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アライの新たな挑戦、東京23区最大級の物流施設

2021年5月27日 (木)

話題東京都江戸川区で、東京23区内最大級となる物流センターの開発計画が進められている。南北2棟の総床面積が12万平方メートル(3万6000坪)に及ぶという、この物流施設群を仕掛けるのが、アライプロバンス(東京都墨田区)である。

2020年、アライプロバンスは117年続いた金属加工業(旧:新井鉄工所)の歴史に幕を下ろし、第二創業として総合不動産業へ転身した。同社が手掛ける賃貸物流施設開発の第一弾は、浦安鉄鋼団地(千葉県浦安市)の旧鉄工所跡地に建設中の「アライプロバンス浦安」(2021年10月完成)。新たに江戸川区東葛西で開発する12万平方メートルの賃貸物流施設群「アライプロバンス東葛西」(仮称)は、旧鉄工所跡地を物流センターへと生まれ変わらせる、第二弾のプロジェクトだ。

同社は東葛西で開発する物流センターについて、どんなビジョンを持っているのか。新井嘉喜雄社長、新井太郎専務、田草川直樹取締役、青柳慶賢営業部長に意気込みを聞くと、そこには物流業界が直面する「ラストワンマイル問題に対する危機意識」と、「社会貢献に対する強い意志」があった。(坂田良平)

東京23区内最大級の物流センターの誕生

東京23区内最大級の物流センターが計画されているのは、東京メトロ東西線葛西駅の南側、東葛西9丁目に位置する1万7000坪の土地で、葛西駅からは徒歩で20分強に位置する。路線バスが複数運行されており、葛西駅だけではなく、JR京葉線葛西臨海公園駅からのアクセスも可能だ。向かいには「アリオ葛西」や「島忠ホームズ」などの商業施設があり、背後には旧江戸川が流れる。

▲開発地の敷地図

また、首都高湾岸線葛西入り口から北東2キロの距離に位置し、環状七号線も近い。もともと物流センターや倉庫が集中する葛西地区である。交通利便性は抜群だ。

加えて、近隣には住宅地が多い。葛西地区の人口は25万5000人、世帯数は12万6000世帯(2019年3月時点)と、大型物流施設が雇用を確保するだけの十分なポテンシャルを持つ。郊外に建設された大型物流センターにおいては、竣工したものの労働力を確保できず、苦労しているという話も聞くが、「アライプロバンス東葛西」において、この心配は無用のものであろう。

同社はこの開発用地の南側に延床面積8万平方メートルの一期棟、北側に同4万平方メートルの二期棟(ともに仮称)を建設する方針で、一期棟は2022年春ごろに着工し、23年後半から24年初頭の完成を目指す。二期棟は一期棟が完成してから着工し、「アライプロバンス東葛西」全体が完成するのは、25年ごろになる見込みだ。

▲アライプロバンスの新井嘉喜雄社長

アライプロバンスの新井嘉喜雄社長は、「国内最大の消費地である東京23区内に位置するというのが、最大のアピールポイントです。ECビジネスの分野では、翌日配送はもちろん、当日配送に対するニーズも高まっています。消費地に近い東葛西物流センターは、翌日配送や当日配送を取り扱うEC配送拠点や、都内向けの店舗配送拠点として、うってつけでしょう」と期待を寄せる。

ラストワンマイル問題と地域社会に貢献

EC需要の高まりとともに高まるラストワンマイル配送の諸問題に対し、東葛西物流センターは課題の解決に貢献できる考えています。新井太郎専務

ECの取扱範囲は、拡大の一途を辿っている。例えば、アマゾンが生鮮食料品EC「アマゾンフレッシュ」の提供地域を拡大したり、新しいネットスーパーが次々誕生したりと、生鮮食料品のECは急速に拡大している。新型コロナウイルスの感染予防で外出を控える消費者のニーズも確かにあるだろう。だが、生鮮食料品、もしくは生活に密着した日用雑貨などに対するニーズは、共働き世帯や、身体の自由が効かなくなってきた年輩者、もしくは外出が困難な障がい者の生活を支えるインフラとしても、注目を集めてきた。

▲アライプロバンスの新井太郎専務

「ECの拡大に伴い、最終消費者に商品をお届けするための輸送手段の担い手不足や、再配達の削減といった課題が注目されています。宅配のニーズは年々拡大しており、それでなくとも人手不足に悩む運送会社では、対応するのが難しくなってきています。国内最大の消費地である、23区内に位置する東葛西物流センターは、ラストワンマイルの課題に対する、有効な解決手段のひとつとなるでしょう」(新井専務)

現状を考えれば、物流業界の人手不足が急激に改善することは考えにくい。少子高齢化に伴い、人口が減少し続ける日本において、人手不足は物流業界だけの課題ではないからだ。

ヤマト運輸や佐川急便などの宅配大手は、これまで数坪から数十坪程度の小規模配送拠点を住宅地内などに展開することで、配送先となる個人宅と物流拠点の物理的距離を縮め、ラストワンマイルにおける宅配の効率化を図ろうとしてきた。だが、小規模配送拠点を数多く設ければ、その分駐在する人の数も必要となるし、小規模配送拠点内では、マテハン機器などによる省力化、効率化も図りにくい。

そのため、最近ではラストワンマイル配送における最終起点のあり方を再検証する流れも出てきているが、新たなラストワンマイル配送の形を構築し、安定稼働させるには、まだまだ時間がかかるだろう。

