調査・データビジョナル・インキュベーション(東京都渋谷区)は7日、事業承継M&A(企業の合併・買収)プラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」にことし9月に公開されていた物流関連の譲渡案件数が昨年同月比1.8倍、2019年同月比で2.7倍だったと発表した。ビズリーチ・サクシードの累計譲り受け企業7900社のうち、物流関連のM&Aを希望する企業が664社と全体の8.4%を占め、昨年同月比1.3倍、2019年同月比1.7倍と、物流業界のM&Aニーズが高いことがうかがえる。
ビズリーチ・サクシードのことし1月から9月までの物流関連の成約件数は、前年同期比1.25倍、2019年同期比2.5倍に増加。物流関連の譲渡企業の動向を見ると、2024年4月よりトラックドライバーの時間外労働時間の上限が960時間に制限される「物流の2024年問題」への対応を懸念し、M&Aを検討する譲渡企業オーナーが多く見られる。「ドライバーの労務管理をしながら売上高・収益を出し続けられるだろうか」「ドライバーを確保し続けられるだろうか」といった不安を抱える経営者や、事業継続に限界を感じた後継者不在の高齢オーナーの利用もあるという。
ビズリーチ・サクシードで物流関連のM&Aを希望する譲り受け企業の動向を見ると、物流業界全体でドライバーの確保が難しくなるなか、ドライバー確保を目的とした企業が、M&A後に従業員の引き継ぎを必須条件とするケースが多い。「2024年問題」への対応策として、現在保有していない拠点を新たに持ちたいというニーズが目立つ。中長距離輸送のニーズが高く、10トントラックを有する譲渡案件を求めることが多く、年商5~10億円前後や年商10億円以上の譲り受け企業が事業を拡大したいというケースが見受けられるという。
事業継承の成否は「物流インフラ」維持を左右する課題だ
物流業界における課題として、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が叫ばれて久しい。しかし、物流現場ではさらに根深い課題が横たわっている。小規模経営の運送会社で顕著な「事業継承」問題がそれだ。
全国に6万社以上が存在するとされる貨物自動車運送事業者、いわゆるトラック運送会社。その多くが、自営など少人数で運営する小規模事業者だ。高齢化が進み、若い世代への継承が思うようにいかない事情は、むしろこうした小規模事業者に顕著だ。高齢の創業者と旧知のメンバーが数台のトラックで運送業務に励む一方で、子供の世代は外に仕事を求めて出て行ったきり戻ってこない。継承先が見つかれば幸運で、やむなく廃業を決める事業主も少なくない。
忘れてはならないことがある。全国の隅々まで行きわたっている物流サービスを支えているのは、こうした小さな運送業者だという現実だ。大手物流企業からの委託を受けて宅配に従事するのが、こうした地場で歴史を築いてきた運送業者であることは決して珍しくない。その意味で、事業継承の成否は、社内に不可欠なインフラの維持を揺るがす関心事であるはずなのだ。物流業界の存亡にかかわる課題として、もっと注目されてよいと思う。「ビズリーチ・サクシード」など事業継承M&Aサービスに求める役割も、決して小さくない。(編集部・清水直樹)