ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

国際物流の混乱いつまで、国交省が業界と会合

2022年6月17日 (金)

行政・団体国土交通省は17日、このところの国際物流の混乱について、物流事業者や貿易関係者、荷主などの関係団体との情報交換会をオンラインで開いた。主に、(1)港湾労使の交渉を抱える米西海岸、(2)対ロシア制裁の影響が及んでいる欧州、(3)ロックダウンが尾を引く中国・上海地区――の3地域について、物流の現状と今後の展望を話し合った。いずれの地域も混乱解消が見通せず、厳しい事業環境が当面続くとの認識で一致。引き続き連携して対応していくことを申し合わせた。

国際物流における競争力強化を図るため、官民で情報を交換するとともに、ウクライナ情勢の緊迫化など世界の動きも反映した方向性を確認する狙いだ。ここでは、会合における内容の一部を3地域ごとに整理した。

■米西海岸:混乱が内陸に拡大

新型コロナウイルス感染拡大の影響で深刻化していたロサンゼルス・ロングビーチ港でのコンテナ船の混雑状況は、以前より緩和したものの、なお物流需給がひっ迫。輸送運賃の高騰が続いている。「在庫不足も顕在化し、販売現場から物流側に苦情がきている。日系企業の6割が現地調達などでサプライチェーンを見直すとの情報もある」(野村総合研究所・宮前直幸氏)

米経済の好調さによる物流需要の盛り上がりもあり、港湾の次は内陸輸送で目詰まりが深刻化している。「鉄道輸送はキャパシティーいっぱい。内陸の目詰まりが港の滞留貨物船や沖待ちの増加へとつながる悪循環が懸念される」(海運大手のオーシャンネットワークエクスプレス=ONE)。「港の倉庫もいっぱいで、鉄道を諦めトラック輸送に切り変える動きも出ている」(国際フレイトフォワーダーズ協会)。「コンテナトラックのシャシー(車台)が不足している。物流正常化には秋口までかかるだろう」(日本貿易振興機構の森本政司氏)

一方で、港湾労使の交渉は6月30日に節目を迎える。「もし労使の隔たりが大きく妥結に至らなければ、労組側が勤務縮小や休暇取得に動き、7月第1週は荷物が動かなくなる。最悪のシナリオでは正常化は8月か9月までかかる」(森本氏)

■欧州:ハブ港でボトルネック深刻化

(イメージ)

各国の対ロシア経済制裁でロシア向け貨物が停止状態。危険回避もあって海上輸送のキャパシティーは減少している。「各ハブ港のボトルネックも深刻化している。ロッテルダム港はコンテナであふれ返っているが、火消し的対応で長期的な解消にはつながっていない」(国際物流大手のAPモラー・マースク)

航空輸送はシベリアを迂回するアラスカ、カザフスタン経由ルートに頼らざるを得ず、燃料増で貨物搭載量が減少。時間もかかり、日本の貨物航空会社は減便を強いられている。「欧州向けのEC(電子商取引)、自動車関連輸出は旺盛なため、航空運賃は高騰が続く見込み」(宮前氏)

■中国・上海:日系自動車産業で在庫不足

6月1日の上海市全域でのロックダウン解除後も人の動きへの制限が続き、サプライチェーンへの影響が深刻。上海港では出港が急減。揚子江の貨物港が上海港の代行をしている。

周辺地域の内陸物流も回復が遅れている。検疫に時間がかかり、トラックドライバーが不足。倉庫でも作業員が足りず、輸入コンテナが積み上がったまま。中でもジャストインタイム方式を採る自動車産業が打撃を受け、特に日系メーカーは本国からのリードタイムが短いことが裏目に出て部品の在庫不足に直面している。「混乱解消にはなお時間を要する。年後半の需要増・繁忙期に物流の負荷増加が気になる」(宮前氏)

(イメージ)

先行き不透明なまま、企業には引き続き難しい事業運営が強いられる。宮前氏は希望的要素として、上海の物流機能が少しずつではあるが回復に動き始めたことや、航空輸送で旅客便の回復によりベリー(貨物室)供給量が増加していることを挙げた。また、マースクの担当者は、荷主側が輸送の脱炭素化を重視したり、必ずしもスピードを求めていなかったりと、国際物流でも輸送ニーズが多様化していることを紹介。その上で「物流事業者には選択肢が豊富で柔軟なサプライチェーンの構築が求められている」と指摘した。