業への転換は難しい」と考えた2人の経営者は、工場跡地をアドバンテージとして生かそうと判断。そうして経営の継続を真剣に考え、さまざまな事業の研究と同時に数多くの展示会イベントにも足を運んだ中に、国際物流総合展があった。

「商流と違って物流は大きな施設が必要。ラストワンマイルの宅配領域で物流事業者の競争は激しさを増しており、浦安の広大な土地を生かせる。物流事業こそが社会貢献だ」と考え、物流業界に注目した新井専務を中心に、物流施設事業への参入へと舵を切った。

アライプロバンスとして第二創業へ

物流施設事業への進出を発表する新井社長(中)、新井専務(左)、田草川直樹取締役(右)

まったくの異業種である物流施設開発事業へ業態転換することを決めた同社は、製造業からの決別を明確に示すため、社名やロゴマークといったコーポレートブランドを一新。「世の中に役立ちたい。アライの灯を消さずに事業を続けたい」(新井専務)という想いのもと、新井鉄工所はアライプロバンスの名前で第二創業へと踏み出す。

新社名アライプロバンスは「資産」の意味で不動産業で使われることの多い「プロパティ」と、前進を意味する「アドバンス」を組み合わせた同社の造語で、新井専務は「不動産業でアドバンテージを獲得し、湾岸・城東地域ナンバーワンを目指すという思いを込めた」と説明する。そのスタートが浦安の物流施設だ。

アライプロバンスのロゴマーク

ロゴマークは力強さや安定感を意識したデザインを採り入れ、情熱の赤、情熱が燃え盛る炎の黄色を意識して、コーポレートカラーでもある赤をメインに作成した。

新社名やロゴの由来を熱く語る新井社長と新井専務だが、性格は対照的だ。

新井嘉喜雄社長は52年10月生まれの67歳。ゴルフ、家庭菜園、歌舞伎鑑賞と趣味は多彩だが、新型コロナウイルスの感染予防のため、最近は仕事の外出を除き「家にこもりっぱなし」とのこと。一方の新井太郎専務は73年3月生まれの47歳。「物事に一生懸命取り組むのが信条」で趣味は筋トレと自転車。仕事が忙しくともスポーツクラブに週3回通うストイックな面があり、記者には「信条というより性格かもしれない」とも感じられた。

浦安プロジェクト、完成後は最大4社が利用可能

8月の着工を予定している浦安物流倉庫は鉄骨造・4階建て、延床面積1万500坪で設計されている。建物はボックス型倉庫が周辺地域の主流であるなか、1階のほか、スロープを利用して2階にもバースを備える機能性の高い物流倉庫とする計画で、最大4テナントが入居できるマルチテナント型。

浦安市港物流センター(仮称)の外観イメージ

40フィートの海上コンテナトレーラー(ハイキューブ)の接車が可能なレイアウトで、24時間稼働できる。建物のセールスポイントは汎用性の高さと柔軟さ。屋上にはソーラーパネルを敷設し、環境性能を重視するテナントにわかりやすく伝えるため「CASBEE」(キャスビー、建築環境総合性能評価システム)のAランク評価も取得する見通しだ。

首都高速道路湾岸線の出入口まで3キロと近く、地域人口の多さから雇用を確保しやすいのも利点だ。働きやすさをサポートするため、同社の負担で建物前にあるバス停を敷地内バス待合所に変更することも計画しており、新井専務は「ホスピタリティーを大事にしたい」と話す。

新型コロナウイルスの流行はまだ終わりが見える状況ではなく、物流業界では今後もEC需要がけん引する形で、東京都心部を配送圏に収める物流拠点の必要性がさらに増していく可能性が高い。

製造業から総合不動産業に転身を果たしたアライプロバンスにとっては、新規参入第1弾となる浦安プロジェクトの開発をスタートさせる上で、事業環境に悲観すべき要素は見当たらない。浦安の後には江戸川工場跡地の活用も検討される見通しで、今後の同社がどのような軌跡を描いていくのか、注目していきたい。