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消毒スプレーかけられ「ばい菌扱い」

コロナ禍の宅配ドライバーらに差別や中傷、労組調べ

2021年12月15日 (水)

調査・データ鉄道やタクシーなどの公共交通機関や物流、観光業界などで働く人たちの労働組合でつくる「全日本交通運輸産業労働組合協議会」(交運労協)が、組合員約2万人に調査したところ、およそ5人に一人が、新型コロナウイルス禍でエッセンシャルワーカー(人々の生活に必要不可欠な労働者)として働くなかで、客から差別や偏見、誹謗中傷などの迷惑行為を受けていたことが明らかとなった。

交運労協によると4320人のうち、客から消毒スプレーをかけられたトラックドライバーが143人いたほか、鉄道勤務者では70人だった。ほかにも「ばい菌扱いされた」「お金を投げつけられた」といった声もあった。

エッセンシャルワーカーとして働く本人や家族が病院の受診・検査を拒否されたり、周囲から誹謗中傷を受けたりした声なども寄せられた。

(出所:交運労協)

近年、顧客から悪質クレームや嫌がらせ、迷惑行為を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題となっている。今回の調査では、全体の46.6%が被害に遭ったと答えたほか、新型コロナウイルス禍となったこの2年間で、カスハラが増加したと実感している人は57.1%とさらに多かったことがわかった。

最も印象に残っている客からのカスハラ行為は「暴言」で、「同じ内容を繰り返すクレーム」「威嚇・脅迫」と続いた。カスハラを行う人の傾向として男性が84.4%で、うち7割が40歳代以上だった。

(出所:交運労協)

カスハラの対応に費やす時間は1時間以上が17.1%だが、数時間から数日、半年以上など、長期化しているケースもあった。

カスハラへの対応は、「毅然と対応した」が26.4%、「謝り続けた」が23.7%、「上司に引き継いだ」が22.4%だった。一方で「何もできなかった」「危険を感じて退避した」といった声も少なくなかった。

被害後の心身の状態は「嫌な思いや不快感が続いた」が50.0%だったほか、「不安な気持ち」「恐怖」「心療内科受診」「寝不足」といった深刻な影響を及ぼしていることも明らかになった。

(出所:交運労協)

一方で、カスハラ対策がとられていない企業は39.5%で、迷惑行為対策教育(21.0%)やマニュアル整備(19.9%)を行なっている企業を上回り、カスハラは個人の問題ととらえられている傾向が強い実態がわかった。

自由記述より
・ここ数年、SNSを利用した誹謗・中傷が多く、写真を撮られることもあります。社員である前に、1人の人間として個人の尊厳が守られていないと感じます。(鉄道関係)

・ICカードが使えない時にそのことを威圧的になじられ、バスを蹴飛ばされたことがあります。1人で何名ものお客様を対応しているので、変わったお客様がいるとやはり精神的に疲れます。(バス関係)

・お客様からの盗撮や、呼ばれる際に臀部や腰を触られることが多々あります。CAの同僚との会話の中で、同じ経験をしている者が10名近くいました。会社として対策を講じることもなく、泣き寝入りしている状態です。(航空関係)

・悪質クレームについて、どの人にも共通しているのは、大声、長時間、早朝や深夜なども関係なし、正義を振りかざす等が多いです。私達の仕事は、どうしても運行を優先する(他のお客様をまき込めない)ため、本当は警察を呼びたいと思っても、あきらめてしまうことが多いと思います。(バス関係)

・どこまでがお客様であるのか、わからない事が多い。すべてこちらが悪いのであればあやまりますが、一方的に悪者にされ、威圧的にされると、お客様である以前に人間であると思ってしまう。私自信でその線引きをすることが難しく、人に頼ってしまうことが多く悩んでしまいます。(トラック関係)

・上司や同僚がクレーマー対応で長時間拘束されている事案があり、業務妨害にもなりうるのではないかと思います。暴力だけでなく、暴言や長時間拘束は即警察に通報してもいいような法律ができてほしいと思いました。(観光サービス関係)

・悪質クレーム、従業員に対する人格攻撃等は年々増加傾向にあり、その質も悪い方向へと加速している様に思います。(鉄道関係)

・サービス業なので仕方ないことかもしれませんが、こちらが下手にでなければいけないのはとても不快で、心身が擦り減る思いです。利用者側にももっと厳しい処罰や線引きをきちんと行える施策を導入してほしいです。(航空関係)

現場との認識のギャップ 会社は毅然と立ち向かう姿勢を示せ

今回の調査では、コロナ禍でのカスハラ被害がより深刻となっている一方で、会社のケアがなにもないまま、現場で働く労働者が放置されている実態が明るみになった。

業務に支障をきたすことのできないエッセンシャルワーカーの仕事は、理不尽な言動を受けても泣き寝入りする傾向が強い。にもかかわらず、労働者の受け止めと、会社の受け止めとのギャップは、とても大きい。

交運労協は「現場を守るしくみづくり」がまず早急に必要だという。日々、顧客と接する仕事では、どこまでが「お客様」ととらえていいか、判断に悩むケースが多いという。

(イメージ)

「こんなふうに感じてしまうのは自分だけなのでは」と自身を責めてしまったり、誰にも相談できず一人で抱え込む人も少なくない。

もちろん、なかにはまっとうで健全なクレームはあるかもしれないが、受け止め方や価値観は人それぞれで、線引きはとても難しい。

そこで、現場に立つ人が迷わないような、カスハラの線引きともいえるガイドラインを、社員とじっくり話し合いながら、会社が示していく必要がある。

人手不足をなげく会社も多いが、現場の問題意識を早急に共有し、カスハラに毅然と立ち向かう姿勢を社内外に示していくことが、第一歩だ。(編集部・今川友美)