ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

石化プラント減産、物流資材不足が4月迫る

2026年3月9日 (月)

国際ホルムズ海峡の封鎖が、日本の石油化学産業を直撃している。三菱ケミカルは茨城事業所でエチレンの減産を開始した。出光興産もエチレン生産設備の停止可能性を取引先に通知している。シンガポールでは住友化学グループがエチレンに続きアクリル樹脂原料でもフォースマジュール(不可抗力)を宣言した。石化プラントの減産は、包装資材や樹脂パレットの供給不足に直結する。国内のナフサ在庫は20日程度とみられ、封鎖が続けば4月以降、物流現場に影響が及ぶ。(編集長・赤澤裕介)

ナフサ中東依存、5年で53%から74%に急上昇

(イメージ)

今回の封鎖がこれほど石化産業を揺さぶる背景には、日本のナフサ調達構造の急変がある。

日本は世界でも例外的に、エチレン原料の95%をナフサに依存している。米国はシェール由来のエタンが主力、欧州もLPG(液化石油ガス)を一定割合使う。日本だけがナフサほぼ一本足という構造だ。

しかもそのナフサの調達先が、ここ5年で急速に中東へ偏った。

石油化学工業協会がまとめた財務省貿易統計によると、日本のナフサ輸入に占める中東比率は2020年の53.1%から24年には73.6%まで上昇した。22年のロシア制裁で従来の調達先が縮小し、中国や東南アジアの自国消費増も重なり、中東依存が一気に高まった。

▲日本のナフサ輸入構成の推移(2020-24年)(出典:石油化学工業協会※財務省貿易統計に基づく、クリックで拡大)

中東産ナフサのほぼ全量がホルムズ海峡を通過する。UAE、クウェート、カタールの3か国だけで日本のナフサ輸入の67%を占める現在、海峡の封鎖は日本の石化原料の3分の2を遮断することを意味する。日本で使われるナフサのうち国内産は4割で、6割が輸入だ。輸入のうち中東からの調達は7割で、国内全体でのナフサの中東依存度は4割になる。

原油の中東依存度(95%超)は広く知られているが、ナフサについてはこの5年間の急変が十分に認識されていなかった。20年時点であれば中東以外からの調達余地があったが、24年の73.6%という水準では代替調達の選択肢は極めて限られる。

国内外で広がる減産とフォースマジュール

封鎖から10日が経過した3月9日時点で、日本を含むアジア全域で石化プラントの減産やフォースマジュール宣言が相次いでいる。

出光興産は6日、徳山事業所(山口県周南市)と千葉のエチレン生産設備について「封鎖が長期化すれば停止する可能性がある」と取引先に通知した。2設備の生産能力は合計で国内全体の16%にあたる。

三菱ケミカルは9日、鹿島コンビナート内(茨城県神栖市)のエチレン生産設備で減産を開始した。6日から稼働率を下げて運転しており、主要顧客には通知済みだ。同設備の年間生産能力は48万5000トンで、国内全体の8%を占める。同社は「調達の減少が見込まれるなか、設備の停止を避けるための措置」としている。エチレン設備は一度停止すると再運転に時間がかかるため、完全停止を避けながら原料を温存する判断だ。

さらに注目すべきは、同設備が5月から2か月間の定期修理を控えていることだ。通常は定修前に在庫を積み増すが、今回の減産でそれができなければ顧客への供給調整が避けられない。旭化成と共同運営する岡山県の水島の設備は現時点では減産していないが、「供給見通し次第で判断する」としている。

海外では、シンガポールのPCS(ペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール)が5日にフォースマジュールを宣言した。PCSは住友化学が39.84%、カタールエナジーとシェルの合弁が50%を出資するエチレン製造会社で、年産能力は110万トン。ナフサの半分を中東から調達しており、海上輸送の混乱で原料確保が困難になった。住友化学は9日、このPCSの影響を受け、完全子会社の住友化学アジア(シンガポール)がMMA(メタクリル酸メチル、アクリル樹脂原料)についてもフォースマジュールを顧客に通知したと明らかにした。エチレンから川下のアクリル樹脂原料へと、不可抗力宣言の連鎖が広がっている。

