調査・データ原油・原材料価格の高止まりにウクライナ情勢と24年ぶりの円安が重なり、コスト高に拍車がかかっている。こうした中、コスト上昇分のサービス価格への転嫁が物流企業では他産業より遅れ、半数程度にとどまっていることが、帝国データバンク(TDB)の調査で裏付けられた。他社との競合状況や荷主との力関係が障害となっている模様だ。
帝国データバンクが6月に行った、企業の今後1年の値上げ動向についてのアンケート調査によると、自社の主な商品・サービスについて、「ことし4月から5月の間にすでに値上げした」企業と「6月以降に値上げする予定」の企業を合わせると68.5%と7割近くに達した。一方、「今後1年以内で値上げする予定はない」は7.4%、「値上げしたいが、できない」は14.6%だった。
値上げ済みと値上げ予定の企業を業界別で見ると、「卸売」(87.6%)や「製造」(79.9%)での割合が高く、全体平均を10ポイント超上回った。さらに業種別では、「飲食料品・飼料製造」が91.3%、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」が89.1%、「飲食料品卸売」が88.5%となり、価格転嫁が特に進んでいる。
逆に、値上げの割合が低かった業界は「情報サービス」(12.0%)、「不動産」(29.6%)、そして「運輸・倉庫」(51.2%)だった。調査では具体的な事業者の声も報告しており、一般貨物自動車運送業のある企業は「値上げをすれば契約打ち切りのリスクがかなり高い」とコメントしていた。帝国データバンクは「他社との競合などから、人件費や燃料費などの上昇分を転嫁しにくい状況がうかがえる」と評している。
調査では「値上げしたいが、できない」と回答した企業のコメントも紹介している。近年、物流にはIT事業者も数多く関わっているが、あるソフト受託開発会社は「(値上げはできないが)物価が上がっているため、給与(人件費)を引き上げて価格に転嫁したいという希望はある」という切実なコメントを寄せている。
原油・原材料価格の上昇は、ほとんどの企業で吸収力の限界を超えているとされる。前回のことし4月調査との比較でも、全産業平均では価格転嫁が着実に進んでいる状況が確認できた。「7月から9月頃に値上げ予定」の企業の割合は4月調査の8.6%から6月調査の19.9%へと11.3ポイント上昇し、「10月から12月頃に値上げ予定」の企業も前回の2.6%から今回は9.3%へと6.7ポイント上昇した。物流業界でも一定程度は前進しているとみられるが、全産業と比較するとやはり転嫁の遅れは否めない。
公正取引委員会も今般の原油・原材料高を受けて、価格転嫁拒否といった発注者側の優越的地位の濫用がないか、緊急調査を6月上旬に開始している。例年、多数の問題事例が見つかっている荷主と物流事業者の関係にも目を光らせており、こうした業界外からのチェックが物流業界での適正な価格転嫁を後押しすることが期待される。
今回のアンケート調査は6月10日から13日にかけてインターネットで行い、1701社から有効回答を得た。(編集部・東直人)
物流企業によるコスト増のサービス価格転嫁、理解すべきは「消費者」ではないか
物流業界は、いまだに荷主企業と“対等”な関係を築けていないのか。帝国データバンクの調査で判明した、物流企業によるコスト上昇分のサービス価格への転嫁が遅れている実態。物流企業、とりわけ輸送事業者にとって、荷主は最大の顧客だ。とはいえ、ここまでコストが上昇しても値上げ交渉もままならないとなれば、もはや「社会に不可欠なインフラ」という枕詞も空虚にしか聞こえない。
物流・運輸ビジネスは、あらゆる産業の中でも最も値上げしにくい領域とされる。公共性が高いだけでなく産業界全体にマイナス影響が波及し、経済そのものの成長鈍化、さらには減退をも招きかねないからだ。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響が尾を引いている状況下でのウクライナ情勢の緊迫化、こうした要因に刺激された円安の進行は、近年でまれにみるコスト高をもたらしているとなれば、話は別だ。物流企業だって企業体なのだ。
物流企業の価格転嫁について理解すべきは、何も荷主に対してだけではない。むしろ、その実態を受け止めるべきは消費者だ。EC(電子商取引)サイトで「翌日配送」の商品を当たり前のように購入している消費者なのだ。こうした安価で利便性の高いサービスが実現しているゆえんは、ひとえに物流企業の極限までの“我慢”があるからにほかならない。今こそ、「適正なサービス対価」という考え方を再認識すべきではないだろうか。(編集部・清水直樹)