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Azoopが第三者割当増資でモノフルから資金調達、関西・中京圏進出へ

Azoopとモノフル、協業で物流現場に新たな価値を

2022年7月27日 (水)

話題「トラッカーズ」ブランドで運送事業者のDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化・最適化を支援するAzoop(アズープ、東京都港区)が、積極的な資金調達を進めている。とりわけ業界の注目をさらっているのが、モノフル(東京都港区)のグループ会社を引受先とした第三者割当増資の実施だ。Azoopは調達した資金を既存サービスのさらなる拡充とともに新規ビジネス参入を見据えたシステム開発や人材採用などに充てる考えだが、焦点はモノフルとの協業の行方だ。

EC(電子商取引)サービスの普及などによる消費スタイルの多様化は、物流現場にこれまでにない抜本的な変革を迫っており、それに対応した業務の効率化・最適化が急務になっている。両社は今回の協業により、こうした物流現場の抱える諸問題の解決に向けてどんな青写真を描くのか。Azoopの朴貴頌社長とモノフルの林口哲也・投資責任者に、今回の資金調達に伴う両社の協業の狙いと物流DXへの対応に向けたビジネス展開の方向性について聞いた。


▲モノフルの林口哲也・投資責任者(左)、Azoopの朴貴頌社長

Azoopの資金調達「サービス展開エリアの拡大」

Azoopの資金調達は、主に既存投資家のジャフコグループなどを対象に実施してきた。その狙いは、「トラッカーズ」「トラッカーズオークション」「トラッカーズマネージャー」の各サービスを展開してきた過程で、運送事業者のさらなる事業効率化を支援するビジネスの強化にある。

運送事業者は新型コロナウイルス禍で落ち込んでいる営業収入の確保に向けて、より効率的にトラック一台あたりの収益を上げていこうとしている。その手段として、現場業務の「見える化」による無駄の削減とともに、トラックの高値での売却などの動きを強めている。さらなる経営の効率化を迫るのが、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する「物流の2024年問題」への対応だ。

朴社長は、この2024年問題がより多くの顧客に「トラッカーズ」サービスを届ける機会になると判断。業容拡大を一気に進めるための財務基盤を強化する必要があるとして、資金調達に踏み切った。

Azoopの資金調達、「DX進展の潮目を見定めた絶妙なタイミング」

▲自身の姪が社内の壁に描いたイラストを前に笑顔の朴社長

「2018年ごろからDXに対する取引先の反応ががらっと変わってきました。その傾向は、コロナ禍でさらに強まった印象があります」。朴社長は17年の創業以来、物流業界におけるDXの進展度合いを見定めてきた。Azoopのビジネスが成長軌道に定着するためには、DXを取り巻く物流業界の動きの潮目が変わるタイミングで一気にアクセルを踏み込む必要があると考えていたからだ。

そのタイミングを逸しないために必要なのが、資金面での後ろ盾だ。今回の資金調達には、こうした絶妙な時機を見計らった綿密な計算があった。「我々は創業以来、首都圏中心に事業を展開してきた。しかし、首都圏に次ぐ市場である関西圏や中京圏でも運送会社にサービスを届けることで、ビジネスエリアを広げたいとの思いがありました」(朴社長)。13億8000万円という調達額は、こうして算出したものだ。

まずは関西圏と中部圏にそれぞれ1か所ずつ拠点を置き、顧客獲得とサービス対応拠点として第一歩を踏み出す予定だ。

業界に衝撃を与えた両社の「協業」

今回の資金調達は、Azoopにとってはビジネス展開の原資を確保するほかに、もう一つの大きな意味がある。モノフルとの協業だ。

2021年12月24日、Azoopの発表に業界関係者は驚いた。「Azoopとモノフルが協業するぞ」。もともと事業連携の間柄にあったとはいえ、資金面で手を組むとなれば、両社の関係性はさらに濃密になったことを意味する。モノフルが物流施設開発事業者として存在感を強める日本GLP(東京都港区)グループであることも、衝撃を高める材料になった。

「この業界を大きく変革していくのは難しい。荷主や倉庫会社など、サプライチェーンに関わる数多くのプレーヤーの仲間が必要。日本GLPグループは物流の『エコシステム』(生態系)を作っていくという強い『志』があり、実際にパートナーを見つけている実績もあることから、モノフルをベストパートナーと考えました」。朴社長はモノフルとの協業による物流DX支援ビジネスの強化を推進するとともに、日本GLPグループとの関係性に裏付けられたネットワークや資金力の強化にもつなげられると判断した。

