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TDBCが主導、車載機器10社超参加

傭車含む動態・運行管理が実現、年内にも商用化へ

2021年7月21日 (水)

話題多くのトラック運送会社が車両に設置・搭載しているGPS車載機器をひとつのプラットフォーム上で統合し、例えば傭車先(下請け運送会社)の車両の位置情報や作業状況、荷室の庫内温度などを、一元的に把握できる仕組みが年内にも商用サービスとして立ち上がる見通しとなった。

運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)のワーキンググループ(WG)が主導する形で、車載機器メーカー10社超を含む50社近くが参加し、これまで3年越しで実証実験を重ねてきた結果、実用化のめどが立った。サービス名は「車両動態管理プラットフォーム」で、輸送用車両の位置情報やステータスなどを、ステークホルダー全社で把握・共有。WGのリーダーは利用者の立場から参画する首都圏物流(東京都板橋区)が務め、運送・物流会社40社超、製造業などの荷主企業、車両情報を収集する動態管理システムベンダー、デジタコメーカーなどが名を連ねる。

実現すれば、配車計画や運行ルート指示など、運送業だけでなくサプライチェーンやデマンドチェーンの業務効率が大きく向上し、物流業界に多大なメリットを提供する一大プラットフォームとなる可能性がある。WGには矢崎エナジーシステム(東京都港区)やトランストロン(横浜市港北区)などの車載機器大手も参画しており、編集部の調査・推計によれば、国内の営業用トラック140万台のうち、実に7割から8割程度の動態管理が特別な手続きなく、機器の更新をするだけで利用できるようになる見込みだ。

▲実証実験の参加メンバー(出所:TDBC、以下同)

車載機器以外の部品や、動態管理システムについても多くの企業が参加する同プラットフォームの構築は、物流業界を挙げたこれまでにない動きで、求貨求車サービスなどとの連動なども期待できる。また、SNSなどで拡散する災害情報や事故情報なども収集・提供し、利用する運送会社が迅速に輸送ルートを変更できるようにするなど、日本の物流を維持する公共性の高いものとなる見通しだ。プラットフォームの早期の商用化実現と継続的な拡充に向けて、「幅広い企業の参画を求めている」というTDBCや、参画企業に詳細を聞いた。

プラットフォームの概要と問い合わせ・参加希望先
■概要 https://unyu.jp/warikan/ 
■質問・参加希望
https://unyu.jp/join/

■目的は「中小のDXとサプライチェーンの最適化」

車両動態管理プラットフォームは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」が示した、「協調領域における共通プラットフォームの構築」(割り勘効果)の考え方をもとに、TDBCが中立的な立場で公正に物流業界の課題を解決するための共通プラットフォームとして検討を始めた。

WGのリーダーを務める首都圏物流グループ代表の駒形友章氏は、目的は「中小事業者が多く、なかなか進まない運輸事業者のDXと、サプライチェーンの全体最適化」と語る。「顧客にとって最適な価値と経験を実現するためには、情報の取得・分析・活用を核に、既存の業界の壁を超える幅広い製品・サービスを整合させる必要がある。その結果として、物流会社の取引コストの低減や、未稼働資産の共有・活用による稼働率の向上を実現できるのでは」との考えだ。

加えて、TDBCに参画する各企業から上がっていたさまざまな声が、日本全国を走るトラックの情報を管理するためのプラットフォームの立ち上げを後押しした。自然災害が多い日本では、どこかで自然災害が発生すれば、たちまちトラック輸送に支障が生じ、それに伴い入出庫などの準備も二度手間になるなど、サプライチェーンに大きな影響が出る。また、日本の物流業界特有の事情により、欧米諸国のように政府が音頭を取って共通プラットフォームを作りにくい事情もある。

運送会社などからは物流の現場における大きな課題として、元請けの運送会社が下請けに委託し、複数の会社で運送する際のアナログな業務手順による「情報の断絶」の問題も指摘されていた。たとえ下請けのトラックが、デジタルタコメーターやGPS端末などを搭載していても、元請けと機器とは異なるメーカーであった場合、元請けは様々な車両情報を取得することはできない。

