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Professional TALKS/山本夢人氏(日本M&Aセンター)

アートのヤマトHC連結化は必然、相互補完狙う

2021年8月3日 (火)

話題引っ越し業界のビックニュースが飛び込んできた。ヤマトホールディングスが業界2位のアートコーポレーションにヤマトホームコンビニエンスの株式51%を譲渡し、2022年1月にアートの連結子会社になることが決まったのである。これによって、決算月のずれはあるものの、業界1位のサカイ引越センターと同等の売上高となる。(日本M&Aセンター 山本夢人氏)

アート、ヤマト引越会社を来年1月に連結子会社化(21年8月2日公開)
https://www.logi-today.com/447673

引っ越し業界は大きな再編の中にある。今回のM&Aはまさに業界再編で起こるべくして起こった事例と言えよう。下記の図は様々な業界が通る業界再編の道筋、業界のライフサイクルを示している。上位10社のシェアが10%、50%、70%、90%で導入期から衰退期まで4つのフェーズがある。現在引っ越し業界では上位10社のシェアが50%超に達しており、ライフサイクルに当てはめると成熟期に当たる。

様々な業界が経験した成熟期は“上位10社の統合が始まる”という点である。今回の事例はまさにこれにあたり、業界再編が起こした必然的な統合と言えよう。少し話はそれるが先んじて再編が進んでいるドラッグストア業界も上位10社のシェアが70%超であり、成熟期から衰退期に差し掛かるフェーズである。業界5位のマツモトキヨシと業界7位のココカラファインのM&Aが2021年3月に話題を呼んだが、まさに上位10社での統合が活性化している証であろう。また、これにより業界順位としては一気に首位に躍り出たのである。

引っ越し業界に話を戻すと、業界1位のサカイ引越センターと2位のアートコーポレーションは長らく2強として、引っ越し業界をけん引している。1977年にアート、翌々年の1979年にサカイが設立された。お互い上場を果たしたものの、アートは2011年にMBOを実施、上場廃止した。そのため現在は、業界1位のサカイは上場、2位のアートは非上場という構図である。

そんな2社の経営戦略が、今回のM&Aや最近のM&Aにより見えてくる。

今回のアートのM&Aは、ノウハウの補完と、ネットワーク(シェア)の獲得が狙いとして見える。ヤマトホームコンビニエンスの得意とするのは、単身引っ越しと家具などの大型商品であった。アート側としては、このノウハウを獲得し、引っ越し業務の品質向上を目指したとともに、シェアの拡大に成功した。ヤマト側としても、引っ越し事業は3年連続の営業赤字であったため、集中と選択という意味では良いタイミングでの英断だったと考えられる。

一方サカイは、付加価値を上げるための付帯事業のM&Aを実施している。サカイは成長戦略として、「価値の訴求」をあげている。そのうちの一つとして、引っ越しに関わる付帯サービス(電気工事や水、家具など)を自社で賄っていこうというものがある。そのため、サカイグループとして、リユース事業、電気工事事業、クリーンサービス事業などを手掛けている。この部分をサカイはM&Aを実施して拡充している。リユース事業では、ジェイランド社、キッズドリーム社、クリーンサービス事業で、SDホールディングス社、直近2021年4月にはクリーン・システム社をM&Aで譲り受けている。電気工事事業に関しても、今後M&Aで拡大を図っていく形だ。

業界再編は“一度起こると留まることを知らず再編完了まで進む”のである。最終的には3社ないし4社に集約されるのが日本企業の常である。ビール業界、百貨店業界、医薬品卸業界などあらゆる業界がその再編を経験しており、そのダイナミックなポジションチェンジを起こしてきた。また、ドラッグストア業界のように業界順位を一気に変えるのがM&Aでもある。上位企業であっても油断はできず、積極的に再編に参画していかなければならない。これからの上位10社、またそれに追随する企業の動きに注目したい。

■山本夢人氏 略歴
日本M&Aセンター業界再編部部長 物流業界支援室室長。東京大学工学部卒。野村証券を経て、土木資材メーカーの副社長として経営に参画し、2016年に日本M&Aセンターに入社。経営者としての経験を基に中小企業オーナーの立場に立ったM&Aを提案。現在は物流業界担当の責任者としてM&Aを支援している。2020年4月より現職。

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