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「東京ホロウアウト」、物流人の自負を呼び起こす

2021年6月28日 (月)

(出所:東京創元社)

ロジスティクス新型コロナウイルス禍が収束しない中、オリンピックの開幕が迫る2021年7月の東京。突如発生した、配送トラックを狙った青酸ガステロ事件。鉄道爆破や高速道路火災が続発し、東京は陸の孤島に。交通が分断され、食料も底をつき、不安におびえる人々。その危機を救おうと立ち上がったのは、長距離トラックドライバーだった――。

6月11日に創元推理文庫から出版されたサスペンス文庫「東京ホロウアウト」が、物流業界で話題を集めている。社会を支える物流業の力を伝える傑作として、ある運送会社は「社員や業界関係者の必読書」として、まとめて購入。コロナ禍だけでなく、近年相次ぐ自然災害や、近い将来に予想される大地震など、物流崩壊危機の到来を予感させる物語に注目が集まる裏側には、こうした難局を打開するために奮闘する「物流人」の強い自負があるようだ。

1995年1月の阪神淡路大震災や、2011年3月の東日本大震災では、地震発生直後から物流という社会のインフラ維持とライフライン確保に努めた。その後も、地震や水害など多くの災害が列島を襲ったが、被災した住民や企業の生活再建に尽力したのが、物流だった。「東京ホロウアウト」は、有事の際に露呈する都市の抱える脆弱さや、政治家の対応のおそさなどに焦点が当たるが、その裏で鮮やかに浮き上がるのが、こうした物流従事者の自負だ。「陸の孤島と化した東京を助けたい」と奮闘する姿は、まさにこのパニック小説に差す一筋の光と言える。

この「東京ホロウアウト」、実は2020年3月に単行本が刊行された。テロによって引き起こされた物流崩壊の危機に立ち向かう人々を描くストーリーは、「コロナ禍の影響で、マスクやトイレットペーパー、食料の買い占めなどで混乱に陥っている人々と、それを解消するため奔走するドライバーやメーカーといった物流関係者の様子が、現実とシンクロしている」と話題となり、全国紙や週刊誌などで取り上げられ、「予言の書」として反響を呼んだ。

それから1年余り。未だ現実はコロナ禍で混沌とする社会で、「『困難に対し、己の仕事をまっとうすることで立ち向かう人々の物語』を届けることで、励みにしていただけたら」という思いから、緊急の文庫版刊行を決定。文庫化にあたり、舞台を2020年から2021年に変更し、コロナ禍の情勢を踏まえて大幅に改稿した。

「物流を担う我々こそが、社会を支えている」。物流現場は、コロナ禍が生み出した未曾有の「巣ごもり需要」で人手不足やIT化の遅れなど、課題が噴出している。そんな時だからこそ、物流人としての使命感を再認識する機会としてみては。