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物流スタートアップセミナー、気鋭の7人未来語る

2022年6月9日 (木)

話題LOGISTICS TODAY(東京都新宿区)は9日、オンラインセミナー「物流テックスタートアップカンファレンス2022 supported by Spectee」を開催した。先端テクノロジーと斬新なアイデアを武器に物流業界の変革に挑む新進気鋭のスタートアップ・ベンチャーたちが一堂に集結。7人のリーダーが自社の製品・サービスの革新性や直面する課題、物流の未来像を熱く語った。物流企業や荷主企業などから想定以上の300人超が視聴した。

IT技術やAI(人工知能)の急速な進展を背景に、日本の物流業界にもこのところ、スタートアップ・ベンチャーや新しい発想によるサービスが相次いで登場している。目まぐるしい展開に、どういったことが新たに可能になり、今後どう展開するかをつかむことも困難だ。セミナーでは、ベンチャーキャピタル「IDATEN Ventures」(イダテン・ベンチャーズ、同港区)の坂本晋悟キャピタリストを水先案内人に迎え、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が7人の登壇者に切り込んだ。

▲(左から)Spectee村上建治郎CEO、IDATEN Ventures坂本晋悟キャピタリスト、LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長

冒頭、坂本氏は日本の物流業界の足元の状況を1つの「D」、3つの「S」のフレーズで概観した。運ぶ物(Demand)の増加と運ぶ人(Supply)の不足
というギャップの中で、環境負荷への対応(Sustainability)と、当日・翌日配送のニーズ(Speed)に迫られている――。アマゾンに代表されるスタートアップ企業が群雄割拠しているアメリカのように展開するのか。坂本氏は「トラック配送網が整備され、災害対策が重要な日本は、スタートアップにも日本独特のソリューションが求められる」と指摘した。

旧来型の取引先に体制変化促す

トップバッターとして登壇した「Spectee」(スペクティ、同千代田区)の村上建治郎CEOは、その災害対策の分野で次世代の危機管理ソリューションを開発した。災害時、SNS情報や道路カメラ情報などをAIが解析し、物流企業が心配している配送ルートや倉庫周辺のリスクを可視化し予測する。官公庁や大企業も導入を進めるサービス。村上氏は「それまで情報をテレビなど旧来メディアに頼っていた企業が、当社のサービスの導入をきっかけに危機管理面から会社の組織体制を変革した」という事例を紹介した。物流業界にはなお古い体質の企業も少なくないが、一つの新サービスが既存の体制を動かした力に、坂本氏も感心した様子だった。

▲Logpose Technologiesの羽室行光CEO

トラックの自動配車システムを開発した「Logpose Technologies」(ログポース・テクノロジーズ、同渋谷区)の羽室行光CEOは、働き方改革法によりドライバーの時間外労働規制が強化されることによる「物流の2024年問題」対策に真正面から取り組んでいる。日本全体で労働人口が減少している厳しい現実を直視すれば、「どれだけクリーンな業界イメージを作っても、ドライバーが増える状況にはない」と言い切った。むしろ数十年前から取り組んでいる「共同配送による積載率アップ」に解を見出し、アルゴリズムを駆使した自社の配車システムで複数の荷主が納得できる公平・最適な共同輸送ができると強調。プロダクツの力で問題を克服しようという企業姿勢を示した。

大手にはできない安価で提供

▲リモート参加したフォロフライの小間裕康CEO

商用EV(電気自動車)メーカーの「フォロフライ」(京都市左京区)は京都大学発ベンチャー。中国製の商用EV導入が一時「黒船来航」のような形でマスコミで話題になったが、小間裕康CEOは、国境を跨いだ設計開発と製造の役割分担という意味で「黒船ではなくアップルのビジネスモデル」と説明した。販売中の商用EVの価格は最安で380万円。「ラストワンマイルの配達車両というニッチな市場だからこそ、大手メーカーにはできない安価で提供できる」と語り、周囲を驚かせた。

▲Shippio VP of Sales & Marketingの本間善丈氏

海運分野からは、日本初のデジタルフォワーダー「Shippio」(シッピオ、東京都港区)の本間善丈氏が登壇。新型コロナウイルス禍による海運の混乱が続く中、デジタル化が遅れている貿易実務のムダ削減を自社プラットフォームで進めている。スタートアップだが、すでに欧米企業とライバル関係にあり、「日本の法規制を知っている強みを生かす」と自信を見せた。

セミナーではこのほか、スマートバーコードを使って荷物情報をサプライチェーン全体で「見える化」している「LOZI」(名古屋市中区)のマーチン・ロバーツCEOや、BtoB物流で企業同士で異なるシステムの間を繋ぐデータサービスを手がける「Simount」(シマント、東京都文京区)の和田怜代表取締役、電波で情報をやりとりするRFIDタグによる在庫管理を手がける「RFルーカス」(同渋谷区)の浅野友行社長がプレゼンを行った。いずれも、物流現場が抱える課題に得意技術で挑戦する企業ばかりだった。

坂本氏「リアルな現実も踏まえた大人の攻め方だ」

坂本氏は最後に「いずれのスタートアップも、物流のニーズにスピーディーに対応し、かつ本質的な価値を提供している。リアルな現実も踏まえた大人の攻め方で日本型のデジタル化に挑んでいる」と評価した。赤澤編集長は「まだまだ取り上げきれない」とし、LOGISTICS TODAY誌上のスタートアップ特集を常設化し、より多くのスタートアップ・ベンチャーを紹介していく方針を明らかにした。