その場合、運行管理に関する連絡などは、引き続き電話やFAXといったアナログな手法で行うことになる。元請けのみで運送し、同一の機器とシステムで状況を自動的・一元的に把握できる状況とは大きな開きがあり、WGにおける議論の中でも荷主企業から、下請けと情報連携ができない場合の業務負担が大きいという意見が上がっていた。そこで、車載機器メーカー各社が個別に実現可能性を探っていた中、TDBCのWGがそのまとめ役を買って出た。

▲物流現場のアナログな連絡・報告業務

■競合する各社が「一つの目的」に向け協働

プラットフォームの構築に向けたWGの活動は年々拡大し、特に20年から21年にかけては大きく飛躍。参加企業数は25社から43社に、このうち実証実験の参加企業数は3社から30社へと拡大した。実証実験は、20年の時点ではネットワーク型のデジタコ、スマートフォンの位置情報アプリ、GPS機器で位置情報を収集していただけだったが、21年にはIP無線機やドライブレコーダー、IoTデバイス、他の動態管理プラットフォームなども含めて、各種車両のステータス情報をリアルタイムで収集。データの収集だけでなく、活用に向けた検討も開始した。

▲21年度の実証実験の概要

ただ、本来は競争関係にある各社が一つの目的の下に集うことは、差別化のための企業努力にとってはマイナスに働く可能性もある。その障壁との折り合いについて、矢崎エナジーシステムの松尾昌則氏(計装営業統括部事業企画部部長)は、「車両や物流に関するデータは各社の資産ではあるが、各社で利用するよりも、共有した方が物流業界の全体最適化が進む。ベンダーにとっては願ってもないPRの場で、ビジネスチャンスでは」と語る。また、「プラットフォームに参画することで、これまでは見えていなかった潜在的な課題なども見えてくるのでは」と期待する。

同じく車載機器メーカー大手のトランストロンの酒井健二氏(情報サービス部門統括部長)は、参加の目的について「運送会社の経営改善や業界の課題の解決に役に立ちたいと考える中で、各メーカーの機器の仕様が統一されていないことは課題と考えていた」と説明。同業他社との競合のあり方については、「目的は運送業界全体の利益や地位の向上で、競合が参加すること自体はデメリットではない。各社ともに役立つ製品を開発・販売しており、評価はその努力次第」と述べる。

各社が垣根を越えて構築したプラットフォームを活用する中で、運送会社は現在使用している車載機器から、他社の機器に乗り換えるケースも考えられるだろう。しかしそのことについては松尾氏もTDBCによる運営の中立性などを評価した上で、「そこはやはり競争。垣根を超えた後は、各社が企業努力で競争すべき」と語る。WGリーダーの駒形氏も「顧客が最適だと思うものを使ってほしい」と語る。

プラットフォームの概要と問い合わせ・参加希望先
■概要 https://unyu.jp/warikan/ 
■質問・参加希望
https://unyu.jp/join/

■将来はトラック以外も管理、活用法は拡大へ

TDBCによれば、すでにプラットフォームの商用利用を検討している運送会社や荷主企業は20社近くに上るが、今後は100社程度にまで拡大して、年内の提供開始を目指す考え。サービス名や利用料などの詳細については、参画する各企業とオープンに情報を共有しながら、慎重に検討を進めるという。なお、車両情報の公開については下請けの運送会社に配慮し、所定の契約手続きを経た車両についてのみ公開し、不必要な車両の情報については流さないこととする。

同プラットフォームについては、これまでの実証実験でベースとなるバックエンド領域の機能を確認できていることから、今後は荷主や元請企業のシステム、各種のTMSや WMS、求荷求車システムなどとも連携し、収集したデータを本格的に活用・提供するフェーズに入る。すでに車両ステータス通知機能や現場への到着通知機能など、新たな機能も随時追加しており、TDBCとしては、今後も引き続きさまざまなアイデアを出し合い、新たなビジネスモデルを作っていくために、同プラットフォームを使ってさまざまなIT企業が新たなサービスを開発することも歓迎するという。

WGは、将来的には動態管理の対象として、バイク便やドローン物流、自動配送ロボットなど「位置情報を取得可能なデバイスであれば何でも」視野に入れる考えだ。すでに、今日では貨客混載に使用されるケースも増えたバスを使った実証実験も実施済みとのことで、その活用法の拡大は今後、目が離せないものとなるだろう。

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