ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

全館で可変温度帯仕様、冷凍冷蔵専用の物流施設ビジネスに参入

日本GLP、全館冷凍冷蔵マルチ施設で「新ニーズ」訴求

2023年8月30日 (水)

(イメージ)

拠点・施設東京都内のワンルームマンションで一人暮らしの女性。新型コロナウイルスの感染が広がってから、都心のオフィスに出勤することはほとんどない。この日も在宅のまま仕事を終えようとしたころ、インターフォンが鳴った。インターネットで注文した食材が届いたのだ。好きな料理は絶好の気分転換だ。最近は、肉や魚などの生鮮品も冷凍で配達してくれる。この週末は、初めてのメニューに挑戦してみよう――。

コロナ禍を契機として、宅配ビジネスを取り巻く環境は大きく変わった。なかでも、スーパーマーケットや生活協同組合などが手がける生鮮品の宅配は、外出自粛による店舗での買い物に代わる消費スタイルとしてすっかり定着した。こうしたサービスが充実してきた理由は何か。それは、冷凍冷蔵物流の進化にほかならない。

食品流通の分野で台頭がめざましいEC(電子商取引)サービス。それを支えるコールドチェーンの品質向上に不可欠なのが、冷凍冷蔵倉庫だ。急速に重要が高まる、冷凍冷蔵輸送ニーズにビジネス機会を求めて、冷凍冷蔵マルチテナント型物流施設を統一シリーズで展開する計画を進めているのが、日本GLP(東京都中央区)だ。冷凍冷蔵倉庫をマルチテナント型で展開するビジネス戦略の本質に迫る。

常温と比べて投資負担が大きい冷凍冷蔵倉庫

全国各地に存在する物流倉庫。冷凍冷蔵荷物を扱える拠点はどれくらいあるのだろうか。

物流不動産の開発事業者が展開する倉庫の大部分は、常温(ドライ)の荷物を対象としている。入居を希望する企業が冷凍冷蔵での荷扱いを求める場合は、必要な設備を自前で投資するのが通例になっている。

(イメージ)

日本GLPの倉庫についても同様だ。2023年3月末時点で三大都市圏を中心に全国で冷凍冷蔵設備を備えている21棟のうち16棟で、冷凍冷蔵設備の設置費用を入居者が負担している。

これまで賃貸型の冷凍冷蔵倉庫が一般的ではなかったのはなぜか。最大の理由は、冷凍冷蔵倉庫建築にかかる多額の設備投資費用と、物流不動産の開発事業者が冷凍冷蔵倉庫を継続的に賃貸していけるかという、いわゆるリテナントリスクにある。

常温倉庫スペースを冷凍冷蔵対応仕様とするためには、断熱・空調機能を設ける必要がある。多額の初期投資が必要になることに加え、退去時には原状回復工事義務が発生する。加えて、天井や床に断熱加工を施すことで、スペースあたりの容積率はドライに比べて小さくなる。その結果、荷物の収納能力が下がることで、諸々の費用に対する収益効果を発揮しにくくなってしまうのだ。

また、投資額がドライに比べて2倍近くになるため、既存の冷凍冷蔵倉庫会社は超長期で投資回収を考えざるを得なくなってしまうという現象も起こっている。

自らの手で入居企業に冷凍冷蔵倉庫を提供したい

初期投資に対する効果を発揮しにくい冷凍冷蔵倉庫。物流不動産開発を手がける各社は、一定の市場ニーズを認識しながらも、どうしても手が出にくい領域であるとの認識を共有していた。ところが、冷凍冷蔵倉庫にビジネス機会を求めるべく動き始めた企業があった。「入居企業様に負担させるのではなく、自社で冷凍冷蔵倉庫を提供できないか」。それが日本GLPだった。

日本GLPは17年4月、営業部門内に「食品・流通チームを発足させ、その後他部門も巻き込んだ社内横断チームが発足した。チームに与えられたミッションは、冷凍冷蔵機能を予め備える賃貸型・マルチテナント型倉庫の事業化。チームリーダーに任命されたのは、駒俊志・現営業開発部シニアマネージャー。大手不動産の関連会社から日本GLPに転じて5年目に任された大役だった。

▲日本GLP営業開発部シニアマネージャーの駒俊志氏

駒氏は振り返る。「まず、比較的ドライ倉庫に導入しやすい冷蔵倉庫の開発からスタートし、最初の課題は冷蔵機能を設ける拠点の立地を選定することでした」

主に食品を取り扱う冷凍冷蔵倉庫を事業化する場合、立地は大都市圏に限られる。「三大都市圏の湾岸部か都心部に接する郊外、それ以外ならば政令指定都市か県庁所在地。それ以外の立地では顧客に選んで頂けないと考えました」(駒氏)。つまり、食品を買い求める住民と店舗がある程度集積した場所に近い場所でないと、ビジネスとして成立しないというわけだ。

ALFALINK3棟での事業化で手応え

チーム発足後、顧客負担で冷凍冷蔵設備を備える倉庫の実績が首都圏を中心に出てきた。しかし、あくまでチームの目的は、日本GLPが自前で冷凍冷蔵機能を備えた賃貸型・マルチテナント型倉庫だ。

▲冷凍・冷蔵機能を備えるマルチテナント型倉庫「GLP ALFALINK流山8」

社内の各部門や顧客との交渉を重ねた結果、「GLP ALFALINK(アルファリンク)相模原1」(相模原市中央区)と「GLP ALFALINK流山8」(千葉県流山市)、「GLP ALFALINK流山5・6」(同)で冷凍冷蔵倉庫スペースを自社で用意することができた。

