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論説/“FBAのYahoo版”とその奥にあるもの

2021年3月11日 (木)

話題10年以上前から中小の物流事業者の間では「ヤマト運輸が営業倉庫業務に進出したら、相当な打撃がある」とささやかれてきたが、ついに本腰を入れての事業推進となりそうだ。昨年来からの両社提携スキームを見聞きした誰もが思い浮かべるのは「アマゾンのFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)に対抗するワンストップサービス」という中身についての比較だろう。(企画編集委員・永田利紀)

アマゾン、ヤマトとヤフー、4月から全国一律の配送料金提供(21年3月10日掲載)
https://www.logi-today.com/424169

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受注管理から配送完了と返品やクレームなどのカスタマーサービスまでを丸ごと提供するマート出店者向けサービスは、国内ではアマゾンの独壇場だった。これにヤフーが参入する。しかもヤマト運輸が「協力」ではなく「協業」として並び立つようにサービスの根幹を支えるという。

一見すれば、ヤフーがヤマトに物流業務とカスタマーサービスをOEM(他社ブランド製品製造)、もしくはPB(プライベートブランド)化するように思い込む向きも少なくないかもしれないが、実態は主従の存在しない並立する関係ではないかと考えている。

読者もご周知の通り、アマゾンジャパンの物流パートナーとしてのヤマト運輸の立場は圧倒的だ。わが国におけるアマゾンの物流サービスの評点は、ヤマトの現場力が基盤となっていることなど説明不要だと思うが、その相方が追随する他社とも蜜月関係になって支障ないのだろうか。

――というのが、素直な第三者的視点だと思える。何とかの勘ぐりと嘲笑を買いそうだが、聞いた最初はそう感じた。しかし、よくよく考えれば軸足の置き場所が各社違うのだという結論の可能性が否めなくなってくる。

つまり、先行するアマゾンに追従するヤフーは、物流とその前後のカスタマーサービスでは誰とも争わず、消費者が無意識のままに買い物を終える、「購入後の違和感やストレスゼロ」を満点とするゼロマーケティングに舵を切っていると思えて仕方ない。自社マートの本分を明確に意思表示したとも評せる今回の提携は、ヤフーとアマゾンという強い売手の競合や並立に焦点を合わせるだけでは済まないのではないだろうか。

■「現場」を支配するヤマトの強み

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ヤマトは誰にも従わず、そして誰とでも握手する――腰は低いが頭は高い、という彼らの本質のまま、今後は個配を起点する物流サービスの追求を加速させる。個配事業者の最大の強みは「現場」を熟知し、支配していることだ。

特にEC市場では、購入者たる消費者が唯一出会う可能性があるのが配達事業者であり、非対面であっても、一連の購買行動の中ではもっとも具体的な現実感を抱かせる。つまり個配サービスはEC事業者にとって、顧客管理と囲い込みの最終ランナーとなる。圧倒的シェアと品質管理で「最終ランナー市場」を席巻し続けるヤマト運輸の独立独歩は売手の競合や淘汰とは別次元の場所で、着々と拡充し続けているように思える。

世界の両巨頭であるアマゾンやアリババとて、物流部分では秀逸なビジネスパートナーである他社との協業を自社機能の補完として取り込んでいることが、ヤフーでも採用されただけだ。さらにはアリババジャパンはヤフーの血が濃いのだから、ヤフーショッピング運営の事業体が物流ノウハウの踏襲にアマゾンを模倣する必要などもないはずだ。ヤマトのもつ機能と付加サービスの拡張性を、ヤフーなりの思惑で利用するだけ、という簡潔な利害関係が過不足ない理解として合っているのではないか。

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EC×個配という組合せにおいて、掛け算の左右に置かれる各社の違いによって、導かれる解は異なる。とはいえ物流関与部分ではなく、その前後で差別化や競合が激化することも自明だと断言できる。なぜなら物流機能で過剰に競えば、行く先には必ずコスト削減による品質低下と基幹機能の不安定化による購買行動の完結障害が起こるからだ。それは過去を振り返ればあきらかだし、市場参加者は二度と繰り返してはならない禁忌として自らを戒め続けているに違いない。

冒頭で記したとおり、今回のニュースにおそれおののく物流事業者は多いだろう。「WEB制作と仕入管理」以外の丸投げでEC事業ができる――というのは新興勢力や起業を望む人々には魅力となる。ECの恩恵を受けてきた倉庫会社は荷主企業からの問いにどう答えればいのだろう。

「貴社への支払額よりヤフーショッピングのフルフィルメントサービスの方がはるかに安くて内容も充実しています」

もし自身がそれを問われる側なら、その返しにはどんな言葉を選ぶのか。ずいぶん前から何度となく思い考えてきたが、荷主各社を納得させるに十分な内容には至っていない。消費者にとっては有益であること間違いないゆえに、その先にある物流事業者の苦境を想うと複雑で黙してしまう。このハナシは継続して検証と考察を行い、適宜掲載していくつもりだ。(企画編集委員・永田利紀)