丸善石油化学も千葉工場のナフサクラッカーの稼働率が低下しており、停止の可能性を取引先に示唆している。

三菱ガス化学のサウジアラビア合弁会社(アール・ラーズィー)は操業を続けているものの、ペルシャ湾からのメタノール出荷が滞留し、日本への供給が途絶えている。

アジアのナフサ指標(東京オープンスペック)は3月6日に1トン785ドルを付け、上昇圧力が続いている。

中国過剰供給で疲弊、再編中にホルムズ直撃

今回の供給ショックが深刻なのは、日本の石化産業がすでに体力を消耗していたためだ。

中国のエチレン生産能力は23年に5174万トンに達し、韓国の4倍の規模になった。中国産の安価な汎用化学品がアジア市場にあふれ、日本のエチレンプラントの稼働率は25年12月時点で77.1%と、好不調の目安とされる90%を41か月連続で下回っている。

韓国の麗川(ヨチョン)NCCは25年夏に第3工場(年産48万トン)を停止し、5000億ウォン規模の緊急資金支援を受けた。NCC稼働率は21年の93.1%から23年には74.0%に落ち込んでいる。

日本でも構造改革が進行中だった。旭化成、三井化学、三菱ケミカルの3社は26年1月、水島のエチレン設備(岡山県倉敷市)を30年度をめどに停止し、三井化学の大阪石油化学(大阪府高石市)に集約する基本契約を締結した。石油化学工業協会の工藤幸四郎会長(旭化成社長)は「26年は決断の年」と明言し、国内12基・620万トンの生産能力を8基・400万トン台に縮小する方向を示していた。

つまり今回の危機は、中国の供給過剰で収益が悪化し、稼働率が低迷し、再編の真っただ中にある日本の石化産業を、ホルムズ封鎖が直撃した構図だ。平時であれば一定の在庫と調達余地で対応できたが、体力を消耗した状態ではバッファーがない。

物流への波及:包装資材・樹脂パレット不足が4月に迫る

石化プラントの減産は、物流業界にとって対岸の火事ではない。

エチレンは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)の原料だ。PEは食品包装フィルムやEC(電子商取引)向け梱包袋、PPは樹脂パレットやコンテナ部品に使われる。日本の物流はこれらの石化製品に深く依存しており、とりわけ物流センターで使われる樹脂パレットはPPが主要素材だ。

石化プラントのナフサ在庫は国内全体で20日程度とみられる。3月1日前後に封鎖が始まったことを起点にすると、3月下旬には在庫の限界に達するプラントが出てくる。すでに三菱ケミカルが減産に入り、出光が停止の可能性を通知していることを考えれば、エチレン生産の本格的な縮小は3月後半から始まる。

エチレンからPEやPPが製品化され、さらに包装資材やパレットとして物流現場に届くまでには1-2か月のリードタイムがある。現時点で石化メーカーの減産が進んでいることは、4月以降に包装資材や樹脂パレットの供給が細ることを意味する。

さらに注意が必要なのは、石化プラントは一度停止すると再稼働に数週間を要することだ。分解炉の再立ち上げには時間がかかり、封鎖が解除されても供給回復は即座には進まない。つまり封鎖が仮に短期間で終わったとしても、物流資材への影響は数カ月にわたって残る。

物流企業にとって、今確認すべきことは3つある。

1つ目は、包装資材の在庫状況と調達先の確認だ。PE・PP由来の包装フィルム、梱包材、緩衝材について、現在の在庫日数と代替調達先を洗い出す必要がある。

2つ目は、樹脂パレットの供給体制だ。木製パレットへの一時的な切り替えが可能か、パレットレンタル会社の在庫状況はどうか、関係先への確認を急ぐべきだろう。

3つ目は、荷主への早期の情報共有だ。石化減産の影響が物流資材に波及するまでには時間差がある。今の段階で荷主と状況を共有し、4月以降の対応方針を協議しておくことが、混乱を最小化する鍵になる。

ホルムズ危機は、トラック燃料の高騰という形で運送業界を直撃しているが、石化原料の途絶を通じた物流資材不足というもう1つの衝撃波が、1-2か月遅れで押し寄せようとしている。

▲ホルムズ封鎖による石化減産と物流資材への波及経路(推計)(出典:編集部作成※石化工業協会データ、各社発表に基づく推計、クリックで拡大)

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。