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高速高頻度開閉と断熱性を両立するシャッター登場

2024年3月4日 (月)

話題三和シヤッター工業が昨年発売した新商品の高速シートシャッター「断熱クイックセーバーTR」を取材して、最初に思い浮かんだのは、幼少期に母親から叱られた、こんな経験である。

「コラ、また部屋のドアを開けっぱなしにしてダメじゃない。ほら、しっかり閉めてきて」

わかってはいるけど、忘れてしまう、面倒くさいと思ってしまうのが人間というもの。ましてや、時間に追われる物流の作業現場ともなれば、ただダメ出しだけでは解決しない。

▲商品開発部環境建材グループ環境建材課の稲生正人氏

シャッターが開くのを待つ時間が発生すれば、作業は停滞し、開けっぱなしでいいじゃないかとなってしまい、庫内の空調効果も悪化する。商品開発部環境建材グループ 環境建材課の稲生正人氏は「断熱性能の高いシャッターをこまめに開閉することができれば、作業する人のストレスを軽減し、空調効率を高め、CO2削減にもつながる」との想いから、商品開発に取り組んだと言う。

社会課題の解決に「断熱クイックセーバーTR」が果たす役割

人手不足が深刻化する物流現場では、まず、スタッフを集める段階で多大な労力がかかっている。人材確保のために庫内環境の整備、特に冷暖房の設置で働きやすい職場を用意し、人材確保につなげようとする現場も増えているが、荷役作業で出入りの多い倉庫では、庫内の温度を効率的に保つこと自体が難しい。

(イメージ)

また、光熱費のコスト高騰が与えるインパクトも極めて大きく、冷暖房設備を整備すれば、省エネやコスト削減の取り組みもより重要となる。加えて、日本が国際公約として掲げた温室効果ガスの削減、カーボンニュートラルの実現に向けた環境対策も差し迫った課題となり、企業活動においても社会貢献としての積極的な対応が不可欠となっている。

庫内で働く人々に配慮した環境整備が進むのは望ましいことだが、一方、コスト増加のリスクを背負うことも事実。コストの中で冷暖房費が占める割合の大きい倉庫業にとっては、屋外と庫内をフォークリフトが行き来するような現場での省エネは経営上の死活問題となる。加えてCO2削減での成果を示す必要もあり、倉庫開口部に起因する空調効率の見直しは急務、もちろん、開けっぱなしなど許される問題ではない。

「こうした、職場環境改善や、CO2排出量削減といった社会的課題に対応するために、倉庫開口部の活発な熱移動を、できるだけ低い水準に抑えることを目標に開発したのが、断熱クイックセーバーTRです」(稲生氏)

▲断熱クイックセーバーTR

屋外と庫内をフォークリフトが行き来する現場では、当然のことながら開口部の開け閉めが頻繁に必要となる。開けっぱなしにしていれば、熱移動が活発になり、消費電力も上がる。反対に閉めてしまえば、省エネにはつながるが物流現場の荷役作業を停滞させてしまうことになる。

「高速かつ高頻度で開閉できるシャッターならば、こうした課題を解決できます。シャッターの開閉が、スムーズな現場作業の妨げにならず、速い開閉速度や頻繁な開閉に応える性能を備えることが、開発コンセプトです」(稲生氏)

矛盾する「高速高頻度」と「高断熱」、その両立を実現

(イメージ)

断熱クイックセーバーTRの開放速度は秒速0.8m、閉鎖速度は同0.5m。使用頻度は毎時60回の開閉を実現しており、目標とした高速高頻度使用を、高い水準でクリアした。さらに設計耐用回数も50万回と、物流現場の厳しい使用環境でも安心して使用できる仕様である。赤外線センサーによる自動開閉が可能なため、フォークリフトや台車の稼働効率向上にも極めて効果的だ。