▲手前側、川沿いの土地が開発予定地

アライプロバンスの東葛西物流センターは、大規模施設だからこそ可能な、物流センター内での流通加工や仕分けといった業務の効率化を実現しつつ、配送先と物流拠点の物理的距離を縮め、配送効率を上げる。加えて、同社は東葛西物流センターに冷凍冷蔵施設を備えることも視野に入れており、さまざまな商品の配送課題を解決できる可能性を持つのだ。

▲新井太郎専務

「もうひとつ、考えていきたいのが地域貢献です。当施設は、旧江戸川と商業施設に挟まれています。例えば、商業施設から旧江戸川河川敷をつなぐ回廊を、東葛西物流センター内に設けることができたら、地域住民の方々にも、憩いの場として喜んでもらえるのではないかと思っています」(新井太郎専務)

1939年(昭和14年)に東葛西に進出し、「江戸川工場」を営んできたアライプロバンスは、近隣との付き合いも深い。あくまで構想段階であるが、商業施設との連携に向けて関係者と情報交換を進めているという。住宅地に近接する物流施設は、時に住民との間に溝を生むこともある。だが、地域社会を大切にし、物流施設に地域住民の憩いの場を設けようというアライプロバンスの社会貢献意識は、きっと地域住民にも理解されることと思う。

東葛西物流センターに対する近隣住民の期待

先日、タクシーに乗ったら、興味深い噂を耳にしました。当社の開発予定地について、地元では「コストコができるらしいよ」と噂になっているのだとか。田草川直樹取締役

▲田草川直樹取締役

コストコは、「アメリカ生まれのメンバーシップ制ウェアハウス・クラブ」というセールスワードで知られる会員制の倉庫型店舗チェーンで、普通のスーパーマーケットとは、少し違う。テレビでもたびたび取り上げられ、解説本が多数出版されるなど、買い物をエンターテイメントとして楽しむ場であるといえよう。

1万7000坪もの広大な土地を見て、コストコを想像した地域住民の想像力は、ワクワクするような買い物の場を求める期待の現れなのかもしれない。

「開発予定地は、コストコではなく物流センターになるのですが、近隣住民の皆さまがワクワクするような買い物体験を提供するEC事業者が入居してくれると、近隣住民の皆さまと、EC事業者さま双方にとって、とてもハッピーな出会いになるのではないでしょうか」(田草川直樹取締役)

物流不動産ビジネスに挑む、アライプロバンスのこだわり

青柳慶賢営業部長は、アライプロバンスだからこそできる物流不動産ビジネスについて、このように考えている。

▲青柳慶賢営業部長

「あくまで一般論ではありますが、物流不動産ビジネスにおいては、物流センターや倉庫のことを、どうしても投資対象として捉えがちです。ホテルやデータセンターなどと並ぶ、利回りの良い投資対象として、箱(物流センターの建物のこと)を用意し、ファンドが運用、そして最終的に売却することで利益を得る――といった、不動産投資における定番のビジネススキームを考えてしまうわけです。

当社は、23区内にこれだけの規模の物流センターを開発しようとしているわけですから、投資対象として、いわばすげ替えが利く箱を作るのは、総合不動産業として第二創業したアライプロバンスの行うことではないと考えています。

当社の物流センターに入居される事業者、地域住民、そして当社の物流センターから出庫された商品を利用される消費者など、関わりを持つすべての皆さまにとって役に立つ物流センターとは、どういったものなのか。現在さまざまな構想を練っているところです。

冷凍冷蔵施設を備える構想に加え、東葛西物流センターでは特別高圧電力※をひく予定です。さまざまな入居者のニーズに応えられるよう、スペックの高い物流センターとすべく、準備を進めています。私たちは、物流の本質を忘れることなく、皆さまの生活に貢献することができる物流施設を創り上げたいと考えています」

※特別高圧電力
工場、商業施設、オフィスビルなどの中でも、特に消費する電力量が大きい施設に対し、特別に設けられる電力供給制度のこと。冷凍冷蔵設備はもちろん、ロボットや自動仕分け装置などを備えた最新の物流センターでは、電力を大量に必要とするため、特別高圧電力を必要とする場合がある。

以下は、今回取材を行った筆者の私見であることをお断りしておく。23区内の、しかも住宅地、商業地と隣接する立地に、この規模の物流施設が誕生することは、もはや難しいかもしれない。それくらい、アライプロバンスが計画している東葛西物流センターはインパクトのあるものだ。

鼻が利く荷主、特にEC事業者にとっては、これほど好条件の立地は喉から手が出るほど欲しいだろうし、テナント募集を始めれば、争奪戦になる可能性すらある。

しかし、アライプロバンスは立地の良さにあぐらをかくことなく、地域住民、地域社会への思いも忘れない。物流業界が抱えるさまざまな課題を念頭においた上で、社会貢献を忘れず、高スペックなマルチテナント型物流施設の提供を目指す。

この着眼点は、新井鉄工所として100年の長きにわたり、技術と信頼を培ってきた精神が生み出すものなのであろう。果たして、アライプロバンスは東葛西の地にどのような物流センターを生み出すのであろうか。続報を楽しみに待ちたい。

「アライプロバンス東葛西」(仮称)の概要
所在地:東京都江戸川区東葛西9−23−1
敷地面積:5万7000平方メートル
用途地域:工業地域
延床面積:(一期棟)8万平方メートル、(二期棟)4万平方メートル
完成予定:(一期棟)2023年後半〜24年初頭、(二期棟)25年

▲第一弾物件「アライプロバンス浦安」の上棟式で、第二弾の意気込みを語った新井嘉喜雄社長(左)と新井太郎専務(右)