「初めての成果でした。入居企業様の反応にも手応えがありました」。駒氏を中心とする食品・流通チームのメンバーは、この成果をもとに、いよいよ本来のミッションの実現に向けて動き出した。

全館冷凍冷蔵マルチテナント型物流施設(冷凍冷蔵マルチ型倉庫)シリーズを定義する「三つのコンセプト」

冷凍冷蔵マルチ型倉庫をシリーズとして展開する。「それは、冷凍冷蔵倉庫専用のシリーズを新たに創設することを意味しています。そこで、まずは冷凍冷蔵マルチ型倉庫の定義を明確化するコンセプトを定めることにしました」。駒氏とともにチームを支える営業開発部の伊藤晋シニアマネージャーは、マルチテナント型であることの意義について、こう強調する。

▲日本GLP営業開発部シニアマネージャーの伊藤晋氏

駒氏らチームメンバーが考案したコンセプト案は、「柔軟性」「投資低減」「環境配慮・省エネ」の3つの軸を設定。常温倉庫と差のない条件で提供できるサービスの構築を意識しながら、条件面を決めていった。常温倉庫と同等の使い勝手を訴求することで、初めて新規顧客の獲得につながると考えたからだ。

柔軟性については、契約期間を常温倉庫と同等とするほか、小規模区画で可変温度帯(冷凍冷蔵)に対応できる強みを訴求。投資面では、初期コストと退去時の冷凍冷蔵設備に関する原状回復工事費、さらに設備管理費をゼロに設定した。脱フロンガスの自然冷媒や太陽光発電、LED照明の採用による環境対応も重視することとした。

「日本GLPの冷凍冷蔵マルチ型倉庫の開発コンセプトを、業界のスタンダードにしたい。そこまで意識したコンセプトに仕上げました」。加えて、冷凍冷蔵業界でも「所有から賃貸へ」を進めていく予定だが、日本GLPとしては、その先を見据えた「これまでにない新しい仕組み」も考えている。冷凍冷蔵物流会社にヒアリングをしているが、一定のニーズが見えてきており、すでに新しいソリューションの提案活動として行ってきている。伊藤氏は力を込める。

神戸に2タイプの冷凍・冷蔵専用マルチ倉庫を整備へ

コンセプトは決まった。同時並行で進めていた、日本GLPが提供する国内初の冷凍冷蔵倉庫の候補地選定は、首都圏や関西圏を中心に複数の案を模索した結果、神戸市東灘区の六甲アイランドとその隣接地である住吉浜に決定した。

日本GLPは、2つのタイプの冷凍冷蔵倉庫を開発する計画だ。まずは「GLP神戸住吉浜」(仮称)。六甲アイランドに通じる橋の手前に位置する、敷地面積2万1000平方メートル、延床面積4万5000平方メートル、収容能力5万2660トンの地上2階建ての2層式メゾネット構造だ。プラス10度からマイナス25度までの可変温度帯に対応できるのが強みだ。「EC物流・店舗配送物流への対応を意識した『流通型』仕様です。新たに冷凍物流を始めたい、また現在は冷凍スペースを間借りしていて手狭な悩みを抱える顧客に訴求できる物件と位置付けています」(チームメンバーの営業開発部・草原洵也シニアマネージャー)。25年2月の完成予定だ。

もう一つが、24年3月の完成を予定している「(仮称)六甲プロジェクト」。こちらは六甲アイランド内にあり、敷地面積5000平方メートル、収容能力1万1871トンの保管型倉庫である。1階にバースを擁する地上4階建てで、こちらはマイナス25度の温度帯で主に冷凍需要に対応する。六甲アイランドと言えば、神戸港の国際海上コンテナターミナルに近接し、輸入の冷凍食品が集まる冷凍倉庫街を形成している場所だ。既に同じ六甲アイランド内に倉庫を保有する運輸企業の賃借が決定している。

▲日本GLP営業開発部シニアマネージャーの草原洵也氏

「こちらは『保管型』仕様と位置付けています。六甲アイランドで冷凍倉庫を確保したい保管をメインとした顧客を対象とした施設として開発を進めており、入居者も決定しています」(草原氏)

近接したエリアに性格の異なる2棟の冷凍冷蔵倉庫を整備することで、顧客の冷凍冷蔵倉庫のニーズの幅を見極めるとともに、これらに続く新規開発案件の重要な参考データの抽出につなげる思惑がある。

新たな物流の「あるべき姿」を提示する日本GLP

駒氏は強調する。「首都圏や大阪など新たな冷凍冷蔵倉庫の展開を想定するうえで、我々が掲げたコンセプトの妥当性や訴求方法など、シリーズで展開する価値をいかに提供できるか。その実現に向けて、さらに踏み込んだ企画を進めていきます」

コロナ禍を契機に急速に進んだ消費スタイルの多様化。「新しい生活様式」の時代は、物流にさらなる価値を要求するであろう。その象徴が冷凍冷蔵機能なのは言うまでもない。日本GLPは、社会に不可欠なインフラの一翼を担う立場として、新たな物流の「あるべき姿」を示そうとしている。

日本GLPの冷凍冷蔵物流施設
関連記事
全館冷凍冷蔵マルチ型施設の「標準型」示す日本GLP
https://www.logi-today.com/526802