対するモノフルは、Azoopへの出資による協業で何を期待するのか。「Azoopが展開するトラッカーズの各サービスについて、運送会社の収益改善を支援できる可能性を感じたのです」(林口氏)

とりわけモノフルが注目しているのは、Azoopならではの強みであるトラック車両あたりの収支管理機能だ。

「車両あたりの収支を管理するプロダクトの成長がAzoopの成功ドライバーであり、データが蓄積されることでデータプラットフォームとしての競争優位性を作り出せる。それがAzoopのトラッカーズの強みであると考えたのです」(林口氏)。積極的な物流イノベーションを推進するにあたって、Azoopとの協業を契機として物流業界全体の課題解決につなげていく。これがモノフルの描くイメージだ。

両社の強みを融合したビジネス、「まずは段階的に」

Azoopとモノフル。相互の強みを互いに生かすことでビジネス拡大を図る「相思相愛」の関係が生み出す付加価値とは。市場の目が注がれるのは、まさにそこだ。Azoopは、強みとするサービスをモノフルの取引先にも浸透させたい思惑がある。裏を返せば、自社だけでは荷主へのアプローチが難しかったとも言える。

一方のモノフル。一定数以上の車両を持っていたり利用したりしている運送会社は、日々の点検履歴や車両ごとの活動履歴をしっかり追跡しデータ化していくことが重要だが、必ずしも円滑に進んでいるわけではない。時間やリソースがかかるなど難しい課題が多数あるからだ。

「こうした現状の問題認識をAzoopと共有できること。ここが大事なポイントです。こうした懸念に対して、Azoopの開発するシステムが解決策になっています」(林口氏)。Azoopのシステムを活用することにより、車両管理のデジタル化をはじめとする業務の生産性が高まり、結果的にデジタルデータが蓄積されてプラットフォームになっていく。Azoopのこうしたビジネスモデルこそが、モノフルの意中にあるものだったのだ。

Azoopの車両管理や運行管理などの運送業務に必要な全ての機能を持つクラウド型運送業務支援システム「トラッカーズマネージャー」と、モノフルのトラック受付・予約サービスである「トラック簿」や求荷求車などのサービス。それら既存のサービスを掛け合わせて顧客への提供価値を高める。それが協業の第一歩となる。「直接的なシステム連携を将来的には模索するが、当面は小さなところから連携して顧客への価値提供ができると判断すれば、プロダクツの連携に踏み込んでいく」(朴社長)

モノフル、投資家としての経営支援策を明確に

物流現場業務のDXによる効率化という共通の目的で協業を進めていくAzoopとモノフル。しかし、Azoopにとってモノフルは投資家という立場でもある。

「Azoopのソリューションをいかに磨き上げていくか。顧客からのフィードバックをベースにして、より良いソリューションに仕上げていくか。そして、いかにスピード感を持って事業を拡張性のあるものに成長させるか。この2つが何にもまして重要な点です」。林口氏は投資家としての立場から、Azoopにスケーラビリティーのさらなる強化を求める。それがモノフルにとってもビジネス展開の奇貨になるからにほかならない。

モノフルは、さらに提案・支援できる要素として2つのテーマを掲げる。「まずは、日本GLPグループが形成してきた物流施設網や顧客、パートナー企業のネットワーク。Azoopにどんどん活用していただき、収益化を具体的に進めてもらうことが重要な支援です」(林口氏)

2つ目は、モノフルの中で今回の投資を担当しているチームだ。「メンバー全員がベンチャーキャピタルや大手事業会社の投資部門の出身者で構成されています。一般的なベンチャーキャピタルと同じ水準での投資家としてのご支援もできる体制になっています」。林口氏は、これらを組み合わせることで、Azoopの事業成長を支援する狙いを明かす。

「新しい生活様式」の本格的な到来を見据えて、物流現場ではさらなる業務効率化・最適化を加速する動きが広がる。一方で、ドライバーの就業における法整備への対応など、コンプライアンス上の施策も欠かせない。こうした諸問題の解決策として期待が集まるのが、こうしたDXの取り組みだ。独創的なサービス展開で市場における存在感を着実に高めてきたAzoopとモノフルが強みを共鳴させることにより、どんな価値を創造するのか。目が離せない。