一方、この高速高頻度との両立が難しいのが、断熱性能である。これまで倉庫の開口部に断熱性を求めるのであれば、断熱オーバースライダーを使用するのが一般的だった。ただ、断熱オーバースライダーでは高速開閉性能に劣り、高頻度開閉にも適していない。

高速高頻度だけを追求するなら、従来の高速シートシャッターという選択肢があるが、これは巻き取り機能を重視した薄い素材で作られており、断熱性能は期待できない。

「矛盾する『高速高頻度』と『高断熱』という2つの要素を、どちらも高い水準でクリアするために試行錯誤を重ねました。高速高頻度の開閉性能と高い断熱性を兼ね備えた高速シートシャッターは、業界初(注1)となります」(稲生氏)

注1…2023年9月19日現在、国内高速シートシャッターにおいて

▲高断熱を実現するシート構造

高断熱を実現するために課題となったのが、シートの素材。ウレタン、スタイロフォームなど各種断熱材の検討を経て、最終的に辿り着いたのは、アルミ箔を貼り付けた2層のエアキャップを使用すること。エアキャップの空気層とアルミ箔が外部の熱を遮断するとともに、柔軟性も兼ね備え、シートの巻き上げにも対応できる。

断熱性能をわかりやすく捉える指標としてサッシ断熱性能等級を参考にすると、断熱クイックセーバーTRの断熱性能は、H-5等級に該当するという。「H-5等級とは、北海道などの寒冷地における住宅サッシに推奨される省エネ基準であり、そのような環境下での使用にも耐える断熱性能を実現しました」(稲生氏)。また、骨材の無いフラットなシート構造、レール部分に隙間ができない構造に加え、倉庫内外部の温度差によるシート表面の結露抑止(注2)など、現場の衛生環境や安全を守ることにも役立つ商品に結実している。

注2…シート両端部、ボトム部などの断熱材の入っていない部分は除く

商品機能で現場をサポート、環境対策の取り組み加速へ

「環境問題への意識の高まりから、導入を検討いただける事例は確実に増えています」と言うのは、営業推進部営業推進グループ 物流施設チームの主任、根岸遼太氏。事実、昨年9月の断熱クイックセーバーTR発売以来、これまでの新商品が発売から成約へ至る期間と比べても、「予想をはるかに上回るスピードで、市場に受け入れられていると感じます」(根岸氏)と、反響の大きさに驚いたと言う。

▲営業推進部営業推進グループ物流施設チーム主任の根岸遼太氏

同社では、CO2削減、省エネルギーに寄与する高断熱商品・サービスを「Re-carbo」(リカーボ)シリーズとしてラインアップ。同シリーズでは、マイナス5度の倉庫環境にも対応し、さらに使用エネルギー削減にも役立つ高断熱オーバースライダーを商品化。今回の新商品、断熱クイックセーバーTRは、同シリーズ2番目の商品化となる。高断熱への徹底したこだわり、そして物流現場での使用を想定した高速高頻度使用にも対応した断熱クイックセーバーTRは、Re-carboシリーズを通して社会に貢献する、同社の企業目標を体現する商品となっている。

これからは、温室効果ガス排出量の把握と、具体的な削減の道筋を示すことも、事業存続における重要なテーマとなるが、断熱クイックセーバーTRの導入によるCO2排出量削減効果を数値化すれば、環境対策におけるScope1、Scope2の可視化へとつながり、環境対策を基盤に社会貢献、ESG経営を推進する企業としての価値を創出することにも役立つだろう。

ドアを開けっぱなしにすると「もったいない」と感じることは、幼い頃から私たちに刷り込まれ、ごく自然に身についた環境意識ともいえる。誰もが持っているSDGs意識だから、物流現場でも受け入れやすく、導入が広がることを期待したい。業界リーダーとして、妥協のない開発で社会課題の解決を目指す三和シヤッター工業の取り組みは、私たちの「もったいない」精神を、しっかりとすくいあげてくれている。これでもう、開けっぱなしで怒られることもない。

「断熱クイックセーバーTR」概要